1.クレイン追放
「なんでやねん」
クレインの絶叫が響き渡った。
だがメンバー誰もが当然だと思っていた。私だって思っていた。
ただ一人、除名を言い渡された張本人――クレインだけが納得していなかった。
度重なる職務放棄を行っていた、その本人だけが。
「クレイン。だからお前は――追放だ」
「だからなんでやねん」
毅然。背筋を伸ばし、はっきりと前を見据える新マスターブレトン。
その瞳に穢れなどなく、己が信念を確信するよう澄んでいる。
確固たる眼で、彼は言葉を続ける。
「我らがS級ギルド『昼のランプ』に、お前の実力ではついていけない」
「S級ってなんだよそんな設定ねえだろ」
無論ギルドにも等級がある。
SSS級ギルド「昼のランプ」にとって、D級冒険者クレインは糞雑魚もいいところ。
追放であった。
「Sの数安定しねえしD級認定されてるし」
「テメェが雑魚すぎて俺達の格も下がるッつってんだよ!? 分かったら荷物まとめて出てけやダボハゼがッ!!」
「入り込みすぎだろスティキュラ君……。マジで怖いんだけど……」
「わたくし達が戦闘で体を張っている中、あなたは支援と称し後方でダンスを踊ってばかり……。当然ですわね!」
「ダンスにバフ効果があるタイプの世界だったのここ……?」
「グェヒィ~ッヒァッヒァッヒァッ……。手切れ金受け取ってさっさと姿を消すといいですよクレインさん……ゲヒァヒャヒヒハハァ……!」
「……誰だと思ったらミナト君かよ!? ゲス笑いうますぎんだろそんなとこに磨きかけんなよ!!」
「そういう訳だクレイン。さらば」
「いままで楽しかったぜ」
「さあおかえりなさいまし」
「グヒァッ、グヒァッ、グヒァッ……」
「だからなんで僕追放されてんの!? ちゃんと説明してよもう!!」
無論ギルドメンバーにも言い分がある。
日夜汗をかき働く我々にとって、コーヒーを飲むだけで一日を過ごすクレインは邪魔もいいところ。
追放であった。
「つーかさっきから誰目線で話展開してんだよ。誰なんだお前は」
――新人メンバー、ミミリィ・キューカムの目線であった。
子供の頃から冒険者を目指していたちょっと変わったしかし可愛らしく美人の女の子。
特徴は鮮やかな桃色の髪、背丈は小柄ながら巨乳の持ち主。趣味は野菜作り、得意武器は鞭。AB型。
好みの男性は儚き狩人ことミナトさん。きゃっ。
敵の攻撃により石化した彼をロビーに飾り、その絶望に塗れた顔を一日中眺めていたい――。
そんな淡い恋心を胸に秘めた、元気いっぱいの大型新人冒険者である。
「クソほどいらねぇ自分語りしてきた上に特殊性癖持ってやがる……。こいつこそ追放しろよ……」
「あ、あはは……。…………」
「ほらもうゲス笑いできないぐらいひいてんじゃん! ちゃんとケアしてあげてよね君たち……」
騒ぎを前にとうとう観念したか、静かに席を立ち上がる糞髭。
瞳が泳ぐ。確固たる自信、そして口の髭が揺らいだ。
「とうとう行動捏造してきやがったぞこいつ」
「騒ぎを前にとうとう観念したか、静かに席を立ち上がる糞髭。瞳が泳ぐ。確固たる自信、そして口の髭が揺らいだ……」
「ゴリ押しかよ。……謎の新人はいいからちゃんと説明してよブレトン……」
「うむ。先日、お前の悪口で盛り上がってな。そういうことになってしまった、許せ」
「ノリでマスター追放はまあまあ斬新だな」
「まあ、そういうことだから少し休んでおけ。最近目に見えておかしかったしな。たまの休養もいいだろう」
「そういうこった。そんじゃまたなマスター! 頭はっきりしたら戻ってこいよ!」
「ごきげんよう」
「あはは。また今度」
「マジでぇ~……?」
追放であった。
明日からのよろしくはなかった。
発狂するマスターを尻目に、擦り切れた修道服をひるがえし去っていくリリデス。
明日から果たしてどうなるのか、見当もつかなかった。
「文章改変失敗してんぞミミリィ君」
「明日から果たしてどうなるのか、見当もつかなかった……」
「あくまでゴリ押しだよこいつ」




