第六話 化ける者
久々の投稿です
さて、ギルドに来たのはいいものの…まぁこういう反応だわな。
中に入った二人を待っていたのは、外でも感じた気持ちの悪い物を見る視線。そっちの気がない奴には反吐が出そうだろう。
「 なぁ、アレン。俺はこれから住民登録をする訳だが、手ぶらで大丈夫なのか?」
「 はい 、ここでは自分の血を使って登録をするので大丈夫ですよ。」
「 そこは古いやり方なのか。痛いのはなるべく避けたいんだけどなぁ」
「 そこまで痛くは無いですけど、やっぱり自分の血を見るのはちょっと嫌ですよね」
苦笑を浮かべるアレン。そして読めはしないが、恐らくここで登録するであろう窓口へ到着する。
「 あの、住人の登録漏れがあったので…登録をお願い出来ませんか?」
女は視線も合わせず、ぽいっと紙一枚とペンを投げる様に渡す。
「 ここの従業員はまともに接客も出来ないんだな」
黒部の放ったその言葉に、その女は睨み付ける様な視線を送る。
「 ゴミの分際で話してんじゃないわよ」
「 なんだ、話せるんじゃないか」
チリチリと見えない火花が二人の間で飛び交うのを見ていられなくなったアレンは二人の間に割って入る。
「 す、すみません!この旅に出て記憶が欠如してるみたいで!」
あ、そんな設定だったな。等と呑気に考えながら、女から視線を外す。
「 どうでもいいから早くしてくれない?あんた達に割く時間が勿体無いの」
はぁ、と馬鹿にした様な溜息を吐き女は席を立つ。
「黒部さん。こんな所で騒ぎを起こす訳にはいきません。どうか落ち着いて下さい 」
「悪い。ついカッとなっちまった」
頭を軽く掻き "すまん" と謝罪を述べれば、アレンは優しく笑顔を浮かべ頷く。
何こいつホント天使だな。
「さ、ここに名前と年齢を書いてください。そして、この水晶玉に触れると 黒部さんの持つ力…つまり全体力数と、何か魔法や力が有れば表示されるのでそれを書き込んでから最後に血印を押して下さいね」
そうか、俺もどういう訳かこの世界にやってきたって事は、そういう力が宿っててもおかしくは無い。
本当ならアレンに頼んで逆襲するつもりだったが、もし俺に力があるなら。
そう一縷の望みを心に宿し、そっと水晶玉に触れた。
「 アツユキ クロベ 。年齢 20歳。身長は187cm… 」
此方の文字はまだ読めないので、代わりにアレンに代読して貰う。言葉だけは何故か理解出来るのは自分にも理由が分からないから考えない様にしている。
「 魔法力数……え… ?」
「 なんだよ。どうした?」
急に黙り込むアレンに、黒部は首を傾げて見詰める。
「 …読めないです。身体力数も、魔法力数も魔法適正も…全部読めません…!」
不思議に思い水晶玉を覗き込むと 、そこには
魔法力数 ( 辟。髯 ) 、身体力数 ( 譛?蠑キ ) 。 魔法適正 ( 蝗コ譛蛾ュ疲ウ 蠑キ繧ュ繝「繝… )
何処からどう見てもバグってる…いや、これは俺の世界の文字!でも文字化けして何書いてるか分からない。
「これ…もしかして…化けっ…」
アレンが何かを言おうとしたその瞬間、突然黒部の身体は地面へと押し倒され身動きが取れなくなってしまった。
「動くな!!」
突然黒部を拘束したのは、先程受付にいた女であり 水魔法で黒部の両腕を縛りつつ膝で背中を押さえ付けられた。
「痛っ!いきなり何すんだ!」
突然の事に流石の黒部も混乱を隠せず、背中の女に怒号をぶつける。
「此方ギルド・ヴィナスターク。化ける者を捉えた。至急騎士団を要請する」
別の受付の女が何処かへと連絡をすると、電話らしき物を切った。
「ふん、まさか化ける者が紛れて居たとはな。思ってもない収穫だ」
「んだよ、化ける者って!! 」
「知らないならそれでいい。お前は騎士団に連行して貰う」
はぁ!? 俺は何も悪いことしてねぇだ!と内心叫びながら、アレンへ目を配り
「アレン!何がどうなってる!」
と、説明を求める。…が 。
「黒部さんが…化ける者だったなんて…」
呆然としながら動けないでいるアレンに再び大声で呼びかけた。
「アレン!!俺はいいから逃げろ!」
と叫ぶ。はっと我に返ったアレンは、そんな事出来ない…と言わんばかりに黒部を見つめ、そして小さく呟く。
「黒部さんは、何が何でも助けます…!!」
突然眼光が鋭くなり、アレンは自身が持つ水魔法を発動すると 黒部を拘束する女へと水の弾を発射した。
しかし、女は同じ水魔法で壁を作ると それを弾き返しアレンへとぶつける。
「っく…!!」
幸い弾の威力はそこまで無いため、受けた箇所に穴は空かなかったものの足と右肩から出血し膝を付いてしまう。
「なんだ、そのハエみたいな水弾は」
膝を付くアレンを嘲笑しながら馬鹿にする女。黒部は何とか拘束を解こうと怒りも込めて力を入れるが微動だに動かない 。
「無駄な抵抗はやめておけ。お前の骨が折れるぞ。ま、折っても構わないんだが、傷を付けては怒られてしまうからな。で、そこの男。アレン?とか言ったっけ。アンタは私達に逆らった罪で投獄だ。最悪処刑も有り得るから覚悟しておくことだ」
くっくっ 、と周りから小さな笑い声が聞こえる 。 黒部はここまでの差があるのか…と悔しさに唇を噛む。
「アレン!なんで逃げなかった!」
血が滲む肩を押さえ、アレンは微笑む。
「黒部さんは僕達の希望ですから」
何処から来たかも分からない、こんな俺を村の住民として受け入れてくれるだけでは無く ここまでの信頼、そして勇気を見せてくれた。
アレン、お前は絶対に助ける。何があろうと必ず…!!
そう心に誓った黒部は、強く拳を握り締めた。
「来たみたいね」
女が外に目をやり、ガチャガチャとした音が市役所の入口から此方へと近付いてくる。
「ご苦労。化ける者は 騎士団ヴァテックスが引き受ける。反逆したそこの男もな」
こいつらが騎士団。見て分かる、歴戦の猛者だ。女とは言え、白銀の鎧を身に纏ったその姿は威厳と実力があると言わざるを得ない。
「アレンは関係ない!俺だけ連れて行け!」
「五月蝿いぞ。話していいと許可した覚えはない」
そう言って女騎士は剣の鞘で黒部の後頭部を峰打ちし気絶させる。
「 黒部さ…っう…!」
黒部に寄ろうとしたアレンも同様に気絶させられると、肩に担がれ
「 では行くぞ 」
女騎士は乱雑に二人を馬車の荷台に乗せ、馬を引き何処かへと向かうのであった。
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