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女(バケモノ)が支配する世界に逆襲(しかえし)を。  作者: Y×2
一章 大都市ヴィナスターク編
3/22

第三話 目を覚ませば

どうも、Y×2です。

今回の話もゆっくりと適当に見ていただけたら嬉しいです。

 









  黒部は夢を見ていた。


  深い深い闇の中に、一つの光が見える。


(あれは……)


  その光に近付いていくと、徐々にその正体が見えてくる。


( ピンク色の髪に薄い青の瞳…桃香!!)


  その光の中の彼女に向かって全速力で走るも、全く近付くことは出来ない。


  徐々に消えていく彼女。


(待ってくれ! 俺は…俺はお前の事が……!!)


  最後の言葉を言いかけた途端、更に眩い光が黒部を包み込む。そして


「ん……」


  窓から差し込む日差しに思わず開けかけた瞼を再び閉じる。 それを避けるように顔を逸らし、再び目を開けようとすればふと異変に気付く。


  地面が柔らかい。まるで干し草の上に座っている様な感覚。


  それだけではない。臭いもまるで厩舎の様に獣臭い。

  そんな酷い臭いになるまで掃除していないことはない筈だ。いや、なる訳ないと重い瞼を完全に開ける。

  目の前には、部屋に居るはずの無い大きな馬の顔があった。


「………」


  一瞬理解が追いつかず、ボーッとその馬と数秒間見つめ合う。

  そして状況を理解すれば、思わず変な声を上げ、別の角へ四つん這いで逃げる。


「うぉぉぉぉぉぉ!?う、馬…!?俺馬なんか飼ってねぇぞ!一体どうなってんだ…!!」


  周りを見渡せば間違い無くそこは馬小屋である。

  しかし、黒部が厩舎へ移動したなんて記憶は全くない。

  これは夢かと疑ったが、匂いも尻に伝わる干し草の感触も夢にしては余りに鮮明すぎる。


(これは現実なのか…ここは何処なんだよ!)


  何度も頬を抓ったりしてみるも、確かに現実と言う事に変わりはない。


  取り敢えずここから出ようとゆっくりその場から立ち上がれば、厩舎の出口は無いかと見渡す。


  馬は五頭ほど飼われており、だいぶ小柄な厩舎である事が分かる。幸い出口はすぐに見つけられたので外へ出た。


  しかし、そこに広がっていた光景は想像を絶するものであった。


「 なんだここ。まるでゴーストタウンじゃないか」


  小さな畑と濁った川が近くにあるだけで、誰が見ても人が住んで居なさそうな廃れた家がポツンと何件か立っているだけである。


「馬が飼われてるって事は、人は住んでるんだろうけど…それにしたって酷い環境だな」


  デコボコして歩きにくい赤茶色の砂の地面を靴下で歩く。足の裏が痛いが、足ツボのマッサージになって丁度いいと割り切りつ家を覗き込んだ。


「誰も居ないですかー」


  自分の声が小さく反響するだけで返事は無い。


  ここは馬が放置されているだけで人が居ないのかと一瞬考えたものの、馬にはまだ新しい器具が取り付けられていた所を見ればそんな事は無いと考え人探しを続ける。


  だが、どの家を見ても人がいる気配がしない。


  それどころか馬以外の何の生き物も生息しているようには見えなかった。


「マジでどうなってんだ…」


  流石に困惑せざるを得ない。なんせ目を覚ましたら目の前に馬と目が合い、外へ出てみれば赤茶色の荒野が広がっているのだから。


  参ったと言う様に肩を落とし頭を掻いていると、遠くから土埃を上げて何かがこちらに向かって走って来るのが見えた。


  目を凝らしてそれを見てみると、複数の馬が引く少し大きな馬車がこちらへと向かってくる。


 街の入口であろう所で停止した馬車からは、60代ぐらいの年配男性が1人、もう1人は17歳ぐらいの青年だろうか。その2人の男がこちらへと歩いてくるのが見えれば、咄嗟に近くの家の中に身を隠し、警戒しながら観察を始めた。


