9章おまけ「おはぎボウリング」
「シ、シルティさあん……!」
「おはようございますモジャ。どうしました、血相を変えて」
「リ、リリデスさんが……!」
「? リリデスが……?」
「…………」
「うわ、まだ丸まってる」
「一晩中やってたみたいでぇ……」
「リリデスもう朝ですよ。カレーパンはやめてください」
「ふたりとも帰った……私を放置して帰った……っ!」
「めっちゃ拗ねとる……」
「揺さぶりまくったんですけどぉ……」
「目覚めたら真っ暗で寂しかったパン……。泣きそうになったパン……」
「ほら、飴ちゃんあげるから許してください」
「もうそんなのじゃ籠絡されないパン……。決してゆるさないパン……」
「面倒なおはぎですね全く」
「カレーパンです……」
「……しかし困りましたね。マスターがこのままではギルドが崩壊してしまいます。果たして我々はどうすればよいのでしょう?」
「さあ、私の機嫌をとって人間状態に戻すのだパン~。皆さんにできるかなっ!?」
「がんばりますよモジャ」
「あ、そういうゲームなんですねこれ……」
「――さて、早速リリデスが喜びそうなことをしてあげましょう」
「シ、シルティさんが撫でれば一発じゃないんですかね……?」
「では背中でも撫でてみましょう。なでなで」
「ふふん、それぐらいじゃ戻らないパン~」
「なでなでなでなで」
「戻らっ……。戻っ……あっ駄目戻るっ……。……おめでとうございます、コングラッチュレーション~!」
「早い、戻るな」
「はい」
「……さて、次はどうしましょう」
「今クリアしましたよね……!?」
「では次、モジャのターンですよ」
「うう、不毛な時間になりそう……。とりあえずマッサージでもしてみますかぁ……」
「ふふん、マッサージ程度で戻そうなどとは片腹痛いパン~」
「もみもみ……」
「あっ気持ちいっ……。戻っ…………おめでとうございます、コングラッチュレーション~!!」
「早い、丸まれ」
「はい」
「……うーん次はどうしましょう」
「だから今クリアしましたよね……ッ!?」
* * * * *
「――リリデスがチョロすぎて駄目ですね、別の遊びを考えましょう」
「ご機嫌すぎて申し訳ないパン~」
「あのぉ……遊びはいいんで普通の活動しません……?」
「何を言うんですモジャ。我々は貴方を楽しませるため日々こんなことをしているのに」
「この人たち善意の方向性がおかしい……」
「おはぎモードリリデスは希少ですよ。これを逃せば二度とおはぎリリデスと遊べなくなってしまいます。存分におはぎで遊び尽くしてやりましょう」
「ですからカレーパンです……」
「う、うーん……。じゃ、じゃあ転がして遊ぶとか……?」
「なるほどおはぎ転がしですね。その程度の遊びじゃ満足出来ません却下」
「遊びに厳しいなこの人……」
「以前転がした時は大して面白くありませんでしたし」
「経験済み……!?」
「――単純な遊びでも、ひとつの要素を付け足すだけで面白い遊びになるものハギ~」
「ほほう。どういうことです?」
(おはぎに寄せてきた……)
「その名も『おはぎボウリング』。私を球にして、ピンを倒してスコアを競うハギ~」
「うーん面白そう。面白そうですよモジャ。めっっっっちゃ面白そう~」
「己に言い聞かせてません……?」
「しかしピンに使えるようなものがありません。どうしましょうか」
「か、数がほしいですよね……。このギルドにいっぱいあるものといえば……」
「そうだ、蜂の巣をピン代わりにしましょう。これを潰した数で勝敗を決するのです」
「あ、いいですね。やりましょう」
「!!? だ、駄目ですよ! 保留期間中の蜂の巣ですよ!? まだ処分は……!」
「おはぎが喋るな」
「…………っ」
「よし」
「怖っ……」
「ではモジャからでいいですよ」
「じゃあ転がしますね……」
「やめてハギ~……やめてハギ~……」
「うう、おはぎが小声で嘆願してくる……」
「おもいっきり転がしてください。こいつら全部処分しましょう」
「は、はい。では……えいっ」
「…………」
「どうしましたモジャ。手加減はいりませんよ」
「い、いや。全然転がらなくって……!」
「うわ。よく見たら踏ん張ってますね……」
「この態勢でどうやって……?」
「こうなれば私も手伝いましょう。むんっ」
