5.クレインと悪意①
「――なに考えてんだカス髭がああぁァァァァ」
みなさんこんにちは。クレイン・マツリアです。
クレインの暇つぶし探訪も佳境かもしれません。
アンス君に助けられやってきましたるはこちら、王城!
ブチ切れた陛下が眼の前にいます! ☆0とさせていただきます!
「たすけていただきありがとうございましたそれではおいとまさせていただきますさよならジジイ様」
「アンス。足の腱を切れ」
「御意に」
「御意にするんじゃねえ」
「クレインッ! 色々と言いたいことはあるがッ! ……ええい、本当に色々と言いたいことが多過ぎるが……ッ! ひとまず捕縛されていた件について申し開きせいッ!」
「一発ギャグ『アジの申し開き』! ……パカァ~ッ! ホワァッ! ってそれは単なるアジの開きやないかぁ~い!!」
「アンス。殺せ」
「御意に」
「本当に殺せ」
「御意に」
「弁護士をよんでくれ」
弁護士は来ず。
代わりにアンス君がポータブル断頭台を運んできた。
なんでこんな物騒なもん置いてんだ。宮廷だぞ。
「……よいかクレイン。お主、自分がどういう立場なのか自覚しとるのか……?」
「ただの無職でございますが……」
「ふざけんのも大概にせいッ! お前は『勇者』なのだッ! だというのに何の報告もせず、ウサギごっこに興じ、あろうことかにギルド除名! あまつさえ騎士団に拘束とは……!」
「ウサインタイムまで報告したのかアンス君。なんてことをするんだ、僕達だけの大切な時間を……」
「共有の秘密みたいな言い方しないでくださいませんか……」
「魔王復活は喫緊の問題なのだッ! ふざけとる場合じゃないのだぞッ!」
「……っつーかさあ! 魔王魔王って言いますけどねえ!? その詳細情報をなんにも知らされずに『倒してね』じゃあさあ!? そりゃこっちもやる気なんか出るわけないでしょお!? そもそも魔王ってなんなんですか!? いいかげん教えてくれたっていいでしょうよ!?」
「それは言えん」
「なんでですか!?」
「だって絶対言いふらすじゃんお前」
「それはそうだけど」
「アンス」
「御意に」
「御意の理解が迅速だな」
ポータブル断頭台が目の前に迫る。
絶賛売出中らしい。発案者はまさかのアンス君。
なんでこんなもん発案してんだこいつ。キャスターつけんな。
「……まあ、お主の言い分も分かっとる……。魔王が本格的に動き出してから話そうとは思ってはおったが……」
「いーま! いーま! なう! なうひあ!」
「……しょうがない。ある程度は教えてやろう。お主も納得せんだろうし……」
「陛下、よろしいので? 大臣閣下らとのご相談は……」
「大丈夫だ。仮にこいつが喋った所で誰も信じん。クレインだし」
「確かに」
「納得してんじゃねえ」
「――魔王が……造られる?」
「そうだ。もしくは既に、造られておる」
ジジイから飛び出した言葉。
「現れる」じゃなく、「造られる」。
……わからん。
「人造魔王、とでも言おうか。その情報を、我々は掴んだのだ」
「……意味がわからん。誰がそんなもん造ってんですか」
「教会だ」
「……」
「より具体的に言えば……大聖司教ギルダー主導の下、計画が進められている」
「……教会のトップじゃないですか」
「そうだ。だからお主にも言いたくなかったのだ。……これはな、国家と教会の対立なのだ。分かるだろう? あまりに大きな問題だ」
「……」
……アンス君からもらった要報告リスト。
ほぼ内容忘れたけど、ある一文だけは鮮明に覚えてる。
確か、教会……関係者の…………。一団が……一団の…………。
…………忘れた。
忘れたが、確かに教会という単語が出てきた。
魔王討伐でも競い合ってるのかとは思ったけど。
……魔王を、造る?
