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「宗教勧誘しただけなのに追放されそうです……」  作者: 頭いたお
10章 シルティはたっとき御令嬢
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8.シルティはすくわれぬ御令嬢

「――やあ。遅かったじゃないかリリデス氏。昨日あたり来るかと思っていたが」



 書斎、でしょうか。

 きらびやかな設えながら、落ち着きある室内。

 部屋の奥に座すは、グスタフ卿。



 何より気になるのが、デスクの脇。

 イーゼルにかけられた、三つのキャンバスらしき物。

 布で覆われ、どんな画なのかは分かりませんが……。

 これが「準備」でしょうか?



「そこにかけてくれたまえ。……いや、そんなに身構えることはないよ。リラックスしてくれ」


「……」



 野次馬の方々に、背中を押されながら来ましたが。

 無策で相対するには、些か苦しい状況を感じます。



 迷いの見えない相貌。

 決意を固めきったような、堂々たる態度。

 彼を翻意させる方法など、まるでないような。




「……。先程、使用人の方々とお話したのですが」


「めっちゃ聞こえてきた。あのクソメイドは減給処分にするとして……」


(おいたわしや……)


「まあ、君も聞いた通りだ。この結婚、あまり周囲に望まれていないようでね」


「それを知った上でなお、あなたは……」


「おっと。使用人達の話ばかりが全てだとは思わないでくれたまえ。……シルティが君に洗脳され、危険な状況にいると考えている者達だって少なくないよ。……なればこそ、この無理な結婚にも大義名分がつく」


「……っ」


「ああ、君が気にする必要はないんだ。周囲の反応がどうだろうと、いずれは決行しようと思っていたことだから」


「……。あなたの決断、どうしても不幸な結果を招くとしか思えないのです。シルティさんにしろ、あなた御自身にしろ……。どうか今一度、ご再考していただくことは……」


「無理だな。シルティが結婚するならそれで良し。しないならギーゼル家は潰す。決して譲らん」


「……そこまで覚悟をお決めになっているのでしたら、何故私をここへ通したのです?」


「理由は二つ。……私はね、君を深く尊敬しているんだ。そんなお客人を無下に追い返すなんて無礼はしないよ」


「尊敬?」


「君もモジャ氏も、あのシルティが心を許した人物。先日の彼女を見て、それはよく分かった。……あんなにも柔らかい表情は、初めて見たよ。……昔の彼女は、もっと冷たい顔をしていた」


「……」


「それに……あれほど『冗談』を飛ばす姿にも驚いた。砕けた会話を好むシルティなんて、私の思い出の中にはいない……。……きっと、君達が変えたんだろうね。冒険者という環境が、彼女を柔和にしたんだろう。それは喜ぶべきことだ。そういう影響を与えた君達に、私は敬意を払っている。だから通した」


「……二つ目の理由は?」


「そんな尊敬する君達からさ……。祝福されたいんだ」


「……は?」


「結婚とは、誰からも祝福されるべきものでなくてはならない。当たり前だろう? しかし現状、それが難しい。……少なくともシルティの仲間たちに、祝福してもらいたいんだ。この結婚を、心から君達に認めてもらいたい。……だから君と、こうして話したかった。……祝ってもらいたいんだ、私達を」


