第七話 審判
ここは… 何処だ……。
揺れてる…?
… くそ 、 頭が痛くて … 思考が …… 纏まらない …
何とか上半身を起こすと、近くにあった置物に背を預け大きく深呼吸をして思考をクリアにしていく。
よし、取り敢えず状況を整理しよう。俺はギルドで何故か捕まって、頭殴られたって所までは覚えてる。後は…っそうだ、アレン!
急いで周りを見渡すと、隣でまだ気絶しているアレンが目に入り安堵した。
「アレン。おい、アレン」
軽く揺さぶり意識の覚醒を促すも、黒部よりダメージを受けているらしく起きる気配はない。
「くそっ、俺だけじゃ何も分からないぞ」
騎士団が言っていた " 化ける者 " 。その意味は全く分からないままだ。
俺は怪物にでもなるのか?
ぶつぶつ独り言を呟いていると、ようやくアレンも目を覚ました。
「黒部…さん…?」
「アレン!」
無事で良かった!と思わず抱き締める黒部に、アレンは顔を真っ赤にし慌てた様に両手を振った。
「く、黒部さん!? 僕そういう趣味は! 」
「バカ、分かってるよ!お前が目を覚ましてくれなきゃ何も出来ないからな…良かったよ 」
身体を離し荷台の壁に背中を預けると、少し真剣な眼差しでアレンへと疑問を問い掛ける。
「アレン。多分聞きたいことは分かってるだろけど聞かせてくれ。お前やアイツらが言う、化ける者って何なんだ?」
「それは… 」
「着いたぞ。降りろ」
馬車の扉が突如開かれると、女騎士からそう告げられる。
タイミング良いのか悪いのか。だが俺も学んだ。今は大人しく連行される事にしよう。
外の眩さに目を細めながら馬車を降りると、目の前に広がる光景に黒部は絶句し身体を固まらせた。
「これが監獄なのか?」
「はい。そして僕達が審判される場所でもあります」
先程居た市役所などとは比較にならない程広く神々しいそれは、矮小な二人を見下ろし佇んでいる。
【大監獄ペリト】
ヴィナスターク最大の監獄であり、犯罪を犯した者や男が審判に掛けられる場所でもある。
此処に入れるのは上記で説明した者以外に 王族や騎士団の上層部、貴族しか許されていない。
例え他国の貴族や王族であろうとも、相当な事情が無い限りは入る事の出来ない閉ざされた監獄、それがこの " ペリト " だ。
「さっさと歩け、愚図が 」
手と足に枷を付けられ、囚人の様な姿で歩かされる2人。一言でも話せばまた制裁が下るであろうと考え、お互いアイコンタクトを取り無言で目を伏せる。
相当な時間歩いているが、まだ牢獄に着く気配が無い。アレンへ目を配ると肩を上下に揺らし汗を流している。かなり消耗している。それもそうだ、肩と脚を負傷しているのだから。
歩けど歩けど眼前に広がるのは馬鹿デカい廊下と使い道があるのか分からない部屋ばかり。
こんなに部屋あってどうすんだよ。掃除する身にもなって考えてやれよ、ここの王…いや、女王か。
額に滲む汗を頬に流しながら、黒部は考える。
こんな場所へ連れて来られると言うことは、少なくとも "化ける者 "は希少価値がある。それはアレンの反応や女の反応を見れば火を見るより明らかだ。
俺が知りたいのは、" 化ける者 " がどう言う力を秘めているかだ。
もしも女に抗える力があるなら…いや、今そんな妄想はやめておこう。後で落胆するのも嫌だしな。
俺が抵抗すれば、アレンだけじゃなくて村の住民まで被害が及ぶだろう。
穏便に済ませる為に話し合いは絶対無理だ。やはり力が要る。
男は使えると言う根拠を持たせる為の強い力が。
それが俺にあるかは分からないけど、やらないで後悔するよりやって後悔する方がいい。
だが、それは今じゃない。アレンの安全も確保出来た上で考えよう。長い思考の末に考えを纏め、目的を決めた。
「着いたぞ。ここでお前達を拘束し、一週間後に裁判へ掛ける」
中は無機質な灰色の部屋であり、部屋の天井の至る所に防犯カメラ?と思わしき物が付いている。
「飯は一日一食。与えられるだけでも感謝しろ。家畜の残飯だがな」
聞いてもない事をペラペラと。こいつもよっぽど男が嫌いらしいな。
俺を気絶させた女程じゃないが、この女もきっと強者だ。今抵抗するのは得策じゃない。
黒部とアレンは別々の部屋へと閉じ込められる。部屋の中にはプロジェクターの様に壁へ映像が投射されていた。内容は女がどれほど偉く崇高なものか説明している物で、同じ内容がループし続けている。
これで男を洗脳し良いように扱うのだろう。洗脳するにはアレンが邪魔になるだろうし、別室になるのも頷ける。
だが、俺はそんなもんに操られない。と言いたい所だが、洗脳の魔法とやらが存在するならきっと俺は対抗出来ないな。
与えられた一週間で" 化ける者 " を理解し それを操る事が俺の使命。んでアレンを助けてトンズラする。
牢屋の中で思考に耽る黒部に突然、
( おい )
と、話し掛ける謎の声。
「っ!誰だ!」
(声を出すな。俺は今お前の脳内に直接話し掛けてる )
うわ、ベタな台詞…じゃない。
(アンタ誰だ。その声からするに女ではねぇよな )
(嗚呼。お前とは違う部屋に閉じ込められている、正真正銘の男だ )
(アンタも閉じ込められてるって、犯罪でもやったのか?)
