第1話
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「ごきげんよう。ゴキブリかと思ったらアリシアお姉様でしたのね」
金髪をすとんと落とし、フリルがたっぷりあしらわれたサーモンピンクのドレスを身に纏った少女が、耳を疑うような言葉を発した。明確な悪意を持った言葉を発したのはしかし、いじめっ子ではなくアリシアの妹だ。
「ごきげんようエリス。私とゴキブリの区別がつかないなんて……悪いのは目? 頭? それとも両方かしら」
「嫌味で言ってるんですッ!」
「分かっていてよ? 嫌味で返しただけなのにそれも理解できないなんて……やはり頭が……?」
深刻そうな顔で俯けば、ハーフアップにした銀髪がさらりと流れて陽光にきらめいた。端正な顔立ちに凛とした佇まい。エリスとは真逆と言っても良い雰囲気だが、学園中の男性を虜にするほどの美貌だった。
「きぃぃぃっ! これだからお姉様が嫌いなんです!」
「私は大好きですわ」
「ふ、ふんっ! そうやって余裕ぶっていられるのも今のうちです!」
時刻は昼。弁当を広げる場所を求めてさまよう生徒たちが噴水前でのやりとりにぎょっとして、それから「ああ、またフローライト姉妹が喧嘩してるのか」とやや距離を取りながら興味を失っていく。
「お姉様に縁談の話が来ました!」
「なんで私より先にあなたが知ってるの?」
「朝、お父様が執事のセバスチャンと話をしているのを聞いたのよ!」
「お父様もセバスも、後で折檻ね……」
「何か言いました?」
「なんでもないわ……お父様が起きてきた時に家にいたってことは、学園は遅刻したのね?」
「う、うるさいです! お姉様には関係ありませんわ!」
「……それで、お相手はどちらでしょう?」
「アルフレッド・ヴァーミリオン公王閣下ですわ! 素手で人を切り裂くとか、敵対した人間を食べると噂の獣人王!」
エリスの言葉を受けてアリシアの脳裏に浮かぶのは一冊の絵本だ。
擦り切れるほど読んであげたそれは、全て暗記しているほどお気に入りだ。
「ああ、懐かしいわね。三歳のあなたは『人の勇者と獣人の魔王』を読むと泣きながら逃げ惑っていたものね。……でもあれは創作よ?」
「わ、忘れかけていたトラウマが……! そ、そんなことよりも! どんな気分ですか、獣人に嫁がされるのは!」
「どうもこうもないわね。家の事情や国のパワーバランス、その他諸々を考えて、あとは獣人王閣下本人がどんな人なのかを見て決めます」
「果たしてそううまく行くかしら」
にやりと笑うエリス。
「……エリス。まさかとは思うけれど、勝手に返事を出したりはして──アッ、こら! 待ちなさい! 逃がさないわよ!」
「もう授業が始まってしまいますわよ! 私と違って優等生のお姉様がサボりなどと──」
「第二言語学は卒業分まで勉強し終えてますからあなたにお仕置きをする時間くらいはありますッ!」
「ひぃっ!? け、計算外ですわぁぁぁ!」
追いかけっこをするという、淑女にはあるまじき行為。
ましてやそれが宰相を務めているフローライト公爵家の娘ともなれば醜聞と言われても仕方がないのだが。
「……フローライト姉妹は今日も元気だな」
生徒も教師も、学園の者たちは慣れ切っていた。エリスの悲鳴を聞き流すほどに。
ちなみに捕まえたエリスを自白させたところ、偽の手紙は頭が痛くなるようなポエムが散りばめられた恋文だった。
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