「うう、二人がかりでも微動だにしない……!」
「ハ~ギッギッギ! 私を転がそうなどとは百年早いハギ~」
「わ、笑い方腹立つ……」
「我々だけでは難しそうですね。こうなれば応援を呼びましょう」
「はあ……」
* * * * *
「――という訳でスティキュラ。貴方の力が必要になりました」
「何やってんのお前ら」
「おはぎを転がしたくってえ……」
「何やってんのお前ら」
「どんな力自慢がきたとて無駄ハギ~!」
「何やってんのお前ら」
「……。何やってるんですかね私達?」
「ほ、本当になんなんでしょうね……?」
「ハ~ギッギッギ! いい加減戻りましょうか?」
「人呼びだした途端正気に返るなよ」
「――まあいいや。こいつを転がしゃいいんだな?」
「おや、意外と乗り気ですね」
「いい機会だと思ってな。一度は挑んでみてえと思ってたからよ……」
「おはぎボウリングにですかぁ……!?」
「おはぎじゃなくって……。リリデスにだよ、リリデスに」
「え、私?」
「おうよ。俺ぁ怪力しか能がねえからさ、パワーでリリデスに負けてちゃ立つ瀬がねえと常々な……」
「充分活躍してるでしょうに。案外繊細ですね貴方も」
「いいや! リリデスが来てからというもの、確実に俺の活躍の場は減っていた……! プライドを取り戻すまたとねえチャンスだ、俺は最強の冒険者リリデスに挑むッ!」
「……分かりました! でしたら私も最強のおはぎとして挑戦を受け入れましょう!!」
「冒険者として受け入れてほしいんだけど」
「始まりますよモジャ……。暴腕対おはぎの頂上決戦が……!」
「ド、ドキドキしますね……!」
「VSおはぎの構図にされたのは不本意だがこの際いいとしよう……。いくぜッ!」
――暴腕の全身が、おはぎへ激突。震える室内が、衝撃の深さを物語る。
だが、リリデスは――おはぎは、動かない。
「重ッ……! 流石だなリリデス……!」
「負けないハギ~!!」
「いやマジで重過ぎるッ……! 何トンあるんだこのおはぎ……ッ」
「42kgですがァ~~~???」
「うへぇ……。スティキュラさんでも駄目でしたかぁ……」
「いいえモジャ。彼の本気はこんなものではありません。でしょう?」
「ああ、その通りだぜ……! 本番はここからだァッ!」
「!」
彼が全身に何重にも巻き付けている、重量級の鎖。その拘束具が外された。
桎梏から解き放たれ、膨れ上がる筋肉。暴力的なまでのその異様。本気の戦闘形態である。
『暴腕』として名を馳せた真の姿が、今ここに――。
「いや鎖とかつけてないんだけど俺」
「かっこいいかなと思い」
「平気で原作改変するタイプだこいつ……。まあいい気を取り直していくぜッ! うおおおおおおっ!」
「ハ、ハギ~!?」
「あ!? う、動いた! 動きましたよ!?」
「動かすだけじゃねえ……! 転がしてッ! みせるッ!!」
「ウ、ウワーッ!?」
――おはぎが、転がった。
一度転がりだせば、その勢いが止まる事はない。
猛烈な勢いで転がったおはぎにより。
大小無数の蜂の巣が、潰される――。
「アアーッ!? 蜂の巣がああああああぁあぁ!!?」
「よっしゃああああああああああッ!!」
「おめでとうございますスティキュラ。貴方の勇姿、確かに見届けましたよ」
「す、すごかったですねぇ……! ちょっと感動しちゃいましたぁ……」
「か、完敗です……っ。悔しいですが、負けを認めましょう……。スティキュラさんはおはぎを超えた、最強の戦士です……!」
「ありがとう、ありがとうみんな……! なあ、これって自慢してもいい事だよな……!?」
「勿論です。今日から最強は貴方です。存分に語るといいでしょう」
「おめでとうございますスティキュラさん! 最強! 最強!」
「うおおおおおおっ! 俺が最強だああああああああッ!!」
……完全なる悪ノリで始めたお遊びだったのだが。こうして一人の冒険者の自尊心を回復させる事ができるとは。
スティキュラを称えながら、新たな武勇伝の誕生を皆で祝いあった。
きっと、長く語り継がれる英雄譚となるであろう。
おめでとう、スティキュラ――。
* * * * *
「――なあブレトン聞いてくれ。俺、最強のおはぎを転がせたんだ」
「何言ってるんだお前」
「本当に何言ってんだ俺」
~Fin~