(違う。俺もお前と同じ " 化ける者 " で捕まった人間だ)
(なっ… )
俺以外にも " 化ける者 " が居たなんて、これはとんでもないチャンスだ。
(だろ?これはチャンスだと思わないか?)
(…勝手に思考を読むの止めてくれ。んで、アンタは俺の思惑に賛成って事で良いんだよな)
(勿論。お前が監獄内に来た時から大体の思考を読み取ったからな)
(その趣味やめた方がいいぞ…)
(ははっ、違いない。で、お前の知りたがっていた " 化ける者 " についてだが…)
来た。この情報を得れば、少なくとも俺がどう言う事が出来るかを絞れる。絞れたら後は行動に移せば良いだけ。出来ればいい情報であって欲しい。
(化ける者ってのは、プレミアの上位互換。つまり、女を脅かす存在に付けられる呼び名だ。俺の能力、名前は文字化けして見えなかったが こう言うテレパシーみたいなものが使える )
(脅かす…プレミアより上位互換。成程、だから騎士団が直々にお迎えに来たのか。捕まえるだけならそこら辺の警備兵でも良かった筈だったからな。色々合点がいったよ )
(そして、" 化ける者 "は通常よりも強い力を使える。言わば固有能力、プロエレフスってやつだ。固有能力にはそれぞれ名前が付いている。名前付きの能力は全部強力で厄介なものばかりだ )
(じゃあ、女に対抗することも…)
( 可能だ )
黒部は歓喜で両拳を強く握り締め、小さくガッツポーズを取る。
これで証明出来る、男はお前らに負けない強さがあると。
散々迫害されてきた男達が、牙を向いてお前らの喉元に齧り付く事が出来る様になる!
(待て待て、早まるな。確かに俺たちは化ける者だ。だからと言って勝てるなんてのは早計だぞ。俺はここに来てもう5年になる。能力開花させたのはつい半年前ぐらいだ。能力の名前は分からないが、この能力を使って至る所から情報を集めた。お前はラッキーだな)
(あぁ、情報をくれた事には凄く感謝してる。でも何で早計なんだよ。対抗は可能なんだろ?)
(対抗は可能だが勝てるとは言っていない)
(じゃあどうすりゃいいんだよ!)
(落ち着け、焦るな)
男の言葉に はっと顔を上げると、ガラスには呼吸を荒くし表情を歪めた自分の姿が映る。
(…俺は女が許せないんだ。俺の大切な人を傷付け奪っても尚のうのうとしてられるあの姿が、俺は忘れられない )
俺にきゃーきゃー言ってた女共もきっと加害者だ。桃香をイジメてたなんて知る由もなかった。あの時俺が気付いていれば。
(事情は分かった。…もう一つ伝え忘れていたが、化ける者の殆どは……" 転生者 " だ)
(な…て…、転生者…!?)
小説でしか聞かないその言葉に 黒部は呆然とした表情しか浮かべられない。
( 俺もかつてはここと違う世界に住んでいた。しかしある日、事故に合って目が覚めたらこの世界へと来ていた )
(ま、待てよ。転生者って事は俺は死んだのか? )
有り得ない。俺はあの日家に帰って鍵も閉めた。窓も同様に。
誰かが俺を殺した?そんな恨まれる様な事はしていない…筈だ。
(身体の何処かに転生紋がある筈だ。そもそも、ここに来る途中、よく分からない者と話さなかったのか? )
( 話した記憶は無い…。家で寝て気が付いたらこの世界だ )
(それは聞いた事がないな)
男も眉を顰め、顎に手を当てて考え込む。
(正直、俺が転生者かそうじゃないかなんてどうでもいい。今はここを出て俺の友人を助ける。話はそれからだ)
(ふむ、分かった。では、俺が知りうる限りの情報をこの一週間で伝える。能力の目覚めさせ方もな)
(頼む、師匠)
そこには居ない師匠に黒部は頭を下げ 、瞳に決意を宿した。必ず力を使える様になると。
読んで頂きありがとうございます。