1.シルティはたっとき御令嬢
「今回はモジャさんのお手柄ですね! 素晴らしいです!!」
「そ、そうですかね……」
「ええ! まさかあれ程スムーズに屋根裏へ……!」
「シーフとしての経験が活きましたねモジャ」
「はぁ……」
――本日の冒険も早々に終了し、三人で仲良く後片付けの真っ最中。
今回のお仕事内容は、屋根裏に巣食いしコウモリの駆除作業!
小さな隙間から侵入し、いつの間にやら寝床とする輩……。なんとも厄介至極なモンスターでありました。
しかし驚くべきはモジャさんの素晴らしきご活躍!
屋根裏へスルスルと入っていく様は流石の一言!
私などは体が大きいものですから、この小柄さには憧れを持ってしまいます。
「床下から屋根裏にと大活躍ですね! やはり冒険者はモジャさんの天職と言ってもいいでしょう!」
「冒険者……。冒険者…………」
「ぼ、冒険者! 冒険者!」
「…………」
「う……」
……いえ、本当は私にも分かってはいるのです。
これが冒険者のお仕事ではないことに……。
しかし我らが事業、次から次に依頼が舞い込んでおりまして。
蜂に白蟻シラミにゴキブリ。果ては害虫の枠を超え、ネズミにコウモリモグラにイタチと幅を広げつつある現状。
……余談ですが、これら害虫害獣にはヒトデの粉末が効くとのことでして。
今や王都は我々の散布せしヒトデパウダーの妙な香りで満たされつつあります。
先日ついにクレームがきまして、ヒトデは封印となりました。しょんぼり。
「無臭ヒトデ粉末の開発を急がねば……。他の忌避剤の検討も……」
「ヒトデはともかくとして……。そろそろ本格的に現状を変えてもいい頃かもしれませんね。蓄えもできたことですし、便利屋稼業からは脱出したいところです」
「ですが依頼も途切れませんし……。王都に巣食いしこれらが群れに立ち向かえるのは我々しか……」
「各家庭で立ち向かってもらいたいのですけれども……」
「あ、あのぉ。できればまたダンジョンとか……。まだ見ぬお宝を拝みたいなぁ、と。へへ……」
「モジャもこう言っておりますし。安定収入が減るのは惜しいですが、仕事も絞っていきませんか?」
「……そうですね! では戻りましたら今後の計画作りといきましょう! やはり未踏破ダンジョンへの挑戦がよろしいかと!」
「攻略済みダンジョンをモジャの感性で探ってみるのも良いかも知れません。また隠し部屋を見つけるやも」
「ふへへ。楽しみですね、へへへ……」
そうです、我々三人が集まれば出来ぬことなどないのです!
シルティさんが知性! モジャさんの感性! そして我が信仰!
三つの力が一つに合わされば、どんな冒険すら可能でしょう!
「信仰はいらなくないですか……?」
「私とモジャだけでいいですねこのギルド」
「マスター! 私マスターッ!!」
――と、こんな冗談を言い合いながら戻りますと。
事務所前に、随分と立派な馬車が停まっております。
ほとんど来客などないギルド。なんとも珍しい……。
「ごらんください、なんだか豪華な馬車が……。もしや依頼人の方でしょうか?」
「うへぇ、お金持ちっぽいですよリリデスさん。期待大ですねぇ……!」
「? あれは……」
「依頼とあれば急いで対応……」
「――シルティ!」
「ッ!!」
「……あら?」
こちらが駆け寄るより早く、一人の男性が慌ただしく飛び降りてきました。
シルティさんの名を呼ぶ謎の殿方は、これまた立派なお召し物。
金の巻き毛に碧眼、長身、端正な顔立ちと、まさに貴公子然とした風貌です。
見るからにやんごとなきご身分のようですが……。
「久しぶりだねシルティ! 本当に久しぶりだ……! ああ、会いたかったよ……!」
「……グスタフ」
「? シルティさんのお知り合いでしょうか?」
「ああ、いきなり押しかけてきてすまない……! 君がリリデス氏だね? 噂は聞いているよ」
「ええ、そうですが……。あの、大変失礼ですがそちらは……」
「私はグスタフ・フォン・ゴルディウム。シルティの婚約者だ」
「はあ。シルティさんの婚約者様でしたか」
「ああ、どうぞよろしく」
「……こんやくしゃ?」
……?
…………。
………………?
「……? シルティさんの……。…………?」
「婚約者だ」
「こんやくしゃ」
…………。
……………………?
…………。……………………!
…………………………………………。
………………………………………………………………。
「ッはああああああああああああああああああああああッ!!?!!??!??!」
「ッ!?」
ああ、ああ、ああああ。
ああああああ、ああああああ……!?
ああああ……。あああああああ――――。




