7.クレインの再出発
自宅にて、飲む。
飲まにゃやってられん。
飲んだ所でやってられん。
ジジイの顔思い出したらまた腹たってきた。落ち着かないと。
落ち着くにはなんだ。パンダだ。パンダを見に行こう。
騎士団へお礼参りだ。俺は地獄の殺人鬼。団長の生首もいでやるぜ。
「……ん?」
武装準備をしていると、戸を叩く音。
パンダが来たのかもしれない。好都合である、保護してやろう。
密輸の算段をつけ、扉を開けてみると――。
「……なんだ、もう飲んでいるのかクレイン。やけ酒か?」
「あれ、ブレトン? ……この裏切り者! よくもギルド乗っ取りやがったな!?」
「どれ、私も付き合おう」
「許可してねえぞ裏切り者! オラオラ! クレインパンチを喰らえ!」
クレインパンチ(攻撃力2200)をいなされ、勝手に酒を注がれる。高い奴なのに。
しかしこいつが家までやってくるとは珍しい。妻子云々でいつもすぐ帰るくせに。
そして気付いた。こんな所に不倫候補者がいた。待ってろよブレトン妻。
「ブレトン。君の奥さんに会いたいんだけど」
「妻はお前のことが心底嫌いらしい」
「普通に傷ついた。もう帰れ裏切り者……」
「帰らん。お前に用がある」
「人を勝手に追放したうえに用だと!? どこまで図々し……」
「クレイン。お前、何に巻き込まれている?」
…………。
「――……。なにさぁ急に」
「気付いていたか? お前を追放後、ずっとミナトに尾行させていたんだが。……城に呼び出されたようだな」
「尾行? ちょっと。なんでまたそんなこと……」
「最近のお前が明らかにおかしかったのが一点。先日来た使者に、少し違和感を覚えたのが一点。……何かあるなと、そう思った」
「使者? なんか変なことでも喋ったのかいアンス君?」
「曰く、我々に『公務を任せたい』との話だったが……。何かおかしくないか? 国が冒険者に公務。その真意がいまいち掴めん。……わざわざ冒険者なんぞに、何を任せるつもりだ?」
「……国だって忙しいんじゃないの~? 冒険者ギルドだって一応国で管理してる団体だし。別に何もおかしいことないじゃない」
「このギルド、実力は高いが規模としては中程度に過ぎん。それに先日の様子では、明らかに我々幹部だけを値踏みしていた。……お前もあわせてたった5人。そんな人員に、一体何を任せるつもりだ? ……少数精鋭で固めるような任なら、国の人材で確実に十分だろう」
「……そりゃあ~僕たちがめっちゃ優秀だからじゃなーい?」
「そこは自負としてあるが。……お前が王なら、どこの馬の骨ともわからん冒険者風情に、信頼のおける仕事を任せられるか? 使者まで立てて……。やはりどうも、腑に落ちん」
「ほら。僕、陛下と仲良しこよしだからさ。その縁で頼まれただけだよ。……深い理由なんてないさ」
「そうだな、普通なら受け流す程度の違和感だが。……そこでお前の変調だ。元々妙な行動をする奴ではあったが、最近はいくらなんでも芯がなさすぎる。……普通、喜ばないか? 国から仕事を貰えるんだぞ? ……ギルド再建に奔走していた姿とは大違いだな」
「………………」
「故に、何か妙な計画にでも巻き込まれ……現実逃避でもしているんじゃないか。そう思ったのだ」
「っははあ。で、僕を除名してそいつを探ろうとした、と。やるねえブレトン」
「……で。一体、何があったんだ?」
「……それは言えない。口止めされてる」
「……だろうな」
「うん。実はここだけの話なんだけどもさ……」
「話すんかい」
「――魔王を、造るだと?」
「ですってよ! どうよ、荒唐無稽だとは思わんかい」
「魔王……聖典の『魔の君』の事か? ははあ。なるほど……」
「こんな意味わからん陰謀に巻き込まれちゃあ、やる気もなくなるってもんよ。どうよ、到底信じられな……」
「あり得る。うむ、大いにあり得る……!」
意外や意外。
質実、納得の表情。
「……。あり得るの?」
「クレイン。聖典には七つの予言が記されているが、その内容は知っているか?」