「……無理です。無理ですよグスタフ卿……。それが出来ないからこそ、私はここに……」


「ああ、そうだろう。君を納得させる言葉を、私は持たない。……だから、こいつを用意した」




 指差す先には、例のキャンバス。




「こいつを君に贈ろうと思ってね。……私の持つ美術品の中でも、最も高価な品々だ。……気にいると思うんだが」


「……物で釣ろう、と? ……そんなもので人の心がどうにかなると、本気で思っているのですか? あまりに浅ましいではありませんか、グスタフ卿……」


「経験上、金で動く心もあることは知っているからね。……まあ見給えよ」



 取りのけられた布。

 ……子供の肖像のようですが、私には響きません。

 物品で人心を操らんとする彼に、憐れみすら覚えます。



「……もう結構です、こんなもの。これ以上はあなたの品位に関わりますよ」


「そうかい? 素晴らしい絵だと思うのだが……」


「……」



 ……素晴らしい品であることは間違いないのでしょう。

 描かれているのは、利発そうな眼をした女の子。

 媚びぬ凛々しき視線、しかし隠せぬ愛嬌は確かに可愛らしく。

 黒き背景に映える白き肌と銀髪には美しさを感じ……。…………。

 ……銀髪には……。美しさ…………。





 ……銀。…………銀髪?

 …………? …………………………。

 ……………………………………………………。





「ッッッ!!?!?!? シルティさんッ!??!?」


「こちら七歳シルティとなります」


「七歳シルティさんッッッ!!???!?!」




 七歳シルティさんッッ!!?!?!!?! 

 ……シルティさん七歳ッッッ!!??!?!?

 …………七歳ッッ!?!?!??!!?!???!




「フフフ……。どうだ、きっと気に入ると思ったんだ、フフ……」


「ちょ、ちょ、ちょちょちょちょっと待ッ、待ッ、待ッ!!? な、な、な……ッ何故こんな、こんなものが……ッ!!?」


「うむ。ギーゼル家は七五三の祝に肖像画を描くらしいのだが……。その画家に忠実な複製を頼んでね。フフ……」


「七五三行事あるんですかギーゼル家!!?!?」


「それよりどうだ、七つにして既に凛とした表情、しかし漏れ出る子供ながらの愛らしさ。天使としか言えん……」


「ウ、ウウーッ!!? アアッ……! オアアッ……!? ッッッはああぁあぁあぁん……ッ!!?」


「そしてこちらが五歳シルティとなります」


「ア゜ッ!?!?!?!?!?!????!?!?!?」



 アァーッ!!???!!?

 五歳シルティさん……五歳シルティさんッ!!???!?

 七歳時よりもふっくらしていてまるっこい目のシルティさんがッ!??!?

 あああッ!?  ああ、あああああ――ッッかわッッッッッッ!?!?!?



「一層無垢を感じるこの顔……。今のシルティには決して出せぬあどけなさ……。最早見れぬ三つ編み……」


「ッアアアァァーッ!!? 首ッ!? 首元のほくろが今よりちょっと濃いッ!!??!?」


「素晴らしき観察眼だリリデス氏。着眼点に若干のキモさを覚えるが……」


「あなたに言われたくありませんがッ!!?」


「フ……そんなことより七五三だぞ、七五三。…‥わかるかこの意味が」


「…………ッッッ!! つ、つまり……つまりッ!!?」


「そうだ。こちらに三歳シルティが……」


「…………ッッッ!」


「…………」


「…………ッ?」


「さて、見せるのはここまでだ。ふふふ、ふっふふっふ……」


「ッッッ!!?!?? ウウウ~~~ッ!!? ウウウゥ~~~ッ!!?」


「もちろん見せるだけじゃなく……。君に譲るつもり……なんだがなァ~~~……?」


「ッッッッッァァ!?!!!???!?」




 七五三シルティさんが!!!??!!

 ……譲る!!!??!?

 譲られちゃう!!???!?!?

 足して十五シルティさんがご自宅に!??!?!??




 …………~~~~~~~ッッッ!!!

