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非聖女召喚  作者: 木こる
10/13

第十聖

「ヒャッハハハハ!!金を出せ!!」


「グヘッヘヘヘ……荷物を置いていくんだな…」


「ケケケ!それと女にも残ってもらおうかぁ!?男は皆殺しだァ!!」


半年前に遭遇した野盗の群れと再会してしまった。

帝都への街道から狩場を移していたようだ。

あの時よりも相手の数は増えており、こちらの数は少ない。

十子は下衆な台詞を通訳なしで聞き取れて少し自信がついた。


こちらには聖女の完全防御能力“無敵”がある。

もし不発するようなことがあっても帝国騎士セイシェルと、

大陸内でも指折りの実力者らしい攻撃術士の総代がついている。

一度乗り切った相手なので邪教陣営は冷静だった。


「こんにゃろおお!!無視してんじゃねええ!!

 オイ、おめぇらもぼーっと突っ立ってんじゃねえ!!」


やはり号令を出した大男がリーダーのようだ。

彼は巨大な石のハンマーを引きずりながら馬車に接近し、そのまま通り過ぎた。

両手にサーベルを構えた男が飛びかかったが、ジャンプしただけだった。

不気味に笑いながらフレイルを振り回している男はその場から進めなかった。

小柄な男が馬に向かってナイフを振り上げたが、振り下ろされる事はなかった。


「……っ!? 攻撃できねえだとおお!?

 オイ、この感覚はまさか……あの時の商人か!?」


「ど、どうなってんですかボス!

 こいつら妙な魔法を使いやがります!」


「俺が知るかよお!!

 …こうなったらプランBだ!例の場所へ誘い込め!!」


リーダーの指示で野盗たちは散開し、

数名が馬車の進路を妨害するように立ち塞がった。


「…フン、構うものか!前進あるのみ!!

 衝撃に備えろ!何かに掴まれえぇい!!」


総代は馬に鞭を入れてそのまま野盗を轢こうとしたが

“無敵”の効果でこちらの攻撃も無効になり、馬が足を止めてしまった。

馬車の中では急ブレーキでバランスを崩した十子とアリスが頭をぶつけた。

どうやら思いがけない事故ならダメージが発生するようだ。


「ぬゥ!?しまった……!セイシェル!!援護を頼む!!」


「ええ、お任せ下さい」


馬車を方向転換させる間、黒馬に跨ったセイシェルが敵の群れへと駆け寄った。

“無敵”があるので戦えないのは百も承知で背中の大鉈を振りかざした。

そして左手で指を鳴らすと、強烈な光が刃に反射して野盗たちの視界を奪った。


意表を突かれた彼らは顔を覆い、仲間の声を頼りに合流しようとしていた。

援護のおかげで馬車の進路変更に成功し、十子たちは再び港に向けて走り出した。



進路変更は罠だった。リーダーが言っていたプランBなのだろう。

気がつけば両脇を急斜面の上り坂に挟まれた一本道に誘い込まれていた。

上には少なくとも20人以上の影がチラつき、背後には鎧を着込んだ男たち。

正面を塞げば囲めるのにそうしないのは、この後のプランがあるからだろう。


「…馬車を捨てましょう」


十子が提案した。

このまま進んでもいい結果にはならない。

馬車が引き返せないのなら歩いて離脱すればいい。

荷物は行商人を演じるための商品で、それほど高級品ではない。

攻撃や略奪はできないので手持ちの金品なら盗られる心配はない。


「トーコの言う通りにした方がいいかと思います

 私の“予感”によると、どちらに進んでも悪い結果が待っていますが、

 “千里眼”でこの先に沼地が見えました 引き返すなら今です」


否定する者は誰もいなかった。それが今できる最良の選択だった。

連中に得をさせるのは癪なので、持てる限りの荷物をまとめて馬車から降りた。


「おやおや、このまま逃げられると思ってるのかな〜?

 悪いことは言わないから、それ全部置いてった方がいいよ〜ん?」


鎧の野盗たちが人の壁を作って進行妨害をしてきた。

“無敵”が仇となって強引に押し通るのは不可能だ。

ここからは持久戦だ。そしてそれはこちらに有利な戦いだ。

我々には食糧があり、普段摂っている栄養の量も質も違う。

食うに困って略奪に走っている人種とはスタミナが違う。


そう思っていた。



ヒュッ、と音がした方向を見ると信徒ジョッシュの胸に矢が刺さっていた。



沼地の方向から歩いてきたリーダーの手にはクロスボウがあった。

坂の上の野盗たちは小型の原始的な作りの弓を取り出し、矢をつがえた。


「……この距離なら当たるみてえだなああ!?

 てめぇら盗賊なめてんじゃねえぞコラァ!!」


突然の出来事に十子は何もできず、ただその場で硬直していた。

それはアリスも同じで、口に手を当てて突っ立っているだけだった。

ジョッシュは何かを喋ろうとしていたが荒い息を繰り返すばかりで、

聖女に救いを求めながら膝から崩れ落ち、やがて息を止めた。


「ウワアアアアッ!!助けてくえええ!!」

「キャアアアアッ!!聖女様ああああ!!」


信徒の誰かが悲鳴を上げ、それに釣られた別の信徒も叫んだ。

彼らは荷物を置いてその場から逃げようとしたが、

人の壁に阻まれてどうすることもできなかった。


「やれ」


リーダーの合図で坂の上から一斉に矢が放たれた。

その命中精度は高く、的確に男性信徒だけを撃ち抜いた。

男だけでなくセイシェルの黒馬も脳天を射抜かれ、

地上に降りた彼は大鉈で矢の雨を払いながら指示を出した。


「…全員、馬車に入れええっ!!」


総代は棒立ちする十子とアリスを抱えて馬車に駆け込んだ。

二人の無事を確認するとまたすぐに馬車を飛び出し、

まだ助かる信徒を拾っては安全地帯に投げ込んだ。

その作業を繰り返す度に背中の矢が増えていった。


助けられた女性信徒は3人だった。

御者席に着いた総代は振り返らずに大声で叫んだ。


「──馬だッ!!」


発せられた意味不明な言葉に野盗たちは首を捻ったが、

その場でただ一人、意図を汲み取った男が指を鳴らした。


突如として馬車の前に強烈な光が発生し、

視界を失った馬たちは驚いて興奮状態に陥った。

総代が鞭を入れると馬車は暴走を始め、

何かを踏み潰しながら沼地へと進んで行った。

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