第5話 ロリ狐ンと仮初の日常
相も変わらず、私の朝は自分のお漏らしの後処理とその原因を作っている親子に見つめられて大笑いされる羞恥プレイから始まる。
ぐぬぬと口をへの字にしながら、大きな桶に入り、泡まみれになりながら朝の恒例行事を済ませる。
もうこの屋敷に来て数日になるが、奴隷という割には扱いはそれほど酷くなく思えてしまっている自分がいる。前世で漫画なんかで読んだ知識には、食事を十分に与えられないまま重労働をさせられたり、殴る蹴るの暴行を受けたり、毎夜毎夜慰み者にされたり……とそういうものしかなかったので、少々肩透かしをくらっている。
そもそも犯罪を犯したわけでもないので奴隷にされる謂われなかったりするのだが、言葉がわからないので反論の機会はない。
屋根と壁とベッドがある場所で眠れて、服も着られて、豪華とまではいかないが人として最低限の食事も与えられている。
自由時間こそないが、自分の意識がこの体に馴染む良い練習になっているとは思っている。我自身も忘れそうになっていたが、この世界に転生してまだ一週間ちょっとくらいしか経っていなかったりする。
前世の記憶は覚えてこそいないが、とりあえず狐娘に生まれ変わってしまったのだから、精一杯今を生きるしかないと思う──なんて考えていたら坊ちゃまがまた我のスカートを捲っていた。もう慣れたので羞恥心ももうない。
スカートを捲り上げられたまま先輩メイドに教えられたモップ掛けを淡々とこなしていると、坊ちゃまは最初の初々しさを求めていたらしく、半目でギロリと睨むと愕然として一声吠えて逃げて行った。ドロワーズを履かされているので、とりあえず見られても特に問題ないとは思っている(はしたないとは思うけれど)。
エロガキには困ったものだが、坊ちゃまと我が一緒に過ごしているのを見る小太り男の視線が、最初に会った頃と全然違うように思う。最初の頃はそれこそ性奴隷でも品定めするような目つきだったが、今ではなんというか慈しみ? すら感じるように思う時がある。
この屋敷に奥様の姿は見かけない。旦那様の部屋に大きな額縁に入った肖像画が飾られている。
察するに故人なのだと思う。前世で言うならウエディングドレスに近いような服に、つばが全周に大きな帽子を被り、はにかむような笑顔でこちらを向いていた。絵だから多少美化されているとは思うものの、我が見ても美しい女性だとは思った。その後に鏡を見て思ったが、髪の色とか目の色とか、我はその肖像画の人物に近い色をしていた。だから旦那様も坊ちゃまも私に奥様の面影を見出しているのかも知れな──前言撤回、坊ちゃままた悪戯しようとして駆け寄ってきて、我の近くで転んだ弾みにドロワーズを掴んで足元までずり下げやがった──‼
数秒のフリーズののち我に返り、怒りとも羞恥心ともどちらとも言えない感情が巻き起こり、悲鳴を上げてしゃがみ込んでしまう。
不意の出来事でそんな反応をする気はなかったのだったが、これでは坊ちゃまを喜ばせてしまう。
手早く脱がされたドロワーズをずり上げてモップを振り上げ、すでにダッシュで逃げ始めた坊ちゃまを追い掛け始める。
なんだかんだで慣れてしまえば楽しい日常ではあった。これはこれで幸せの一つの形とも言えなくもない。いつまでも続いて欲しい──この日はそう思っていた。