 ……………………ッッッ。

 ……………………。




「……い、いや!? 騙されませんからねッ!!? 物で釣ろうなどとそんな!!?」


「クソ、駄目だったか……」


「当たり前ですッ!! 私は毎日、正真正銘の(ナマ)シルティさんを毎日この目で拝んでいるのですからッ!!」


(ナマ)シルティとか言うな、なんかアレな感じに聞こえてドキドキするだろうが……!」


「そ、それは失礼……」


「まあそんならしょうがない。こいつは片付けるか……」


「アッ……! さ、三歳……ッ。ひ、一目だけ……」


「駄目」


「ノ、ノブレス・オブリージュ! ノブレス・オブリージュ!!」


「三歳シルティを見せる貴族的義務なぞどの世界にも存在せん……」


「んぐぅ~~~~~~ッ!!!??!??」








「――じゃあこいつはどうだ。七五三シルティとは違う品だが……」


「ウッ!? こ、今度はなんです、その箱は……!?」


「フフフ、そんなに警戒しなくったっていい……。なに、大したことのない品だよ。ほらごらん……」



 机から取り出したるは細長き木箱。

 ねっとり、焦らすように蓋が開けられます……。

 出て来たのは……。…………?



「……ッ? な、なんですその……。……え?」



 ……何かキラキラとしたものが。

 差し込む光を美しく反射する、銀の……。

 …………銀?




「こちらシルティの髪一房となります」


「髪ッ!!!?!?!? …………ッ髪!!?!??」


「ギーゼル家は血が濃ければ濃い程、その容姿は銀に輝くという……。鏡と見紛わんばかりの眩さ、まさにシルティはその極地……! ああ美し過ぎる……」


「……何故ッッ!!? どこでッ!!? ……髪ッ!?!??!?!?」


「うむ。以前、ギーゼル家お抱えの理髪師を買収してね。シルティの散髪時にくすねてきてもらったのだ」


「流石に行為が変態じみてませんッ!!?」


「今思えば自分でも引くレベルの若気の至りではあったが……。しかしフフ、どうだフフフ、こうしてシルティの美しき髪がフフフ……」


「自覚しているなら処分しては!!?」


「そうだな、そろそろ処分するか。……誰かに譲り渡してもいいかなァ~~~? なんて……」


「ッッッグウゥ~~~~ッ!!?!?」


「こいつがあれば……ご家庭でもシルティの髪が、堪能し放題……なんだがなァ~~~」


「ッッッッッォァァ!!?!?!??!?!?!?!」




 ご家庭でも!!??!?

 ご家庭でもシルティさんの髪の毛が!!?!??

 堪能できちゃうッ!!?!!?




「そのうえ送料無料」


「送料無料ッッ!?!?!?!?!?」




 お得では!!?!!?

 まことお得なのではッ!!??!?!?

