4.クレインの策略
「いい加減まともに動くか」
お茶漬けフィーバーに雑草フィーバーで無駄に時間を過ごした。
その上アテクちゃんは口をきいてくれなくなり、「糞髭が」の捨て台詞を残し去っていってしまった。
あんなに懐いてくれていた彼女の心変わり。一体何があったというのだろう。悲しいものだ。
冒険とはまさに一期一会。
「今日は正義に染まろう」
果てしなき無為を補うため、社会貢献をしよう。
正義のためには無償奉仕も辞さぬ覚悟。
強き決意の中、久方ぶりに旧友を訪ねに行くことにした。
……そんなわけで!
クレインの暇つぶし探訪、本日はこちら! 自警団の北支部詰め所!
僕の昔なじみの友人が支部団長としてここに勤めています! 名前はフィデック! イケメンだぞ!
この国における自警団は、わるーい人達の身体拘束が正式に認められている民間団体です!
国家所属の騎士さんたちと連携し、日夜僕らの平和を守ってくれています! えらい!
騎士さんとは違い、平民でもなれることから目指す人達もいっぱいですね!
「そんな彼らの運営費用は貴族からの莫大な寄付金が主! 権力との癒着は間違いありません! 闇を感じますね~!」
「口髭のおっさんが独り言いいながら入ってきた怖い……。なんだアンタは……」
「俺は地獄の殺人鬼! 団長の生首差し出しな! 全員あの世に招待してやるぜ!」
――冗談が通じず、拘束される。
拘束なんて生易しいもんじゃない。背骨が折れるギリギリのキャメルクラッチ。いっぱい泣いた。
レビューは☆1とさせていただきます。
「ごめんなじゃいいぃい冗談なんですうぅ……っ。団長しゃんに合わせてくらしゃいいぃ……っお友達なんですうぅ……っ」
「嘘をつくな犯罪者め」
「クレインでしゅうぅぅ……。クレイン・マツリアっていいますぅ……」
「クレイン? クレインって、あの有名冒険者の……」
「そうですうぅ……」
「……」
「……」
「お前みたいな奴があの高名なクレインのわけねえだろ! そこで反省してろ!」
「やだちょっとうれしい」
ときめく胸をおさえつつ、檻の中で反省。
この檻、おそらく動物用である。狭すぎて最早拷問の域にまで達している。
こんなのが許されるなんて野蛮だ。人権意識に欠けている。いつか闇を暴かなくては。
それにしてもつらい。歌でもうたわなきゃやってられん。
「おっかさん、マリついて、どこきえたァ~。おっとさん、ゲタはいて、かごのなかァ~……」
「不気味なわらべうたを歌うな……。頼むから……頼むから大人しくしてくれ……」
エクストリームな姿勢で数時間。
美声で見張りの精神を削っていたら、見覚えのある姿がようやく。
「……私の知り合いを自称する輩だと? 彼か?」
「ああーようやくきた! 聞いてくれよフィデック! こいつらひどいんだ! 不当逮捕だ! 拷問だ! 人権意識のかけらもないんだ!! ジョークを真に受けやがって!!」
「……? ………………」
「ん? ………………」
「!? 誰だお前!? フィデックは!!?」
「!? こっちのセリフだ誰だ貴様はッ!!?」
やべえ支部間違えた。
知らねえ団長さんだ。誰だこいつ。
事情を懇切丁寧に説明し、希望支部への移送を懇願する。
友に会えさえすれば。会えさえすれば誤解は解ける。
「騎士団へ引き渡せ」
「びえええん……」
――檻ごと馬車に乗せられ騎士団へ。
騎士団は皆さんご存知、国が誇る治安組織ですね。
身分の高い人やお金持ちばかりが働いています。☆1とさせていただきます。
自警団が捕まえた悪い奴はここへ移され、即座に罰せられます。
よっぽどでないと裁判もやってくれません。なんて希薄な人権意識でしょう、☆1とさせていただきます。
「やばい。どっかに知り合いいないか……?」
流石にまずい。このままでは罰金間違いなしである。
税金の次に嫌いなのが罰金です。以前こいつで破産し全てを失いました。
貴族の偉い人ブン殴っただけなのに。何も悪いことしてないのに。
「クレインです……。誰か知っている方はいないでしょうか……。クレインです……」
檻(畜生用)からのか細き声は誰にも届かず、消えていく。
薄情だ。なんというかみんな目が冷たい。
というかそろそろ人間用の牢に移してほしい。交渉する。
「駄目だ、牢は満員で入れん。そこで大人しくしていろ」
「満員ったって一人ぐらい入れるだろ!」
「いいや駄目だ。もう限界なのだ」
「なんでそんなにいっぱいなのさ!」
「パンダで溢れているのだ」
「やっぱ繁殖してんのかよ」
人よりパンダ優先とは偉い。これぞ愛護精神である。
そういやさっきから騎士達がせっせと大量の笹を運んでいる。
なんでパンダ捕獲してんだこいつら。なんの目的だ。密輸か。
「笹あつめする騎士はじめて見た」
「ははは。笹じゃありませんよユーカリです」
「コアラの方だそれは」
「パンダ見せて!」「駄目だ」のやり取りを数度繰り返し、要求が通らぬことを悟る。
腹いせにスキル「鎮魂わらべうた」を駆使し、騎士さんたちの精神を削ることに。
檻をガンガン蹴られた。やめた。一切を諦めた。さよなら僕のお金。
なんて休日だ。
「――ま。いっかあ」
予定していた暇つぶしとは大分変わったけれど、これも悪くない。
事実、暇は潰せている。そして面目も潰れている。
これがなかなか妙案な気がしている。
「騎士さんもそう思うよね」
「そうだね」
「生返事だぁ」
こうやってふざけ倒していれば。
信頼は失うだろうが、「面倒事」からは逃げられるかもしれない。
呆れて呆れて、呆れさせてやろう。もっと醜聞を撒き散らそう。糞髭の名と共に。
醜聞の代表といったら不倫。不倫をするには結婚しなくちゃ。
罰金払ったら、結婚相手を探しにいこう。そんで不貞行為に及ぼう。
人生たのしくなってきたぜ。
たのしくなってきたのも束の間。
「クレイン・マツリア。もう出ていいぞ」
「え?」
「お迎えだ」
突然檻から引きずり出される。体中バキバキ。
何事かと顔を上げると、見知った顔。
長身、オールバックの若者が、呆れて僕を見ている。
「クレイン殿……。あなたは一体何を……」
「うわっ……」
――アンス君。




