3.クレイン揚々
「――D級冒険者のクレインでぇ~~~っす仕事くだしあぁーい」
「ええ……?」
お久しぶりです、クレイン・マツリアです。
本日の暇つぶし探訪はこちら! 個人冒険者用に設けられた、クエスト斡旋所!
要は日雇い労働者のための施設です。今の僕にピッタリですね。
見渡せば、明らかにすねが傷だらけっぽい奴らしかいません。酒飲んでる奴までいます。
ほとんどがギルドに入れぬ荒くれ者の集まりですね。
なんか怖いので☆1の評価とさせていただきます。
「ですがこんな場所でも『掘り出し者』が見つかる場合もあり、スカウト目的で訪れる冒険者もいるんです! シルティ君やリリデス君も最初はここを利用していたんですね~」
「独り言怖っ……。ええと、クレインさんですよね? ご要件は人材発掘でしょうか?」
「いんや。今日はお仕事を探しにきたんだけども」
「? ギルド所属者はご利用できませんよ」
「いやあ実は追い出されちゃって」
「あーとうとう。そういうことでしたらこちらにどうぞ」
「『とうとう』が気になるけど許す。……思えば利用すんの初めてだなあ。どんなお仕事あんの?」
「逃げたペットの捜索はどうでしょう? 薬草採取も常時受付中ですよ」
「どっちもしょっぱいなァ……。これでもベテラン冒険者なんだからさあ、魔物討伐とかやりたいんだけど!」
「そういうのは全て受注終わってますね。グリズリーの駆除依頼でしたらありますが」
「あーだめだめ! クマさんなんて殺したら愛護団体から苦情きちゃう! 他にはないの?」
「あとはパンダの駆除依頼が」
「それはもう国際問題だろ」
誰が依頼してんだこんなもん。保護しろ保護。
その後もあれこれ聞いたけどろくな依頼がねえ。
仕方なしに薬草採取しながらのペット捜索で暇を潰す。
「で、ペットは何を探せばいいんだい? ワンちゃん? ニャンちゃん?」
「複数件ありまして。犬に猫、インコにスライム……」
「スライムまで飼うご時世ときたもんだ! 怖いもんだねえ、よく飼い慣らすもんだよ」
「あとはパンダですね」
「パンダ大繁殖してんのかよここ」
迷子パンダの特徴を聞く。
白い毛並みに黒い目元とのこと。パンダである。
保護対象パンダと駆除対象パンダの見分けつかねえぞどうすんだ。
「それにしても本当にペットの管理が出来ていない飼い主が多いですよね……。動物愛護の精神からいって不快と言わざるを得ません!」
「動物愛護の精神持ってる奴がパンダの駆除斡旋してんじゃねえ」
* * * * *
「――お。これ摘んでいこ」
郊外のとある森。
キノコやら薬草やらの採取にはもってこいだけど、あんまり来たことはない。
基本、そういうお仕事は泡沫ギルドが糊口をしのぐためにやるぐらいのもんだ。
僕のギルドには縁のないお仕事でございましてよ。んふ。んっふ。
「脳内マウントもとったところで存分に探すか」
捜索対象である畜生どもの名を叫び、森の中を爆走してみる。
僕以外の人影はない。街中では決して出来ないような大声で走り回ってみる。
気持ちいい。
「ペディちゃあぁあっはぁああ~~~ん! ウォーリィっきゅぅうううっふぅう~~~ん! メンマっちゃっはあぁぁっはぁぁああ~~~っはあん!」
とてもいい。最高だ。すごくいい。っはあぁあん。
外で全力の奇声。なんて素晴らしいストレス発散だろう。
誰もいないって最高。っはああぁぁああん。
「!!? え!? 何者ッ!?」
「めっっっっっちゃはずかしい」
普通に人いた。恥ずかしクレイン。
あんまり恥ずかしいので顔を覆いながら再爆走する。
僕が有名なギルドマスタークレイン(追放中)と気付かれては沽券に関わる。
「!? あれ!? もしかしてクレインさんッスか……!? クレインさんッスよね!? あ! なんで逃げるんスか!? クレインさん! クレインさぁーん!?」
「モロバレやんけ」
「――いやあ、まさかあのクレインさんに会えるとは! お話はいろいろ聞いてるッスよ! 来てみるもんだな~!」
「君、先の件は忘れてくれたまえ。このやけにまっすぐな木の棒をあげるから……」