 ご購入を検討された方がいいのではッ!!?!??




 ~~~~~~ッ!!!

 ………………ッッッ。

 ………………………………。




「……いやだから騙されませんよ!!? なんですか送料無料って!!?」


「クソ、これでも駄目か……」


「あ、当たり前ですッ! なにせ私は(ナマ)シルティさんヘアーを毎日この目に焼き付けているのですからッ!!」


「だから(ナマ)シルティヘアーとか言うなよ!? 一層アレなアレに聞こえるだろうが……!」


「そ、そんなつもりは……っ!?」


「全く、シルティがこんな発言聞いたらドン引きものだぞ……!」


「この一連の流れがドン引きされる内容では……!?」


「痛い所を突くんじゃない! 毛髪に関しては自分の中でもギリギリの線上だというのに……ッ」


「一般的に言えば完全にアウトですからね!?」


「ぐっ……。わ、わかった。確かにまあ、そうだな……。流石にこれは処分しよう……。見なかったことにしてくれたまえ……」


「……あ。ひ、ひと撫で……。ひと撫でだけでも……」


「だから駄目」


「ノ、ノブレージュ! ノブレージュッ!!」


「略すな」











「――さて。案の定、我が交渉は失敗に終わった訳だが」


「当然でしょう……っ」


「むしろ思いの外成功しそうなんでちょっと驚いたぞ。大丈夫か君……」


「わ、私を弄ばないでください……っ!」


「ま、当然無理なことは分かっていたからいいよ。……知りたかった君のことも、より理解出来た気がする。いい反応だったよリリデス氏」


「……え?」


「世間で言われている程、邪悪な人間ではなさそうで安心したよ。随分と素直で、楽しい子だ。……シルティが面倒を見たがる気持ちも、分かる気がするな」


「……まさか、私を招いた本当の理由はそれですか?」


「恐らく君は、シルティとってかけがえのない友人となる人間だからね。……貴族社会に馴染めぬ彼女にとって、君こそが結婚後の支えとなる。『夫』としては気になった訳さ」


「……もう伴侶のつもりなのですか」


「どうせそうなるさ。……それより、もっと君の深い部分についても聞きたいな。……信仰について、とかね。――というか、ここが最も聞きたいところなんだが」


「……申し訳ありませんが、今は私自身について語るつもりはありません。シルティさんのためここへ……」


「そこだ。そこが気にかかるんだよ。……君、聞いた限りじゃ死を尊ぶ宗教家とのことだったが……どうしてそこまでシルティの『人生』を心配できるんだ? 並々ならぬ感情を抱いていることは分かったけれども……何故、他人の『生』についてそこまでこだわれる? 『死』を喜ぶのが、君の信仰ではないのか?」


「……」


「『死は救済』が口癖と聞いていたが、それは単なる噂か? 『虚無主義者』というのも誤りか? 邪教徒として世間から恐怖されている君と、眼前の愉快な君――シルティを愛する君が、どうも合致しない。……教えてくれ。何故、シルティの『生のあり方』にそこまでこだわる?」


「ですから、今は私のことを語る場合では……」


「それともシルティは……もう信者となっているのか? だからこうして守って引き止めたいのか? それなら矛盾はないが……」


「それは違います! 私の信仰には一切関係ありません! ……本当に、違うんです」


「なら頼む、教えてくれ。……何故君は、そこまでシルティの生き方にこだわる? 彼女を愛せる?」


「…………っ」



 私のことなど、今はどうでもいいというのに。

 シルティさんのため、ここに来ているのに。



 ……ですが、シルティさんがカルラン教徒と誤解される状況は……。

 国からの使者――アンスさんなる方からも、釘を差されております。

 広めたくとも、それをやってしまえば。……また、多くの『苦』を撒き散らしてしまう。



 二度と、その過ちだけは。

 シルティさんの、憂いとなる誤解だけは……。




「……。私の信仰は、『苦』を除かんことを第一の目的としています。それも『生』という根源的な『苦』から、いかに解放されるか……。その究極が死であり、虚無という安らぎなのです。……ですが基本は、苦しみから人々を救うという素朴な教えなのです。故に苦しむシルティさんを、この状況から救いたいのです。……別に矛盾はないでしょう?」


「ならさっさと死ねばいい、殺せばいい。その『究極』とやらに向かえばいいんじゃないか? 他人の『生』について思いを巡らすような、まどろっこしい真似はしなくていいだろう。……君の信仰にとっちゃ、矛盾じゃないか?」


「私達はこうして生きている以上、生命としての決定的限定を受けています。生存状態を維持せんとする、耐え難き『生』への欲求。その只中に囚われているのです。この生存本能を無視し、闇雲に死へ突き進ませんとするのは……それこそ惨憺たる『苦』を齎すものでしょう? ――例外はありますが、徒に死を招くような真似などしません」