「あーなんだっけ? 戦争だの地震だの……」
「大戦、洪水、地震、大火、飢饉、疫病。そして最後に、終末。……これまでの六の予言は、全て的中してきた。故に終末思想が、今こうして恐れを持って受け入れられている」
「その程度、ながぁーい歴史の流れじゃそりゃ起こるでしょうよ。アホらしい」
「これら大災害から、人々を救った者がいる。六人、な」
「……」
「『聖者』の出現だ」
ああ。
なんだか見えてきたな。教会の目的。
「大災害が起こる度、『聖者』が現れ……奇跡によって民衆を救ってみせた。無限に食料を出しただの、雨を降らせただの、病を治しただの……。まさに奇跡としか言いようがない」
「……」
「聖者の出現により、教会は力を増していった。人々からの絶大な支持を得て、権力を拡大させていったのだ。ある時は国家を遥かに上回るほどの権勢を誇る程に。……災いと、救い。すべて自作自演であったと仮定すると……今回の『人造魔王』の件も納得できる」
「待って待って。人工的に地震すら起こしたってこと? 流石に無理でしょそれは……? 災害自体は普通に起こったもんなんじゃ?」
「普通では考え難いが……。教会が持つとされる、隠匿された魔法技術の噂もある。実は技術的に可能なのか、もしくはなんらかのトリックを用いたのか……」
「噂って……。ブレトンらしくもないなあ」
「その通りだな。しかし、全てが自作自演であるとしか思えない出来事があるのだ」
「……それは?」
「聖者には二種類いる。生涯の功績が認められ、死後に列聖される者。……『お告げ』により、生前から列聖される者」
「…………」
「六の予言において現れた聖者は、全て後者だ。……大災害が起こる直前に、列聖されているのだ。全員が、だ」
「まるで未来予知だねえ……」
「これぞ神の御業であると教会は喧伝してきたわけだが。……自らの手で災害を起こすことが可能であったとすればどうだ?」
「……今回がその自作自演の集大成、ってこと?」
「あり得る……むしろ自然だ……! 魔王によって引き起こされた終末を聖者が救うという、盛大な自作自演! そうなれば、教会の権威――エピクル教の信仰は、最早疑いようもないものとなろう」
「……その情報を掴んだお国が『勇者』を立てて、魔王倒しの功を横取りしちゃおう、と……」
「で、そいつにお前が抜擢されて。……立場上拒否も出来ず、さりとて特に名案も浮かばんから、なんとか回避しようとふざけ倒していたと。全て合点がいった」
「……僕だけならまだ良かったんだけどもねえ」
「そうか。我々も既に巻き込まれているのだな。それが『公務』か」
「どうも役者がいっぱい必要なご様子でしてね。……本当に悪いと、思ってる」
「……」
「すまない」
自分のせいで、みんなをわけのわからん話に巻き込んでしまった。
みんなに、合わせる顔もない。
……不甲斐ない。
「自分じゃもう、どうしていいんだか分からなくってさ。……ブレトン、君の意見を聞きたい所なんだけども」
「…………。なあクレイン。身近な人間の心配をするのは良いことだが。……そのせいでお前、重要なことを見落としているぞ。我々のことなんぞどうでもいいぐらい、もっと優先すべきことがあるだろう?」
「? なんだろ。二重帳簿の処分?」
「つけとらんわ。……例えば、魔王を自称する者が突然現れたとして。お前、どう思う?」
「……どうって言われてもなあ。……変な人だなぁ、って思うかな」
「そうだろう。魔王には、魔王たる実績が必要だ。多くの災厄を振りまいてようやく、民衆はそれを魔王と認めるのだ」
「そりゃそうだ。魔王っつーからには……。…………」
あっ。
「……」
「ようやく気付いたか? ……流石に鈍すぎるぞ」
「…………」
「国も、教会も。……何を犠牲にして、魔王の虚像を作り上げるつもりなんだ? ……何を贄とするつもりなんだ?」
「……………………」