「教会が魔王を造って、って……。……それ、教会になんの益があるんです? 人類支配でも企んでんですか?」
「なんでだと思う?」
「さあ……」
「ふふん。ヒントはたくさんあるぞ。さあ考えろ、さあさあ! はい、答えをどうぞクレイン君!」
「クイズじゃねえんだぞ」
「ま、教会の思惑に関してはさほど重要じゃない。……要は、我々がその陰謀を逆手に取り、国家のために利用しようとしている、ということだな」
「……不安の払拭、でしたっけ?」
「そうだ。お誂え向きの『国家の敵』が現れんとしているのだ。こいつを最大限利用する」
「何がなんやら……。そもそもそんな情報、一体どうやって……」
「ハイ駄目ー! これ以上はもう教えてあげない! 極秘事項でーす! バーカ!」
「ノリノリになってきたなこのジジイ」
「確実性については間違いない、とだけは言っておく。……が、あちらも漏洩に気が付いた。今は諜報戦、といったところだな。ここにもあちらにも、多くの『裏切り者』がいる状況だ」
「ふーん。……わかったぞ! アンス君は裏切り者だな!」
「おやおや、バレてしまいましたか」
「もうアンス君ったら~」
「全くアンスったらお主はまったくもうっ。はっはっは」
「はっはっはっは」
「――とにかくだクレイン。国と教会……表面上は友好関係ではあるが、水面下では既に戦争は始まっているのだ」
「要は権力闘争っつーことですかい」
「……ま、その面も否定はせん。終末を乗り越えた先……上に立っているのはどちらか。……どうなることかのう」
「……一応改めて確認しますけど。この計画、本当に僕必要なんですかね? ……軍にしろ騎士団にしろ、優秀な人間いっぱいいるでしょう? やる気のない僕より遥かに……」
「無論、それらを総動員して最大の支援はするが。やはり魔王を倒すのはお主しかいない」
「……血筋ですか?」
「それが一番の理由だが……民衆からの支持、という面も考慮している。親しみやすさ、とでも言おうか」
「……支持?」
「国家最強の将軍閣下も、高潔なる騎士団長様も。……『冒険者クレイン』の人気には敵わん。そんなお主だからこそ、国民の不安を払拭する『物語』――魔王討伐譚となるのだ」
「……それマジで言ってるんです? 人気……?」
己の人気ぶりを思い出してみる。
仲間から糞髭と罵られ、酒場でも糞髭と罵られ、赤毛ちゃんにも糞髭と罵られた記憶が蘇る。
これで人気だったら全人類人気者じゃん。よかったねみんな。
「アンス君。サインあげる」
「結構です」
「これが人気者への反応だってかジジイ!」
「……お主が若い頃、宮廷内で起こした問題行動の数々……特に重臣をブン殴ったあの件。それ以降、廷臣からの評判は散々だ」
「でしょうね」
「しかし逆に……それが故に、民衆からの絶大な支持をお主は得たのだ。権力に屈さず立ち向かう人間だと、全国民に印象付けた。……面白いことに、権力側である貴族間でも、お主を慕う者は多い。それほどに痛快な事件だったからな」
「……」
「事実、お主の下には人が集まる。ここを追い出された時とて、たくさんの人間が手を差し伸べただろう? それこそがお主の真の才であり、魅力なのだ。『勇者』にもっとも必要な才能だ」
「なんだかなあ。納得出来かねるというか……。いっつも罵られてるんですけども……」
「それも親しみやすさが故だ。民衆にとって、対等な目線であり続ける『冒険者クレイン』だからこそ、『勇者』にふさわしい」
「うーん……」
「……そんなお前に付き従い、常日頃時間を共にしてきた仲間たち。それらが余の号令の下に立ち上がり、魔を討つ。……良い『物語』になるだろう? 民衆が最も好む『物語』だ」
「……。…………」
「……とにかくさっさとギルドに戻らせてもらえ。戯れでの除名とは聞いておる。……さあ、これで話はしまいだ」
「…………じゃ、帰らせていただきます。さよーなら……」
……どんよりした気持ちで、帰り支度。
結局、なし崩し的に勇者続行か。
この程度の面目の潰れ方じゃあ、諦めちゃくれない。
やっぱ不倫するしかないか……。人気者は辛いや。
「――そうだ。クレイン、最後に」
「っあーはいはいはいはいなんでございましょうか」
「お主がどれほど無気力さを見せつけようと。無能になろうとしようと」
「……」
「……もう抜けられんし、抜けさせるつもりもない。何があろうと、だ」
「…………」
「誰が何と言おうと。余だけはお主の才を、魅力を、強さを、確信している。『愛』と言ってもいいかもな、ははは。……お主こそ『物語』の主人公にふさわしい」
「……さようなら」
「『御一行』にもよろしくな。……皆が、息災で任を迎えられるよう……心の底から願っているぞ。心の底から、なあ」
「…………。本当に一回、ブン殴ってやろうか」
「優しいお主にゃ無理だ。じゃあなクレイン、愛しておるぞ」
「俺も愛してんぜ、ひとでなし」
「……それだ、その顔……! やっぱりお主はクレインだ……! あの時のままのクレインだ……! ぞくぞくするなぁ、ふふふ……。ははは……!」
胸糞悪ぃ。




