4.キミエラ、貴族と会う
「――お待ちしておりましたエーリス様。わたくし、執事長のミハエルと申します。この老体めが御案内させて頂きます」
「くるしゅうない。面を上げえーい」
「ははあーっ」
巨大なる屋敷。
ノリの良い執事長殿に迎えられ、邸内へ。
なんと大きな邸宅だろう。驚いた。
……いや、流石に大き過ぎる。
大貴族とは聞いていたが。これ程とは。
聞けば、見渡せる範囲全てがゴルディウム家の敷地であるという。
本当に、随分な所へ来てしまった。
「……エーリス。やはり私は不安だ。君にここでの暮らしが出来るとは……」
「パツキンだから大丈夫だって!」
パツキンで押し通せるとも思えなくなってきた。
野生児の如き彼女だ。貴族の嗜みを学べるとは到底思えぬ。
不安はいや増す。不幸な事にならぬだろうか。
「……ご安心下さいキミエラ様。決してその様な事にはならないかと」
「む? ……すまぬ、顔に出ていただろうか」
「カタリナ様にお会いになれば、貴方様の不安も吹き飛ぶ事で御座いましょう。柔和な方で御座いますれば」
「……。…………」
……執事長殿の後ろを、二人でついていく。
周りにはなんとも華美な調度品。教会堂に負けず劣らず、多くの美術品が飾られている。
慣れぬ環境に緊張する私。対照的に気楽なエーリス。
この緊張。
恐らく、場に飲まれただけではあるまい。
「? どったのキミちゃん」
「いや。……」
「…………」
「――リナちゃーん! 久しぶりぃ~!」
「あ~! エリちゃ~ん待ってたよ~!!」
小部屋に通されたかと思うと、エーリスが駆け出して御婦人に抱き着く。
この方がベグリオ伯爵夫人――カタリナ殿。
女傑をイメージしていたのだが、大分違う。
おっとり然とした風貌の女性である。やさしそう。
屈託なき笑みでエーリスを抱き抱え、くるくると回っている。たのしそう。
「待っていたよ御二方。君が付き添いのキミエラ氏だね?」
「む。……キミエラ・エキドゥと申す。貴殿は?」
「グスタフ・フォン・ゴルディウム。病床の父に代わり、代理として当主を務めている者だ」
続いて現れたるは立派な紳士。
まるで絵本から飛び出してきたかのような、これぞ貴族といった風体。
常日頃から白馬に乗っていそうだ。馬がいないか探す。いなかった。
「グスタフ殿か。……申し訳ない。我々、貴人と接した経験が少なく。ご無礼は多々あると思うが……」
「まさか! むしろ『聖徒』の方に対し、我々こそ低頭して接さねばならぬというもの。お会いできて本当に光栄だ」
「む? いや、こちらこそ」
「この縁もきっと神のお導き。是非とも末永き付き合いを……」
「……」
ミューゼ殿が、私にこの任を預けた理由が分かってきた。
『聖徒』の肩書は、貴族階級にも充分通じるものらしい。
グスタフ殿からの熱い眼差しを受け、己が立場を再認識する。
握手している間、カタリナ殿は回り疲れ、床に倒れた。
そこに覆いかぶさり、じゃれつくエーリス。
とびっきりの笑顔。それを見る我々も、つられて笑う。
場が、温かな空気に包まれた。
不安は、杞憂だったようだ。
「――やあ。はじめましてエーリス。私はグスタフ。ゴルディウム家の当主代理……」
「! チンコパンチ!!!」
「ッア゜ア゜ア゜ア゜アァアアアァアア゜っンッア゜ッアァアアアアアァァ」
「ウオオオオオオオ私が新当主だアアァァァァァァッ!!」
やはり駄目かもしれない。




