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第9話 王の宿題

 次の日ロンは昼過ぎにシュゼリアの部屋に来た。


 来てすぐに黒色の表紙に真っ白な紙の地味なノートを広げたので、シュゼリアは抗議の声をあげた。


「このノートではダメなのだ。こんな地味なノートではやる気が起きないのだ。」

「はあぁぁ??」

 ロンはシュゼリアの抗議に大きな声をあげたが、シュゼリアの尻尾が垂れ下がるのを見て眉間にしわを寄せ、もう一度入ってきた扉まで歩いて行った。


 呆れられて出ていくのだろうと思い、シュゼリアはロンを見ていたが、意外にも扉の前で止まって、いつも扉の外にいる侍女に声をかけただけだった。

「おい、ナルニア。なんかわからんが、地味でない、やる気が起きるノートを持ってこい!」

「了解しました陛下。」

 ナルニアと呼ばれた侍女は、どうやって用意したのか、すぐに扉を開けて可愛らしいピンクの花柄の表紙のノートをロンに渡した。


 ロンはそれを受け取るともう一度机にノートを置いた。

「これでいいのか?」

 シュゼリアはノートを見て嬉しそうな顔をして尻尾を振って頷いた。


「なら、まず俺の名前をノートに書いてみろ。」

 シュゼリアは頷いてリボンのついたペンを手にとって緊張しながら歪んだ文字を書いた。


 ロン・アレンダース

 シュゼリアはリハにロンのフルネームを何度も聞いていて、数回書いたことがあったので自信があった。

 ロンはシュゼリアの書いた文字を見ると満足な顔をして頷いた。


「まぁ、合格だな。次は人間の国の王の名前を書いてみろ。」

「人間の国の王の名前はなんていうのだ?」

「おい!!お前はそんなことも知らないのか!」

 ロンは思わず机を軽く叩くと、怒鳴りつけた。

シュゼリアは目に涙をいっぱいためて、怯えた顔でロンを見た。


「お、怒らないって言ったのに…。」

 シュゼリアの涙がいっぱい溜まった瞳と怯えた顔を見たロンは、ハッとした顔をして自信の前髪をかき分けた。


「…悪い。ハル・リミトリーだ。」

 シュゼリア涙を止めて頷いて言われた通りに書いた。


 ロンはその文字を見た。

「文字は大丈夫そうだな。」

 シュゼリアはロンを褒めて欲しそうな瞳で見つめた。


 ロンはそれを察して嫌そうな顔をしたが、ため息をついて褒めた。

「よくやった。」


 シュゼリアはロンに褒められたことを喜んで尻尾をブンブン振って何度も頷いた。


 その様子をロンは可愛いと感じて見つめたが、ハッとした顔をして咳払いをした。

「次は計算か?」

「計算?」

 シュゼリアの様子にロンは嫌な予感がした。

「おい、1+1くらいわかるよな?」

「1は分かるぞ!+とは何だ?」

 シュゼリアは首を傾げて、ロンは眉間にしわを寄せて拳を作り振り上げた。


「お前は、魔界で何を習ってきた!!!!」

「ひいいいい、ごめんなさいごめんなさい!!」

 シュゼリアは目をつぶって何度も頭を下げた。

 ロンはシュゼリアの怯えた顔に我に返り振り上げた拳を下ろした。


「悪かった。」

 ロンの謝罪にシュゼリアはそっと目を開けた。ロンがもう怒ってなさそうだと分かりホッとした表情をした。


 ロンは深呼吸をしてノートにリンゴの絵を2つ書き込んだ。

「+とは足すという意味だ。リンゴがこの絵に何個書かれている?」

「2個だぞ。」

「あぁ。つまり、1+1の答えはわかるか?」

「1個のリンゴと一個のリンゴを足すと2個だから、2か?」

「あぁ、正解だ!やればできるようだな。」

 ロンは口角を上げてシュゼリアの頭を撫でた。


 シュゼリアは頭を撫でられる感覚が気持ちよくて目を細めた。


 ロンはノートに何かをたくさん書き込むとシュゼリアに見せた。

「これは明日までの宿題だ。」

 そこにはたくさんの問題らしきものが書かれていた。


「ち、ちょっと待ってくれ。何問あるんだ?それに桁数が違うぞ!193+285なんてどうやって数えればいいのだ?」

「気合いで数えろ!」

「む、無理だ!出来ないからな!」

 シュゼリアは拒否したがロンは睨みつけてきた。


「明日までに必ずやっておけ。全問正解ならご褒美にお菓子をやる。不正解が1つでもあれば、もってきたお菓子は俺がお前の目の前で全部食べる。」

 ロンはこんな脅しを魔族の王にするなど、どうかと思ったが、アモンやリハに聞いていた通り効果はてきめんだったようで、シュゼリアはショックを隠しきれない表情でロンを見つめた。


「そ、そんなぁ〜。」

 シュゼリアは絶望した顔で尻尾を下げたが、忙しかったのか、そんなシュゼリアの態度を見ることもなく、ロンはすぐに部屋を出て行ってしまった。


 シュゼリアは仕方なく宿題を始めたが、最低でも2桁はある計算問題ばかりで大苦戦していた。

「えっと、24+38は、24、25、26、27…わからぬ。どうやって24に38を足せばいいのだ?指と頭が追いつかない!」

 シュゼリアは泣きながらノートの問題を睨みつけたが、全く答えは出てこなかった。


「ロン殿は教え方が雑すぎるのだ!リハ先生ならもっと分かりやすく教えてくれたのに。」

 シュゼリアはリハが恋しくて恋しくて仕方がなかった。この際アモンでもいいから誰か教えてくれないかとノートと睨めっこしていた。


 ちょうどその時いつもシュゼリアの部屋の前に立っている侍女、先ほどロンにナルニアと呼ばれていた龍族の女性がお茶が入っていたコップを回収しに部屋に入ってきた。


「ナ、ナルニア殿〜!!」

 シュゼリアは脇目も振らずナルニアに抱きついた。

 ナルニアは驚いた様子もなくシュゼリアに抱きつかれながら食器を片付けていた。

「どうされましたか?」

「足し算がわからないのだ。教えて欲しいのだ。」

 シュゼリアはロンが書き込んだノートをナルニアに見せた。


 ナルニアは片付けをしながらノートを軽く見た。

「最初は24+38ですね。まず、4+8はわかりますか?」


 シュゼリアは指で手を追って数えた。

「9、10、11…12だぞ!」


「2+3は?」

「…5だぞ!」

「では、20+30は?」

「えっと…2+3が5だから、0をつけて…50か?」

「正解です。24+38はつまり、50+12に分けて考えればいいのです。これならわかりますか?」

「な、なるほど!分かるぞ!つまり62だな!」

「正解です。」

 ナルニアはシュゼリアに抱きつかれたまま、テーブルを拭いて、食器を片付けた。

 シュゼリアが手を離すと、ナルニアは挨拶をしてすぐ部屋から出て行った。


 シュゼリアはナルニアに教えてもらえたので、足し算のやり方がわかった気がした。

 ロンの問題を見て、ノートにたくさん数字を書き込みながら答えを書いていった。


 すぐに解けたとは言えなかったが、日が沈むまでにはなんとか全問解答することができた。

 シュゼリアは、頭を使いすぎて疲れがたまっていたのか、ソファーに横になって目を瞑るとそのまま寝てしまった。

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