決意と勘
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夕食をとりながら父セブルスに今日学校であったことを話した。
「なんだと?!殿下がエルトニアとの婚約話を皆の前でしゃべったのか??!」
「皆の前で話したのはベル・ハードン伯爵令嬢です。ベル嬢に話したのは殿下です。」
「それなら言ってることは一緒だ!」
セブルスは眉間に皺を寄せ、こめかみに手を添えていた。
「それにしても後先考えて行動しているのか、奴らは。」
「考えていないと思います。でもこれであのお2人はこのままお付き合いを続け、幸せになれると思っているのでは?私は邪魔者でしたから排除するためにエルトニアの名前を出したのだと思います。」
「そこへクラウドとかいう奴が登場したんだろ?」
兄カインが得意気に話を被せてきた。
「クラウド?誰だ、それは。」
「エルトニアの公爵令息らしい。そのクラウドって奴が今セレナのクラスに留学に来ていて仲良くしているんだろ?それで退治してくれたと聞いた。」
カインはニヤニヤしながらセレナの顔色を伺っていた。
「図書館でお会いしたらお話しする程度です。お父様、誤解はされないでくださいませ。」
カインの話は誤解される言い方だ。こんな状況のときに誤解されたら話がややこしくなるだけだ。クラウドにも迷惑はかけたくない。
「その公爵令息が殿下達に対抗したというのか?」
「・・・はい。私がエルトニアへ嫁ぐことをナルシャの国王は止めないのか?エルトニアは歓迎だからありがとう、という内容のお話をしてくださいました。」
「自分の国に嫁いでくる令嬢をあの2人の嫌がらせから守ったわけだ。」
カインがニヤニヤしながらセレナの話に相槌を打つ。
「お兄様は先程からなぜいつも以上にだらしない顔をされているのですか?不愉快です。」
「酷いぞ、妹。」
カインはジト目でセレナを睨むが相手にしない。
どうせまたくだらない新しい噂が流れているのかもしれないとセレナは憂鬱になる。食事が終わり、紅茶で口を潤した。
「セレナ。」
セブルスが名前を呼ぶとセレナは遂にきたと背筋を伸ばす。
「昨日の話の答えは出たのか?」
「はい。お父様。」
ー後悔はしないわ。
「私は誰とも結婚いたしません。なのでせっかくの申し出ですがお断りいたします。」
「理由は?」
「お慕いしている方がいるからです。その方以外は考えられません。申し訳ございません。」
こんな理由で断るなんて公爵家の恥とわかっている。わかっていてもクラウド以外と結婚は考えられない。今日一緒にいた時に考えが固まったのだ。
セレナが深く頭を下げるのをテーブル向こうのセブルスが眺め、ため息をついた。
「謝る必要はない。」
「ですが・・・公爵家の娘として嫁ぐ方が国にとって良いに決まっています。それを理解しているにも関わらずお断りするのです。一生お詫びし続けます。」
「その必要もない。断るのは私の仕事であり、相手はまた他に頼めばいいのだから。」
「お父様・・・!」
大粒の涙が溢れ出しそうになる。家族の前でもこんな姿は令嬢として見せてはならない。
「ご苦労だったな。もう今日は休みなさい。エルトニアの王子とマルクス殿下との婚約は白紙にするから安心しなさい。また落ち着いて話す気になったらその慕っている相手とやらの話も聞かせなさい。」
「・・・はい。お先に失礼いたします。おやすみなさいませ。お父様、お兄様。」
悩んだ時間は短かったかもしれないが今までの人生の中で一番悩んで決めた結果だ。後悔はしない。
セレナはやっと話せて力が抜け、ゆっくり休んだ。
「断るかぁ。お兄ちゃんびっくり!」
「セレナの口から好きな人がいると聞くのは初耳だ。相手はどこのどいつだ?」
セレナが部屋に戻ってからも親子の会話は続く。
「それはクラウドって奴に決まってる。」
「そうなのか?!」
「これは兄の勘、というよりまた新たな噂になっているからなぁ。それよりも1つ気になる調査結果があって、親父に報告と質問があるんだ。」
1枚の紙をセブルスに渡すとカインが話し始めた。
「エルトニアの王太子様ってのはなぜ名前を隠しているんだ?顔や特徴さえも不明だと。調べてもわからなかったらしい。」
「名前は成人を迎えられたら発表するらしい。あと今の話で訂正だ。まだ第一王子は王太子ではない。仮とされている。成人になられたら王位継承権を与えると前に聞いたことがある。」
「なぜ名前を隠す必要があるんだ?」
「命を狙われたことがあるからだ。だから特徴も隠しているんだろう。それで国外に逃げているらしい。」
「ふ〜ん。まさか・・・な。」
カインは新たな調査対象者を追加した。
これは次期公爵様の勘だ。
平日早く書けないかもしれませんがこれからの展開を楽しみに待ってていただければ幸いです。