第參記 人魚の肉料理
「先生、どうすた?」平太が台所にやってきた。
「う、うう?!」刺身の素材を見た平太はその場でうずくまった。
比丘尼!どういうことだ?!
「須佐は元々長生き・・・しかし、不老不死ではないそうな。永遠の命がほしくはないのか?」
誰がそんなことを望んだ?!
「誰もがそう思うはず。ここに来る者達は、皆、そうだ」
スラッ!!日向は刀を向けた。
「殺しなさい!首をはねなさい!私はそれでも死なない」
「先生!やめれ!」平太が止めた。「比丘尼さん、なぜだ?いままでだって誰にも喰わせなかったんじゃろ?」
「虚しくなったのです・・・」
虚しい?
「わたしの後に生まれた者が歳をとり、死んでいく。幾度も見てきたのです。夫が居ました。いつまでも若い私を不信に思っていましたが何も言わなかった。そして歳おいて死んでいったのです」
ここに来て何年だ?
「ざっと300年近く」
さっ、300年???!!
「何時からか?八百比丘尼と言われるようになりましたが、1000年は生きています」
・・・・・・・・・・。
日向も平太も言葉が無かった。
死にたいのか?
「はい」
刀を向けるとなにやら不審な音がした。
それは壁や天井から幾重の物の化が現れ、闘争心丸出しで日向に向けられていた。
むうう・・・。コヤツら比丘尼を守る気か?
「せ、先生まずいよ。おれらが殺される!」
多勢に無勢か・・・。日向は刀を収めた。物の化たちは消えた。
「先生、おら腹が減った」平太の腹がなった。
まともな食事を出せるか?
「はい」
静かに食事が始まった。日向は少し疑いながら食していた。
「日向殿は長生き出来そうですか?」
まだ、言うか?と思った。
わたしはむりだ。ほとんどを人間界で過ごしている。平太はわたしの後を継ぐと言う。それはわたしと運命が同じことを意味する。
「人間の寿命をまっとうすると言うこと?」
我々は元々人間なのだ。長生きとは須佐部落に居るから。あそこは異空間で時間の流れが遅い。
「わたしとは違うのですね」
私は医療に携わることが役目だと思っている。それがわたしの役目。
「医療・・・役目・・・」
人魚の肉を食べて不老不死などは須佐の教訓にはない。
ん?人魚の肉?・・・日向はある考えが湧いた。
「日向殿!」
ん?
「私に医療を教えてください」
なぜ?
「実は昔、怪我をした物の化が寺にやってきたのです。わたしは恐ろしかった。しかし、治療を懇願したんです。それで簡単な治療をしたのです。彼は怪我が治るとわたしの護衛をしてくれるようになったのです。そのうち、仲間がやってきて」
そういうことか・・・。
「だから医師になってあなたのように全国を巡りたいのです」
「全国?あなたはここから出られないんでしょう?」
「そう・・・そうなんです」
「先生、おらたちもだぞ」
とりあえずここに居なければならないのなら教えよう。
「あ、ありがたき」
日向にはある目論見があった。
長生きか・・・・。
日向がおしえたのは主に薬草の調合だった。比丘尼は覚えが早かった。
平太も手伝った。
それはなんとも平和な日々。
おれたちに人魚の肉を喰わそうとした尼と共に生活するとわな。
日向は変なことになったと思った。
そして1年ほど経ち、人の治療なら問題ないくらいの知識を比丘尼は持った。
その集中力はすさまじかった。本気だ。日向は思った。
「先生、なんか陰で1人でなにかやってたね」
ああ、完成したぞ。
「何、やってたの?」
不老不死の薬だよ。
「ええ?!」