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「宗教勧誘しただけなのに追放されそうです……」  作者: 頭いたお
9章 それぞれのロール、ひとつの物語
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8.アンスの調査報告「邪教徒」①

「――お待ちしておりました、リリデスと申します! さあさあ、おかけになってください!」




 穏やかな笑顔。

 擦り切れたる真っ黒な修道服。

 女性にしては珍しい長身が、快く私を出迎えます。

 思っていたより、威圧感などはありませんが……。



(これが、リリデス……)




 ――リリデス・サンクノート。「邪教徒」。

 「導きの光」ギルドマスターにして最恐の冒険者。

 盗賊団「蜥蜴」の殲滅以降、誰もがその名を知る超危険人物。



 孤児施設「サンクチュアリ」出身。

 修道院を経て、かの聖徒騎士団へ所属。

 その後「発狂」し、冒険者稼業へ……。



 冒険者になってからの話もさることながら、聖徒騎士団での逸話も半端ではないようで……。

 たかだか数週間で序列は一桁。新人にして歴代最強の名を戴いた傑物中の傑物。

 彼女の無抵抗の脱走劇は、彼らにとって恥ずべき秘匿事項との事。

 今やその名を出すこと自体が憚られる存在、と……。



 強さの理由は、その単純かつ圧倒的な身体能力。

 なんでも無意識に自己強化を行っているようで、最早常在戦場の武。

 それを生み出したるは……。

 …………。



 同業者間での評判は最高かつ最悪。

 腕に関しては言うまでもありませんが、その残虐性と謎の信仰から近寄りたがる人間はごくわずか。

 人当たりはいい、とも聞きますが……。そこから始まる布教行為に戦々恐々する冒険者は数知れず。

 邪神へ捧げる生贄を探し、王都を日夜徘徊しているとの話まで……。



 通り名。

 血塗れの化物、死神、破滅の導き手、平和の使者、等々。

 最後のは彼女の自称らしく。

 どこにも通っていない名でした……。




「アンスと申します。お伝えしておりました通り、本日はデーモンの件に関して少々確認を……」


「ええ、よろしくお願いします!」


「……。ところでこちらの方はどなたでしょう? 確かギルドメンバーは二名だけだったかと思うのですが」


「あ。わ、私は、えっと……」


「この方はモジャさんと言いまして、私達の三人目の仲間です!」


「……? おかしいですね、名簿には載っておりませんが……」


「実はその……。モジャさん、戸籍の方がまだ……。形式的にはまだお手伝いと言いますか……」


「戸籍?」



 聞けば彼女、戸籍がなく、現在手続き中とのこと。

 ……この手合、恐らく裏社会で生きてきた者でしょう。

 小柄な体躯、警戒心の強い表情……。「盗人」あたりでしょうか。

 こんな者まで引き入れていたとは。シルティ、何を企んでいるのか……。




「……もしやモジャ殿もデーモン遭遇時にいらっしゃったので?」


「ええ、その通りです。我々三人のチームワークで困難を切り抜けまして……」


「チ、チームワーク……? チームワーク……。…………」


「チームワーク!!」


「そうでしたか。……では早速ですが、デーモンの件に関して確認をば。一連の流れを、今一度お聞かせください」


「はい! ええと、まずですね……」




 こちらにあがってきた報告書の内容と違わぬ話。

 要約しますと。



 「デーモン」と思しき魔物と、冒険者ギルド「導きの光」が交戦したこと。

 「デーモン」は上級魔法に加え、謎の魔法も扱えたこと。

 「デーモン」の攻撃を《障壁》魔法で防ぎ、やり過ごしたこと。

 「デーモン」は崩落してゆくダンジョンにて自滅したこと。



 ……不可解な点が、数点。



 冒険者というものは、得てして話を盛るものですが。

 ……なんらかの意図から、事実を捻じ曲げることもあるでしょう。

 果たして報告通りのことが実際に起こったか、否か。



「先の話では……デーモンの上級魔法等を《障壁》で耐え凌いでいる間。ダンジョンそのものが崩壊し自滅、ということでしたね?」