「…はぁ、ここもとうとう捨てられたか 」


「仕方ないよお爺ちゃん。ここも大地が死んで僕達の村に移住せざるを得なかったんだから 」


  「そうじゃな。取り敢えずここの村の住人たちの登録は済んだ。いつも悪いな、アレン」


  「ううん、いいんだよ。その為に居るって言っても過言じゃないし」


  そう言いながら微笑みを浮かべる青年は無理して笑っているのが直ぐに分かった。


  隣のお爺さんもそれを察してだろうか、小さく微笑みを返して厩舎の方へ向かった。


  それを見計らって家から出れば、馬車の荷台へと駆け寄り、そっと荷物に紛れて観察を続ける。


  そこから数分後、二人がこの村に残っていた馬の手綱を引きながら戻って来た。


「流石に5頭一気に連れて帰るのは無茶かのう?」


「ん~、2頭ぐらい荷台に乗せる?」


「そうするしかないじゃろうな」


  会話の内容を聞いて黒部は嫌な予感が背筋を震わせる。しかしそこから動ける筈も無く、結局荷台に馬を乗せて馬車は出発した。


「……近え…。そして臭え…」


  馬に挟まれながらスンスンと臭いを嗅がれたり、ベロベロ舐められたり、いつ終わるか分からない地獄を味わいながら目的地への到着を待った。


  どれぐはい経っただろうか。馬車はゆっくりと停止し、保護した馬を荷台から下ろしはどこかへ連れて行った。


  そこを見計らいズルズルと身体を引き摺りながら馬車の荷台から転げ落ちる。


「はぁ、はぁ……危ない危ない。なんか綺麗な川が見えたのは気の所為だよな」


 長時間も馬に絡まれていた黒部は疲労困憊になった身体を何とか起き上がらせ立ち上がると、そこで見たものに口を開けたまま立ち竦んでしまった。

 目の前に広がっていたのはこれまた廃れた村のようなものであるが、先程の村よりはまだしっかりしている。


 が、黒部が驚いたのはそこではなく村の向こう側に見える大都市。この村とは違い、近未来SFの様な大きな都市が村の少し向こう側に見えたのだ。


「な、なんだよあれ。SF映画の世界かよ 」


「あの~……貴方は?」


「ひゃい!?」


  突然後ろから声をかけられた黒部は思わず変な声を出してしまうが、直ぐに平静を装い後ろを振り向く。そこには先程馬を連れていた頭一つ分ほど小さい若い男が立っていた。


「え、えと~…す、捨てられたの村住人だ!」


「そうなんですか?けど貴方の様な方は居なかった気がするんですが…」


「少し旅に出てたらいつの間にか村が無くなっててな!」


「そ、そうだったんですか?じゃあ一緒に来てください」


  何とか誤魔化せたか…と、心の中で安堵の溜息を零す。


「どこに行くんだ?」


「あれ?村長から言われてませんでしたか?村を捨てたら、ヴィナスタークへ申請に行かなければならないので。出来れば行きたくないんですが…」


  苦笑を浮かべながら呟く彼の顔は、あの村で見た時と同じ様な影を帯びていた。


(行きたくない理由は俺がこの目で確かめればいいか。)


「えっと、そう言えば名前を聞いていませんでしたね。僕の名前はアレン・クルスです」


「あ、あぁ。俺の名前は黒部 圧幸だ」


「クロベアツユキさんですか。珍しい名前ですね」


「まぁ、よく言われるよ」


  軽い会話を交わしながらアレンと名乗る青年について行きつつ村の風景を見渡す。


 人々は皆揃ってボロボロの服と靴を着用しているが、思ったより表情は明るく賑やかであった。八百屋らしき物もあるし、一応農業は出来るような畑なども見える。


  しかし、近くの川は濁っており水は使えるとは思えない。


「なぁ、ここの人達は水をどうやって調達してるんだ?」


「えっ、そんな事も知らないんですか?」


「え!?あ、冒険の途中で頭を強く打って記憶が曖昧なんだ!あはは…」


「そうなんですか?それは災難でしたね…。僕達の村はこの国の各地に散らばっていた男性の方々を集めて作った村なので、水の魔法適性を持った人なら生活するのには事欠かない程度には補充出来ますよ」


魔法という言葉に心の中で驚く。まるで御伽噺の世界だと考えながらふと問掛ける。


「…魔法ってどう使うんだ 」


「皆感覚で使ってるので詳しくは分かりませんが、この世界に居る精霊達から力を借りてるそうです。僕の場合は魔法適性に水と木があるので、畑仕事には困らないですね。詳しく知りたいなら都会の市役所でじゃないと…って、アツユキさんは魔法が使えないんですか?」


「うっ、まぁな…」


 嘘を吐く罪悪感を感じつつ、黒部は掌の上に火をイメージするが何も起こらない。他にも水、木などを試して見たものの、全く感覚が分からなかった。


「まぁ、属性を持たない人も少なくないですから。とにかくヴィナスタークへ行けば分かりますよ。そこで検査が出来るので!」



 ヴィナスターク…あのクソでかい都市の名前だろうな。



「そうか。ここからあの都市までどれぐらいだ?」


「そうですね…馬車で大体30分ぐらいですかね」


  馬車のスピードを考え30分で着くとすれば、あの都市は相当な大きさをしていると考えられる。


  特にど真ん中にそびえ立つ青く美しいクリスタルの塔は、他の建物と違い異様な雰囲気を放っていた。馬車に乗り込むと、アレンが声を掛ける。


「じゃあ、出発しますね」


  ピシッと手綱を引けば、馬車がゆっくりと動き出した。赤茶色の凸凹した荒野を馬車が大きく揺れながら目的地へと走っていく


  黒部は徐々に近付く都市を眺める。


  あの都市の中にどんな世界が広がっているのか。そして、何故男が都市の中を自由に出入り出来ないのか。


  色々な興味と好奇心とは裏腹に、嫌な予感は都市に近付くにつれて大きくなっていく。美しい都市なのに、どこか冷たく寂しい。そして何故か分からないが嫌悪感を心の中で感じ、表情を曇らせていた。



  ヴィナスタークへの入り口であろう場所に到着すると、アレンは馬車を停止させた。


「着きましたよ」


  ゆっくりと馬車を降りると、目の前にはこれまた想像を絶する光景が広がっていた。


  そこには蒼く光輝くダイヤモンドの様な宝石に、見事な天使や女神が彫刻された高い門が目の前にそびえ立っていたのだ。


「なんだこれ……俺が元居た世界でもこんなの作れっこないぞ 」


「元の世界?」


「あっ、いや、こっちの話だ!」


  慌てて口を塞ぎ微笑で何とか誤魔化す。


「ふふっ、面白い人ですね。さぁ、行きましょう」


  小さく笑いながらアレンは門の方へ向かって歩き出せば、それに黒部もついて行く、

  しかし、妙にアレンの手が震えている様な気がしていた。

  一体全体どうなっているのか、黒部には分からないことだらけだ。

  しかし、黒部はまだ知る由もなかった。この世界の事を。そして、その事に気が付くのはそう時間が掛からないという事を。


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