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非聖女召喚  作者: 木こる
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第四聖

“異能”とは、異世界から召喚された者に付与される特別な能力を表す単語らしい。

そんなこと急に聞かれても答えようがない十子はただ沈黙するしかなかった。


「フン、自覚はないようだな… まあいい、いずれわかるだろう

 ひとまず今日は引き上げるぞ……*****!*******!*****!***!」


総代は信徒たちに何かしらの命令を発し、彼らはそれに従った。

その場に数名の信徒を残し、他は全員洞窟の奥へと進んだ。

地図が頭にないのでその方向が奥という確証はないが、

水回りの設備があった事から生活の場であるのは間違いなかった。



さっき使わせてもらった水道の先に広めの空間があり、左右に通路が伸びていた。

壁には鉄製の扉が規則的に配置されており、それらは刑務所を連想させた。

総代が正面の赤い扉を叩くと、中から長身の青年が現れて聖女一行を出迎えた。


彼もまた不明な外国語で総代と会話し、その間何度か十子と目が合った。

腰まであろうかという長さの銀髪を後ろで束ね、顔は二枚目であった。

十子の時代に「イケメン」という単語は存在していたが、

この頃はまだそれほど浸透していなかった。


愛想のないおっさんの後にハンサムボーイは目の保養にはなったが、

こいつもカルトの一員という設定なんだなと思うと素直に喜べなかった。

総代との会話が終わった彼はこちらへ歩いてきて、十子に向かって一礼した。

実物の執事なんて会った事はないが、彼にはそういう雰囲気があった。


「…トーコさん、話は聞かせてもらいました

 私は居住区の管理を担当しているセイシェルと申します

 御用があればなんでも言って下さい」


こいつはカルトの一員。こいつはカルトの一員。こいつはカルトの一員。

十子は心の中で何度も自分にそう言い聞かせて警戒を緩めないようにした。



空き部屋に案内され一人になった十子は、まず隠しカメラを探した。

この部屋にある家具は質素なベッドだけで、それは独房を思わせた。

壁も天井も岩。床は基本的に平らではあるが舗装されておらず、

所々に凹凸があって油断すれば転倒する可能性がある。


鉄製の扉に鍵は無く、閉じ込められるという展開はなさそうだ。

このドッキリはいつまで続くのだろう。どう着地するのだろう。

予約録画はしてるけど、家に帰ってドラマの続きが観たい。

内容に興味はないけど話題合わせのために観てるやつ。


そんな事を思案していると誰かが扉を叩く音が聞こえた。

聖女アリスだ。十子は既にこの少女が苦手になっていた。

演技とはいえ友人の死を口にしたし、怪我を装って心配させたりと

心を揺さぶる言動に弄ばれているようで気に食わないのだ。


「トーコ、あなたに見てもらいたいものがあるの」


そう言うとアリスはドレスを無造作に脱ぎ捨てた。

突然の出来事に意表を突かれ、十子はただ眉をしかめる事しかできなかった。


また全裸になった彼女から目を背ける十子に対し、

アリスは先回りして体を見せつけようとしてくる。


(いや、なんだこの展開……私にどうしろと…?)


困惑する十子は頑なにアリスを見ようとしない。

カルトの一員且つ信仰対象で発言がムカつく、更に露出狂で救いようがない。

この子は本当に15歳なのか?だったらTVで放送できるとは思えない。

モザイクかけりゃいいってもんじゃない。


「…トーコ、私の傷痕を見て」


その言葉に誘導され、十子はアリスを見てしまった。

先程まであったはずの胸の傷がすっかり消えているが、

どうせ特殊メイクだろうと思っていたので驚きはしなかった。

そして、それを見せたいだけなら全部脱ぐ必要ないだろと思った。


「これであなたは安心したはず…

 私の傷は完治した もう大丈夫」


「…そう、よかったね ……服着な?」


アリスは満面の笑みを浮かべているが、

声に抑揚がないので本当に人形のような印象を受ける。

思えばこの子が人間らしい反応をしたのは最初だけだった。


「あなたはきっと、私たちを疑ってる

 当然だと思う でもこれは本当の事

 傷が治ったのは聖女の魔力のおかげ」


それだと十子の手当てが無意味だったと言っているようなものだ。

失礼にも程がある。少なくともその時は本気で心配していたのだ。


「私の中にはあなたの世界から回収した13の魂がある

 “異能”も13個あるはず 使い方がわかってるのは1つだけ…

 “命令した相手を従わせる能力”、今はそれしかわからない……」


ハイハイ、設定設定…


「トーコ、右を見て」


十子は右を向いた。


「トーコ、左を見て」


十子は左を向いた。


「トーコ、ジャンプして」


十子はジャンプした。


「……ハアアァッ!?なにこれ催眠術ぅ!?

 あんたたち一体、私に何したんだよォーっ!?」



十子はアリスを完全に嫌っていた。

妙な催眠術まで使ってきて全く信用ならない。

もう一切関わりたくないと思って物理的に距離を置いても

アリスは十子を気に入ったらしく、ぴったりとついてくる。


「トーコ、安心して

 私はあなたに変な命令はしない

 あなたはいい人間だから傷付けたりしない」


「…まずは服を着ろってば!

 あんたそういう趣味なの!?

 目のやり場に困るんだよ!」


そう言われてアリスは自身の体に目を向け、ドレスを拾った。

彼女は恥の概念が欠落しているように見える。

大勢の男たちの前で裸を曝け出すなんて度胸がありすぎる。

実は童顔のAV女優なのだろうか。ギャラはいくら入るのだろう。


アリスがベッドに座り、十子は立った。

アリスも立ち上がり、十子の目を見て語りかけた。


「トーコ、いきなり異世界とか言われても信じられないよね?

 あなたの世界で言う所の『サプライズ』だと思ってるよね?

 でも違うの 今あなたの身に起きてる事は全部本当の事

 ……巻き込んでしまってごめんなさい」


その謝罪は本心からの言葉に聞こえた。

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