10.リリデスと眼鏡
翌日。
彼女の真意を知るため、意を決して話しかけた。
そう、ついうっかり、つい、つい、話しかけてしまった、リリデスに。
鼻眼鏡にハゲカツラを着用している、リリデスに。
「まさかシルティさんから話しかけていただけるなんて、光栄です……!」
酷い、酷すぎる。
貪欲に爆笑をもぎ取らんとする化物が、ここにいる。
しかし途方もなく古典的過ぎる。あまりに、あまりに酷い。
「…………最近のあなたの行動に関して、お聞きしたいことがあります」
「! そ、そうですか」
「……皆さんの気を引こうと、あれこれやっているようですが……」
「そ、その通り、です」
俯く修道服のハゲ鼻眼鏡。真面目な議題ということはわかったらしい。
しかし困ったことに、一件つまらないアレも真面目にやればやる程ドツボとなるアレである。
私も真面目な顔をして話しかけてしまった手前、このまま真面目な顔をして行かざるを得ない。まずいことになった、まずい。
状況を察したミナトはどこかへ逃げた。出遅れたブレトンの振動はとどまることを知らない。
「……無視、されているということは……分かっています。それで気を引こうとしているのも……事実です」
往年の古典的コメディアンが大真面目に白状を始めた。
カツラも鼻眼鏡もそんなの大して面白くはない、面白くなんてないのだ。
しかしこの状況では真逆なのだ、面白いのだ。
「……ん゛んっ、ん゛ん゛んっ」
ブレトンが咳払いする。こいついま絶対笑った、間違いない。
無論、この凶悪な芸人を前に普通に話を進行してしまった私にも非はあろう。
しかしここは幹部として、質実として耐えていただきたい所である。なにせ質実だから。
「……ここでは話し辛いこともあるでしょう。別の場所で、ゆっくりお話しませんか?」
「は、はい。是非」
振動ブレトンを見るのは正直ちょっと面白かったが、流石にここまでだろう。
ギルドに安寧をもたらすため場を移す。
席を立ち、出口へと向かう私とリリデス。
出口横にある姿見に映るリリデス。
驚きのあまり声を上げるリリデス。
「!? 誰ッ!!?」
全員笑った。
やはりこのギルドはもう駄目であった。




