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非聖女召喚  作者: 木こる
8/13

第八聖

「**********!!*****!!」(意訳 ヒャッハー!)


「***!*****!****!!」(意訳 グヘヘへへへ)


「****!******、**!」(意訳 ケッケッケッ)


帝都へ向かう途中、ボロボロの服の集団が十子たちを取り囲んだ。

彼らの目つきは鋭く、中には手にしたナイフを舌舐めずりしている者もいる。

言葉は通じずとも彼らの目当てが馬車の荷物であろうことは察しがついた。


彼らは清々しいまでに野盗であった。

ここが異世界だと実感するには魔法よりも説得力があった。


「総代さん、あの人たちはなんて言ってるんですか?」


「フン、くだらんな…

 金を出せとか荷物を置いてけとか、そんなところだ

 まあ安心せい この私がいる限りお主に手出しはさせんよ」


総代は毛皮を脱ぎ捨て、自慢の肉体美を披露した。

野盗たちは一瞬怯んだように見えたがすぐに体勢を立て直し、

リーダーらしき大男の号令と共に一斉に襲いかかってきた。


総代は交差させた両腕を勢いよく広げ、


広げただけだった。


「…クソッ!!またこれかァ!?」


ウサギ狩りの時と同様、総代の炎は発生しなかった。

そのピンチを察して信徒が剣に手を掛けるが、鞘から抜かれる事はなかった。

チャンスとばかりに野盗がナイフを振り上げるが、振り上げただけだった。


「*****!!********!!******!!」(意訳 ウオオオオオ!)


野盗の大男が巨大な石のハンマーを引きずりながら接近し、そのまま通り過ぎた。


その場にいる全員が困惑した。誰の攻撃も成功しないのである。

邪教も野盗もお互いに顔を見合わせ、状況を把握しようと必死な様子だ。


おそらくは聖女の異能による効果なのだろう。

その可能性を知っている邪教陣営が野盗よりも早く優位な行動を取った。


「…このまま帝都へ向かう!

 こいつらは途中で諦めるだろう!構うな!……*******!!」


総代の指揮により隊商は進み出した。

野盗たちはなんとか荷物を奪おうと頑張っていたが、

帝都まであと少しという距離で諦めて撤退した。



ノルマリス帝国、帝都スタンダルド。

この国はかつて人魔大戦終結後に世界の覇権を手にしようと企み、

顰蹙を買って連合軍からの反撃を受けて野望が潰えた歴史がある。

他の大陸に比べて召喚装置の数が少なく、日本人は珍しい。


石畳の床、レンガの壁、連れ添う紳士と貴婦人、くたびれた帽子の労働者、

パイプを咥えて座る老人、野良犬、駆け回る少年たち、石炭の匂い…。

それらの光景は何かの映画で観た産業革命前後のイギリスのようだった。

都は活気付いており、ここで仕事を見つけて暮らすのも悪くないと思った。


行き交う人々に紛れ、商人に扮した信徒がまばらに立ち去る。

それぞれの帰路に着いたのだろう。聞いた話では彼らの大半は職人の家系らしい。

半刻ほど歩き回って信徒を解散させ、約100人だったのが今は10人以下になった。

総代は実際に商売をしていないと怪しまれるということで一時的に離脱した。



古書を扱う店に来た。早速教科書を買うようだ。

まだ文字が読めないので選ぶのはアリスに任せた。

彼女はどこに何があるのか把握した動きで本を取り、

中身をざっと確認してから十子に手渡した。


「まずはこれね 童話の絵本よ

 文字数が少ないし、絵があって理解しやすいはず」


そう言って十子の手に追加の3冊が積み上げられた。


「これは帝国魔導学院初等部の生徒が使っていた歴史の教科書ね

 かなり前の物で現在とは違う情報が書かれているのだけれど、

 細かい点を気にしなければ大体合っているから問題ないわ」


歴史のついでに地理の教科書も渡された。

初等部というのは小学生相当だと思うのだが、

こちらの世界では「社会」で統一しないのだろうか。


「あら、これは……」


アリスは一冊の書物に関心を示し、じっくりと読み始めた。

店主のお爺さんがジロジロと見ているが、そんなのお構いなしだ。

十子が声を掛けても、肩を揺さぶってもアリスは動じなかった。

すると店主がこちらへ近づいてきた。立ち読みを注意されるのだろうか。


「…お嬢さん方、日本語で会話しとるようじゃが

 ひょっとすると異世界からの迷い人かね?」


注意ではなかった。しかも日本語を話せるようだ。

できればアリスに状況を説明させたかったが、

読書に夢中なので十子が台本通りの自己紹介をした。


「…ほう、裕福な行商人親子に拾われてラッキーじゃったのう

 もし野盗にでも見つかっていたら大変なことになっていたはずじゃ」


十子は軽く感動していた。

語尾が「じゃ」のお爺さんを初めて見たからである。


「お前さんの連れは古ノルマリス語が読めるようじゃな

 今では学者が知識欲を満たすためだけの言語として扱われておるが、

 かつてはこのノルマリス大陸の共通言語として浸透していたものじゃ」


「それじゃあ今使われてる言語は“ノルマリス語”ですか?

 もし世界共通の言語があるのなら、私はそれを学びたいです

 西の大陸に日本人の村があると聞きました 私はそこを目指します」


「ほう、将来のビジョンが見えているようじゃな

 そのまま行商人ルートを目指してもええとは思うが…

 とりあえずノルマリス語もとっくの昔に廃れた言語じゃ

 今お前さんが持ってる本は世界共通の文字じゃから安心せい」


親切な店主は更におすすめの児童書を紹介してくれた。

アリスの読書中に帝国内通貨の説明をしてくれたり、

この世界における異世界人の扱いを教えてくれたり、

短時間で有益な情報を得られて十子はラッキーだった。

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