第壱記 奥尼寺
日向と平太は山中で迷い、この世のものでないものを見る。そこを声を掛けてきたのが地元の尼僧に助けられる。しかし、日向は「どうもおかしい・・・」と違和感を感じる。
1559年、日向は平太と落ち合った。彼は「第一章 冬山蝉」の時、日向の弟子になった童だ。日向は彼を出雲部落に修行に出した。
それから人世の時では10年と云う月日が経っていた。
「先生、久しぶりだね」
善く修行をしたか?
「うん、法術も少し覚えた」
ほう、たいしたもんだ。
「先生、ふけたね」
失礼だぞ。
日向は人世にいる時間が殆どで、この時間帯で生きている。須佐部落とは時間の流れが異なる。
近々帰ろうと思っているよ。しばらく部落に滞在する予定だ。
須佐は長生き。と、云われる。まちがってはいないが、それは須佐部落あってこそなのでる。その証拠が10年経っても平太は童の姿だ。
この世は医者が少ない。日向は治療が後を絶たない。離れられないのである。
だから平太のような後を追うものが必要なのだ。
お前さん、修行が早くないか?
「うん、現世に行って先生の助手をしばらくやって来いって云われた」
目で見て覚えろってことか。
平太、わかっているとおもうが、須佐はただの医者ではない。だから錬丹術師と呼ばれるんだ。この世のものではないものとも遭遇する。誰からも相手にされない病を見る。命の危険性もある。それが須佐の指名だ。その覚悟で行うんだ。
「うん、ところで先生これからどこに行くんだ?」
この山を越えた小さな村だよ。
2人は山道を歩いた。
霧が出てきたな。たちまち覆われた。
一寸先も見えんな。動くのは危険だ。しばらくここで。
しかし、いつまで経っても霧はおさまらない。
こまったな。
ザッザッザ。するとすぐそばを人影が通った。
地元の「マタギ」かもしれない。声をかけようとした。が、霞んではっきりとはしないがその容姿は・・・・あれは・・・人ではない。
「せ、先生・・・」平太は震えていた。
3mは身の丈がある。
平太、動くな。やりすごすぞ。
ザッザッザ。
行ってしまった。
物の化か?
クワァ。
木の上から何やらが叫んだ。目をやると
何だ?あれは?!鳥か?!
3つ目だ!翼はこうもりに近い。
バサバサ。この霧の中、どこやらに飛んで行った。
「先生、なんだべ?ここ・・・・」
・・・・・・わからん、さっきまでふつうの山中だったのに。
陽も暮れてきた。
「先生、おら、こんなところで野宿は嫌だ」
おれもだよ。しかし、どうしたもんか・・・・。
暗い霧の山中を動き回れば、滑落や足をくじく恐れがある。村は近いが・・・。
「どうなさいました?」
突然、声がした。女の声だ。
うっすらと上からだ。見やると女性が立っていた。尼僧のようだ。
「おこまりですか?」
尼の格好だが美人だ。齢は18ぐらいか?
はい、この先どうしようかと。
「なら、わたしの寺にお泊まりください」
よいのですか?
「かまいませんよ。わたし1人だし、童をお連れだし・・・」
甘えさせて頂だきます。
「先生、綺麗な人で良かったね」
この山の頂上に寺はあるそうだ。登っていくと100mほどで霧が晴れた。そして寺が見えた。
「あれです」
それは数百年は経っている古い寺だ。頂上付近に霧は来ないらしい。ここで自給自足らしい。
「住むにはこまりません。綺麗な山水と畑もありますから」
一汁三菜と云うやつか。
古くはあったが整っている。
ん?
日向は寺の下を見て
はて?
とおもった。
ここにはどれほどお住まいですか?
「・・・・・・それは・・・・」
?・・・そんなまずいこと聞いたかな?
「お食事をご用意しましょう」
「わーーい!」
平太!
尼はくすっと笑い、「ご坊は嫌いな山菜はおありですか?」
「ねえです。おら、山村の出じゃから」
「そう、それはよかった」
尼は食事の用意しに台所に行った。
「先生、優しくて美人で云うことないね」
うん、助かったな。
しかし、日向は云いしれぬ違和感を感じていた。
さきほどの生き物といい、この寺院を上から見渡すと、この寺を囲んで霧が発生している。まるで下界とここを遮断しているように見えた。
尼にも違和感を感じていた。その違和感が何なのか?はっきりとはわからなかった。