9.アンスの調査報告「邪教徒」②
――デーモンに関しては十分な情報を引き出せたかと思います。
リリデスの人間性も多少は知れましたが、これに関してはまだまだ不十分。
早速、第二の任務へ入るとしましょう。
「……実はですね。私がここに来た目的はもうひとつありまして。……少々、貴殿について伺いたいと」
「? といいますと……」
「我々は、あなたの類まれな活躍に非常に注目しております。……その一方で、あなたの『悪評』にも注意を払っておりまして」
「……」
「勇者」パーティーが末裔シルティ。
そして無法なる戦闘力にて全てを屠るリリデス。
今後の「魔王」対策がため、上層部が引き込みたいと考えるは自然。
しかし懸念されるは、やはりリリデスの素行問題。
彼女が元教会関係者という点も、国にとっては捨て置けぬ経歴でしょう。
私としては。
シルティの腹の読めぬ野心。
そしてリリデスの倫理性を逸脱した行動の数々。
何をしでかすかわからぬ彼女らは、安易に近づいてはならぬ存在。そう考えます。
……ここは結論ありきでいかねばなりますまい。
彼女らは「魔王」討伐には不適格である、と。
常識的に考えましてもそうなるとは思いますが……。
「……で、やはり最も懸念されているのがあなたの信仰に関してです。それが原因で前ギルドの分裂を招いたと聞いているのですが……真実でしょうか?」
「…………。ハイハイ、私の信仰が少し暴走してしまいましテ。しかし今は十分に反省をし、個人的な信仰にとどめておりマスですハイ」
「? ……。では、もう布教活動はしていないと?」
「エエ、エエ、そのとおりデシテ。我が信仰は取るに足りぬ小さき灯火。アンスさんが気に掛けるようなものではないのですヨ。単なる泡沫の新興宗教ですカラ、ハイ」
「…………」
用意されたかのような台詞。下手糞が過ぎる……。
しかしなるほど、既にこうした事態の準備はされているようで。
シルティの……もしくはクレイン殿の入れ知恵でしょうか?
……少し揺さぶってみますか。
「確かリリデス殿は元エピクル教の信徒とお聞きしましたが……。そこから改宗をされたのは何故でしょう?」
「エピクル教はトッッッッテモ素晴らしい宗教だと思いマスヨ。我が信仰モ決してその思想に外れた宗教ではアリマセンデハイ」
「ほう。というと……エピクル教を母体とした新興宗教……ということでしょうか?」
「エエ! 全くもってその通りデシテ、ハイ!!」
「カルラン教がですか?」
「 」
調べなど、とうについています。
カルラン教――古きに存在せし邪教。
今や法にのみ名が残された、忘れられた宗教。
名を出した途端、固まりし邪教徒。
完全に思考停止したご様子。
正直な方というかなんというか。本当にわかりやすいことで……。
……いや、ちょっとわかりやす過ぎる。
滝のような汗、泳ぎまくる目、乱れる呼吸……。
……いきなり揺さぶりすぎました。様子がおかしく……。
「……ッはひッ!!? あ、あ、ああ、ああはいはい!! カルッ……ッカレーパン!? カレーパンッはいはいはいはい!! そうそうそうそう!! 私は、カレーパンので、で、伝道師……っ!! カレーパン教の信徒でしてね!!?!?」
「流石にその言い訳は無理がありませんか……? ……取り繕う必要などはありませんよ。既に調……」
「そうそうそうそうッ! いやあ、カレーパンのもっ……っものまねが得意でしてね!!? カレーパンのを……ッやります!!? やっちゃいますカレーパンものまね!!?!? やっちゃいましょうね!!!???!?」
「も、ものまね……!? いや結構……。落ち着いてくださ……。……リリデス殿? リリデス殿……!?」
「…………ッ」
「……!!?」
突如床へ伏し、体を丸める邪教徒。
そのまま微動だにしなくなる邪教徒。
……カレーパン、らしいです。
わからない……。
……モジャ殿。
困惑した眼で、推定カレーパンを眺めていらっしゃいます。
彼女にも状況が把握できていないご様子…‥。
……カ、カレーパン。
「……リ、リリデス殿、カレーパンはもういいので起きてください……。リリデス殿……。リリデス殿……?」
「…………」
「…………」
「…………」
まずい。
戻らなくなった……。
「な、何故先ほどから一言も……。リリデス殿、いいかげん元に……」
「……………………」
「モ、モジャ殿……? あの、これは……。喋らなくなったのですが……」
「い、いや私に聞かれましても……。……も、もしかしてですけど……。カレーパンって喋らないから……なりきってるのかも……」
カレーパンは喋らない。なるほど。
なるほどではありません。そういう問題じゃありません。
というかこれ、このまま会話を打ち切るつもりでは……。
「……モ、モジャ殿。なんとかカレーパンから戻していただきたいのですが……。まだお聞きしたいことがいくつも……」
「え!!? わ、私ですかぁ……!? 私、カレーパンへの造詣そんなに深くないんですけど……!?」
「造詣の深さはあまり関係ない気が……。とにかくリリデス殿を元に戻していただきたく……」
「う、ううーん……。リ、リリデスさぁん。リリデスさぁーん……?」
カレーパンを揺さぶるモジャ殿。
ゆさゆさ揺れるも、丸まったまま無反応の真っ黒なカレーパン殿。
これもう駄目なような……。
「…………。……モジャ殿はカルラン教をご存知で?」
「へっ? い、いや、初めて聞きましたけど……。そんなによくない宗教なんですか……?」
「これまで、信仰の強要等はありましたか?」
「きょ、強要という程のものはありませんでしたけどぉ……。不気味だなぁって思うことはいっぱい……」
「不気味じゃないパン……」
「喋るんかい」
全く徹しきれていなかったカレーパン。
そしてとってつけた語尾が腹ただしい……。
「……リリデス殿。ひとつ言っておきたいことがあるのですが……」
「……」
「あなたの信仰が、あなた個人のうちにとどまっている限り。……我々はあなたを黙認し続けることでしょう」
「…………ッ!?」
「他のカルト集団に比べれば、現カルラン教の影響など無きに等しきもの。一々相手になどしませんよ。労力の無駄というもの」
「…………!」
大きく揺れ動くカレーパン。
カレーパンは動かぬはず。
ものまねのレベルは凄まじく低い……。
「ただし。もしあなたが信仰を広めんする姿勢を見せようものなら、その限りではありませんよ。その時はギルド活動ができるなどと思わぬように。……布教行為は厳禁ですからね」
「…………」
しゅんとするカレーパン。
随分と感情豊かなカレーパンであります。
もう嫌になって参りました……。
「……会話にならないようですので、これでお暇させていただきます……。ではモジャ殿。シルティ殿にもよろしくお伝えください」
「あ、はい……。あ、ありがとうございました……?」
「では、失礼いたします」
「ありがとうございましパン……」
「だから喋るんかい」
喋るカレーパンに釘を差しつつ、ギルドをあとにします。
「カレーパンに釘を刺す」て。なんでしょうこの表現。初めて用いましたよ。
どっと疲れました……。
……まあ、なんにせよ。
「邪教徒」への牽制は十分。あとは「こちら」に極力近づけぬだけ。
懸念すべき点は多々ありますが、ひとまずは対応可能な範囲と見ましょう。
「物語」に登場することも、今後ないでしょう。