「………………はいっ!!」


「……」




 妙な間、表情のゆらぎ、筋肉のこわばり。

 ……確実に、嘘をついている反応。

 少し突っ込んでみましょう。




「その《障壁》はシルティ殿が?」


「ええ! モジャさんを守り続けまして、それはそれは素晴らしいご活躍を!!」


「ははあ。敵の上級魔法をも完璧に受けきった、と」


「ええ! それはもう完璧に!!」


「確か雷系統の上級魔法を連発してきたとか……。それを全て防いだのですか」


「流石はシルティさんといったところでして!! そのご活躍たるや感嘆の念を禁じ得ず……!!」


(……やはり)



 彼女の相貌。

 熱を帯び、目を輝かせ、身振り手振りを交え、「令嬢」の功績をこれでもかと主張している。

 ――熱狂。まるで恋する少女が如く。



 ……シルティは恐らく、人心掌握術に長けた人物。

 この報告自体、シルティによって作られた「虚偽報告」と見て間違いないでしょう。



 《障壁》は本来、入念なる準備の元に複数人で展開し、「場」を守るための魔法技術。

 個人が扱うレベルで上級魔法を凌ぐなどまず不可能。魔術師にとっては当然の事実。

 そんな嘘を誇らしく吹聴するリリデス……。完全に操られている。



「……謎の魔法も扱ったとのことでしたね」


「はい。空を飛びながら、見たこともない真っ黒な魔法を……。大変な攻撃力でして、もうとっても痛くてですね……!」


「……。どれほど痛かったんですか?」


「え? そうですね……。それこそ、蜂に刺されたぐらい……」


「……は、蜂ですか」


「ええ……。それもキイロスズメバチレベルの……」


「そ、そうですか……。……こちらから攻撃はできなかった、と」


「……は、はい! もうびゅんびゅん飛び回りっておりまして、我々にはなんともできず……! ねえモジャさん?」


「そ、そうですね。へへ、何もできず……」


「……。そうしている所、デーモンの攻撃によりダンジョンが崩壊して自滅、と……」


「……はいッ!! そのとおりですッ!!!!」


「……」




 嘘の反応。分かりやすすぎる……。



 闇魔法を扱ったことは間違いないようですが。

 彼女たちが無傷であることから、その実力は相当に低いと見ていい。

 真の闇魔法の前では《障壁》なぞ紙切れ以下も同然。防ぐことは絶対に不可能。

 そもそも「痛い」で済むはずがない。いくらリリデスが強いといえども……。



 ……推察するに。

 デーモンは上級魔法を扱ってはいない。彼女たちの虚偽報告。

 よってダンジョン崩壊の原因は、デーモンの攻撃ではなくリリデスらによるものと見ていい。

 《飛翔》する相手に攻撃できぬ苦肉の策。おそらく、壁を破壊しつつ逃走を図ったのでしょう。

 それが偶然にもダンジョン崩壊に繋がり、デーモンを巻き込み屠った、といった流れか。



 かくして窮地を乗り越えたシルティの名声――ひいてはギルドの名声は高まった。

 事実、今や多くの者たちがこのギルドに注目している。

 今までの悪評を払拭せん程に。



 ……この報告書から伺えることは。

 シルティの功名心、その傀儡と化したリリデス。

 そして、デーモンのレベルの低さ。




 …………。





「……わかりました。デーモンの件に関してはこれぐらいで」


「? この程度いいんでしょうか?


「ええ。形式的な確認ですので」


「そ、そうですか!」




 ――ほんの一瞬。

 安堵の表情で互いを見る彼女らを、見逃しませんでした。

 何に安堵をした? 無論、「嘘」を突き通せた事に。





 (……賠償責任は完全回避ですねモジャさん……!)


 (完璧でしたねリリデスさん……!)


 (やはりこのギルド、危険……)




 シルティ、その野心は果たして何をなさんと――。



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― 新着の感想 ―
シルティ同胞団という名前とリリデスのシルティを慕う気持ちが悪目立ちしまくってるうー!
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