第3話 ロリ狐ンと奴隷落ち
麻袋に視界を遮断されたまま、右に左に上に下に。重力加速度のアトラクションを楽しんでいた。
目隠しの隙間はあれど、麻袋が遮っている。
乱暴に荷台か何かに積まれてずっと馬の蹄の音を聞いていた。
どれほど経ったのかわからなくなった頃、馬車が停止するのを感じた。
程なくして担ぎあげられ、どこかに運ばれる。
人間の歩きに合わせて体が上下するのを感じた。
しばらく揺られていると急に降ろされ、何か堅い椅子のような物に座らされた。背中とお尻に硬い感触があった。
麻袋がゴソゴソと動き、頭だけが解放された。新鮮な空気を感じる。目隠しの隙間から、何かの屋敷の一室に運ばれたのだとわかった。
誰かが後ろに立つ気配がして、目隠しが解かれる。
少し目が眩む。
とりあえず、周りを見回して状況を把握する。
どこか貴族の屋敷のような一室に、正面の机に少し小綺麗に着飾った小太りの男。いやらしい目つきをしている。我が座る椅子の後ろに初めて見る男2人が立っていて、すぐ横に頭領がいた。
小太りの男が頷くと、後ろにいた男2人に脇を抱えられ、麻袋を脱がされた。
肌着と枷という背徳的な格好になった所でまた椅子に座らされる。
小太りの男のいやらしい視線が我の全身を舐めるように見ていく。
我を売りに出した時の金勘定でもしているのだろうか。
きっと我はこのまま奴隷として扱われ、華々しい異世界生活!──なんてものはなく生涯を潰えるのだろう。もしかしたら小太り男の慰み者にされてその生涯を終えるのかも知れない。
現状では絶望しかない。暴れているわけではない我を保護するのだとしたら、手枷足枷首輪のフルセットでつける必要はないのだから。そもそも幼気な幼女を肌着姿で置いておいたりしないだろう。
頭領と小太りの男は何やら話を始めた。きっと我をいくらで売る買うの話だろう。
小太り男が懐から布袋を取り出し、中から金貨を取り出し積み上げていく。
自分の金額を眺めている訳だけど、おお!──結構積み上がったぞ、我ってばすごい!
この世界の貨幣価値は分からないけれど、どこの世界だって金ピカしているものが一番価値があるに違いない。金持ちは光物が好きな生き物だ。
頭領が積み上がった金貨を見て首を横に振る度に、金貨のタワーが高くなっていく。
金貨のツインタワーができた頃になって頭領が頭を縦に振り、小太り男は何か嫌味事でも言うようにブツブツと言いながら別の布袋を取り出して、ツインタワーを手で払うようにがーっと崩し入れ、金貨がたんまり入ったばかりの袋を頭領に投げた。
頭領はずっしりとしているはずの袋を片手で軽々と受け止め、懐にしまう。
我から逸れていた小太り男の意識が再び我に向く。ニチャァという擬音が相応しい、いやらしい笑みがこちらを捉えて離さない。
──あ、これは貞操の危機かも知れん。
自分のことなのに酷く他人の事に思えていた。水たまりで見た我の姿は一桁台の齢だとは思う。そんな我に劣情を催すのだからこいつはきっと変質者極まりない。
小太り男が席を立ち机を迂回して近寄ってくる。
小太り男が頭領に何かを尋ねるように言うと、頭領は声もなく頷く。
ヌッと我の首元に汗臭そうな手が伸びてきて、その手の平を首輪にかざした。
小太り男が目を閉じると、手の平の中心に淡い光が集まって二重の円が構成される。小さかったそれは徐々に手の平の2倍ほどの直径になり、二重円の間に文字のようなものが浮き出てきて、今まで見たことのない紋章のようなものが内円のさらに内側に現れた。
ふん、と小太り男が力を込めると紋章は手の平から我のしている首輪に移り──思わず手枷のついた手で首輪を取ろうと掻きむしってしまった。
首輪のサイズは変わっていないのだが呼吸が突然できなくなった。
咽に栓をされたかのごとく息を吸えも吐けもしない。
小太りの男は我に何かを怒鳴っているが意味がわからない。
徐々に意識が遠くなり、ブラックアウトした──。