「村のひとつやふたつ滅びでもしなければ。幾千の民が死ななければ。……誰が、魔王をそれと認める? ……何人が、魔王のために殺されるんだ?」
馬鹿か、俺は。
「結局。王がいくら国だ民だとのたまったところで。……この事実がある限り、空虚な世迷言だな。……単なる権力争いに終始しているようにしか聞こえん。民を犠牲にしてのな」
「……。いやあ、まいったな。本当にボケてたかな僕」
「仲間を優先して考えるのはお前の長所だがな。反面、近視眼的になるところは欠点だ。アホなんだから」
「うえーん返す言葉もないよぉ……」
「だから、一人で抱え込むな。しっかり巻き込めばいいだろう、我々を。……これぐらいの状況、楽しんで臨む奴らばかりなんだから」
「……冒険者、だもんねえ」
「お前の最大の武器は、周囲に集まってくれる人間だろう。そいつを活用せんでどうする」
「あらま、本当にそれが僕の魅力なんかね。……で、その武器の中でも特に優秀なブレトン君! 妙案はあるかな?」
「特にないです」
「このやろう」
「――ま、確かに現状の情報じゃあ打つ手なしだけどもね。方針だけははっきりしとこうか」
「うむ」
「国のボケどもを出し抜き、そんで教会のアホどもも出し抜き。……先んじて自称魔王を、秘密裏にぶっ飛ばす!」
「それしかないな」
「……難易度高くない?」
「ぶっちゃけ無理だとおもう」
「このやろう」
「が、知ってしまったからにはやるしかあるまい。気付かん方がよかったか?」
「まさかぁ。俄然やる気出てきちゃったよ。燃えてきたね」
「冒険者だから、な」
「冒険者だから、ね!」
「チャンスもある。……仮説が正しければ、教会はいずれ誰かを列聖するはずだ。その『聖者』こそ、魔王への最短の道になる」
「聖者様に簡単に近づけるとは思えないけれどもねえ」
「列聖を待つだけでなく、こちらでも能動的に情報を集めることにしよう。……本当の『勇者』となろうじゃないか、クレイン」
「誰にも知られない勇者様かあ。褒められそうにないね」
「私だけは見ているとも。……いや。我々だけは、見ているさ」
「……ちゃんとみんなにも話さなきゃね」
「ああ。頼れる『御一行』だ」
「正しさ」が見えだすと、途端に眼の前は明るくなるもんだ。
このランプで、昼を煌々と照らしてやろうじゃないか。
ぼんやり従うふりしつつ。権力争いしてるクソどもを出し抜いてやろう。
人生たのしくなってきたぜ。
「よし。方針も決まった所でクレインよ。早速だが……」
「うん! 早速……」
「もう一度ギルドを作ってくれ」
「もちろんすぐに戻るさ! さあ、マスターとして復帰だ! バリバリ動……っ。…………?」
「うむ」
「……? 作る? 何を?」
「ギルドを」
「……は?」
「――皆様! ミミリィ・キューカム! ミミリィ・キューカムでございます! 停滞するこの腐ったギルドに新たな光をもたらすは! ミミリィ! 新マスター、ミミリィでございます!!」
事務所前。
壇上、謎の新人。
熱を帯びる演説。湧き上がるオーディエンス。
「……なにこれ」
「お。ようやく来たかマスター。おかえり」
「遅いじゃないですの! 演説も終わりそうですわよ」
「…………いや、だから……。何、この状況……?」
「うむ。実はお前を追い出した後、持ち回りでマスターをやろう、という話になったのだが……」
「あはは……。ミミリィさんに任せた途端、ギルドごと乗っ取られちゃったようで……」
「幹部は全員追放だとよ」
「めっちゃウケますわね」
「……………………」
「――えぇー皆様! 上下関係なきギルドであります! 全員が対等なるギルドを作ることをお約束いたします! そして週休三日制の実現! 皆様に確実なる休日を!! また退職金制度の制定を――!」
「へえ! 週休三日だってよマスター」
「なかなか良さそうじゃありませんの」
「どうするクレイン。我々も入れてもらうか?」
「あ、あはは……」
「…………………………」
アホしかいねえぞ御一行。
11章 クレイン追放 ~終~




