6.クレインと悪意②
――馬車。
最悪の気分だ。腹が立ってしょうがない。
「よろしく」ときたもんだ。やっぱ人質じゃあねえか。
クソ、クソ、クソ。クソ。
自由になりたかったはずなのに。
俺はもう、鎖で雁字搦めだ。なにが自由だ。
自分だけならまだしも、身の回りの人間すらも。
ふざけやがって。ふざけやがって。ふざけやがって。
いつから、こうなった。
強くなりゃあ、自由になれると思った。
自由になりゃあ、幸福になれると思った。
結果はどうだ。幸せとは程遠い所に立ってやがる。
幸せを求めた先がこれじゃあ、人生ってのは甲斐がない。
そもそも、幸不幸っつーのがよくわからくなってきた。
良いことがあったと思えば、悪いことになっている。気付けばそいつがまた良いことになったり、ならなかったり。
幸福なんて物差しは、人間個人には手に余るんだろう。なるようにさせるしかない。
人生、別の物差しが必要だ。……どんな物差しだ?
――「正しさ」が、欲しい。少なくとも、今だけは。
しかしこの状況での正しさがなんなのかわからん。
使えねえ物差しだ。どうすりゃいいんだよ。
「…………」
「…………」
……アンス君が、心配そうに顔を伺ってくる。
表情に出ているんだろう。感情のコントロールは学んだつもりだったけれど。
「クレイン殿。お気分の程は……」
「……アンス君! よくもウサインタイムまでチクったな!? この薄情者!」
「職務上必要なことでして……」
「なにが職務だ! 僕はもう君を信用してないからね! 僕らの大切な一瞬を……」
「……クレイン殿。私、本当に同情しているのですよ。あなたが……そしてあなたのお仲間が、あまりに不憫で」
「……同情ったってねえ。君はジジイの味方じゃないか」
「無論、己が責務は全うするつもりですが……。私とて一個人の人間であり、心に思う事とてあるのです。私、改めてあなたと……その御一行様を、全力で支援することを決意いたした次第です。……公務上でも、個人的にも」
「……個人的、ねえ」
「巻き込まれてしまった以上、陛下の描く計画に組み込まれる他ございませんでしょうが……。その『物語』を、より良く彩ることは出来るはずです。私めは、全力でその支援をば……。あなたのため……」
「……」
「何か必要事がございますれば、是非とも私をお頼りください。全身全霊をもってお応えいたしましょうとも」
やけに熱っぽく語るアンス君。
いい若者だ。少しいたずらしすぎたかな。
ウサインタイムはこれっきりにしてあげよう。
「……そうだねえ。頼りにさせてもらおっかな。……なんかあったらすぐ連絡するよ」
「ええ。……些細なことでも構いません。是非とも、私を頼りに――」