「いらねッス。……でも気持ちは分かるッスよ! なんなら二人で叫びましょうよ! あたしもめっちゃストレスたまってて~!」
「マジ? やっちゃう? やっちゃおっか~!」
二人できたねぇ奇声を発しながら爆走する。たのしいぜ。
妙に気があったこの子はアテクちゃん。大きな目をした、三つ編み赤毛の明るい女の子。
冒険者ではないらしいけれど、なんでもお金に困って斡旋所へ来たという。
「給料を平気で未払いするような最悪の職場で……。休日返上でこうして稼いでるんスよ~……」
「かわいそう……。おじさんが支援してあげるねぇ……。さっき拾った土あげちゃう。内緒だよぉ……」
「いらねッス」
「で、首尾はどうだい? あんまり採取できてなさそうだけど」
「実は薬草とかよくわかんなくって……。図鑑見ながら探してるんスけどさっぱりッスねえ」
「そりゃあいかん、日が暮れちゃうよ。おじさんがいっぱい教えてあげるねぇ……!」
「言い方はクソキモいッスけどマジありがてぇッス!」
「ほーら、これはニガヨモグサ。整腸作用があるんだ。こいつがハマイナスソウ。麻酔に使われてるよ。特徴はこの葉脈で……」
「ふんふん。メモメモ……」
手取り足取り、主要な薬草を教えてあげる。
こういう交流こそ冒険の醍醐味。おじさん冥利に尽きますなァ。
アテクちゃんも熱心に質問してくる。こんなに頼りにされることなんて最近なかった。うれしいぃ……。
そのうえ彼女、僕自身にも興味があるらしい。冒険譚をとにかく聞いてくる。
うれししゅぎるぅ……。
「古城探索の逸話とか有名ッスよね! 最上階に眠る謎の怪物、それを守る怪異の数々……! クレインさんとその仲間たちの奮闘! いやー興奮したッス!」
「ええーすごい! そんな話も知ってるのォ?」
「もちろんッス! この冒険譚聞いてからファンッスもん! だから一度お会いしたかったんスよ! 今すっげー興奮してるッス!」
ッああぁあ~嬉しいィ~~~。
気ッ持ちいいぃぃ~。めっちゃ尊敬されてるゥ~~~。
でも君の大好きなその話は全部フィクションだよォ~~~。なんだろ古城ってぇ~~~。
野暮だから言わないけどもォ~~~。ぉぉん嬉ッしいィィ~。
「そうそうクレインさんといえば! 個人的にめっちゃ縁を感じてることあってぇ! 面白い話あるんスよ!」
「縁!? なになに!?」
「先日あたしらの主人がぁ! マジムカつくことに、シルっ……っ。…………ッ」
「ん? 汁?」
「………………」
「………………?」
「……あ、これなんつー草ッスか? 薬草ッスか? 採っちゃっていいッスか?」
「? ああ、これはねぇ……」
「――今日はほんとに助かったッスクレインさん! 色々教えてもらっちゃって~! 薬草いっぱい覚えたッス!」
二人で籠いっぱいに採集して帰還。
本当に満たされた時間だった……。来てみるもんだ斡旋所……。最高……。
これはなんとも可愛らしい『掘り出し者』を見つけてしまったかもしれないぞ。
「僕もとっても楽しかったよ! アテクちゃん、このまま冒険者になるつもりはない? 明るい子は大歓迎だよ~!」
「え? うーん、すっげー興味はあるッスけど……。ごめんなさい! 理由があってどうしても無理ッス! 今の職場を奇跡的にやめられた時は是非ともお願いしたいッス!」
「そっか~! じゃあ明日からよろしくね! みんなにも話しておくから!」
「話聞いてる?」
諦めずに同じ話を繰り返すも駄目であった。
こういう子がいてくれたら僕の自尊心も満たせるのに。
毎日やる気いっぱいなのにぃ。うええん。
「ま、しょうがないかあ。早速納品してお金を受け取ろう!」
「そうッスね! 受付さん、これお願いするッス! 薬草たんまりッスよ!」
「はい。ではこちらに……。…………」
「初めてのクエスト達成ッス! 嬉しいッスね~!」
「……あの、すみません。お二方」
「はい! なんスか?」
「これ全部雑草なんですが」
「僕、薬草なんて知らんし(笑)」
――彼女の目。
信じられないものを――理解の及ばぬものを眺めるような、目。
困惑と恐怖、そして失望が入り混じった視線が、今でも忘れられない。
☆★☆クレインの暇つぶし探訪、明日もおたのしみに!☆★☆