「『例外』、ねえ……。……例外とするには君、随分と……。…………血塗れのようだが」


「…………」


「いや、この件はやめておこうか。……じゃあ『例外』じゃない……善良な我々は、一体どうすりゃ『苦』から救われるんだい?」


「『悟り』が必要なのです。運命として決定づけられた死が、最大の安寧であるという悟り。……この悟りを、片時も忘れずにいられるとしたら……その時、一切の苦しみは消えるでしょう。いずれ来たる死により、全てが救われる――その確信の中で、人は幸福になれるのです」


「ははは、理屈だけに聞こえるな! ……じゃ、善良ながらも悟りを得られぬ我々は度し難しってことかな? ……いずれにしろ、悟れぬシルティは君の信仰じゃ救えぬ訳だ! ……で、どうするんだい? そんなシルティを――大多数の人間たちを?」


「……それが、我が信仰の限界なのでしょう。……ですから、私は今のように……闇雲に、無策に奔走しているのです。シルティさんを苦しめている、あなたをなんとかしようと」


「私がシルティの苦しみってことだな! っはははははは! 君にとっちゃ、世界は苦しみだらけだ!! 苦しみを乗り越えて得られる幸福など、一切ないかのように!! 苦しみの後には全て苦しみ、苦しみ、苦しみ! 苦痛だけが人生だ!!」


「…………」


「ああ、シルティは苦しんでいるだろうさ! 無理矢理に結婚させられ、夢を諦めるんだからな! ……だがな、その先に幸せがないと誰が言える!? 何故これが不幸な結婚だと決めつける!? ……必ず『夫婦』で乗り越えてやるさ! 二人で幸福になってやるッ! その可能性を探ったっていいだろう!? それのどこが悪い!!? 私は、シルティと一緒に幸福になってみせるぞッ! 何を犠牲にしてでもッ! シルティと共に――ッ」



 ――感情の爆発。

 ままならぬ、『人の世』の現出。

 ……………………。



「――……っ。……ああ、違う。すまない……。感情的になった……。……こんな、些末な議論を交わしたい訳ではなくって……! くそ、違うんだ……。……なんだろう、どうも君の思想……やけに反発してしまう自分がいるな……。……少し、まってくれ。……本当にすまない。……すまない」


「……いえ」


「…………そうだな。……生を苦しみとしか見ない考えが……理解できないんだ。だから、こんなに激するんだろうな。……なんだか、今までの人生を否定されたようで」


「……そんなつもりは」


「いい、いい。分かっている。……だがリリデス氏。……『苦』は、生の一側面に過ぎんだろう? 生を全て苦しみと捉えるのは……やはり間違っていると思う」


「その面が、生の根底を成しているのです。生の本質は苦しみです」


「……君とて、生きていくうえで歓びを感じることはあるはずだ。それだって確かな一面じゃあないか。……清涼なる水に触れた時。かぐわしき花の香りを嗅ぐ時。雄大なる景色を見た時。子供達の遊ぶ声を聞く時。美味に舌鼓を打つ時。愛しい人と、語り合う時……」


「……燃え盛る火に触れる時。腐れし屍の悪臭を嗅ぐ時。凄惨なる光景を見た時。子供達の悲鳴を聞く時。泥水すら啜らねばならぬ時。憎き人間と、罵り合う時。……その時、私の言わんとしていることが分かるでしょう。生命の根底に横たわる……激甚たる苦しみ……。歓びの一切を……塗りつぶす程の……」


「この世界の一面として否定はしないが……。極論じゃあないか……」


「……いいえ。普通の一面、でしたよ」


「……まいったな、興味本位で聞かなきゃよかった。いきなり君を理解できなくなった……。さっきまでの君はどこへ行ってしまった?」


「……」


「リリデス氏。君の根は……どこに向かって張ろうとしているんだ? 果てしない虚無に向かっているようだが、それはもう根無し草と同じじゃないか? ……どんな共同体が、君の土壌になってくれるというんだ……?」


「…………」


「苦しみばかりを見る君の生き方に……。藍の美しき空を、全て黒だと言い張る君の語らいに……。寄り添ってくれる人なんているのか? ……そんな奴、いる訳がない。いる訳が……」


「……いましたよ。一人だけ」


「……随分と奇矯な人間だね」


「はい。……不思議な方です」


「……そうだね。だから僕も、好きになってしまったんだろうな。そんなおかしな人を」


「…………」


「すまない。もう少し君と話したかったが……。気分がよくない……。……なんだか、疲れてしまった」


「……」


「もう、やめにしよう」




 私達の対峙は、こうして終わりを迎えました。

 こんな話をするために、ここへ来たわけではなかったはずなのに。

 シルティさんのために、ここへ来たはずなのに。




 私は何も、できなかった。


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