表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/30

第8話 久しぶりの訪問

 ピンク色のお菓子がたくさん描かれた表紙のノートは文字でギッシリ埋められていた。

 このノートはもう3冊目で、3冊目の最後のページには"シュゼリア・コゼット"とすこし歪んだ字がたくさん書いてあった。


 シュゼリアはリボンのついた可愛いボールペンを指でくるくる回してニコニコしていた。


 自分の名前が書けるようになるのがこんなにも嬉しいものだとは思ってもみなかった。


 宿題は1ページが全て埋まるように書くだけだったが、シュゼリアは楽しくて5ページも自分の名前を書いてしまった。


 最近は文字が一通り書けるようになってきていて、明日からは龍族の歴史についてなど文字以外の授業をすると聞いて楽しみにしていた。


 文字の勉強も楽しかったのだから、きっと他の勉強もリハが教えてくれれば楽しいだろうし、龍族のことを何も知らないので知りたいと思った。


 文字を教えてくれる大好きなリハや、話を聞きに毎日来てくれるアモンのことをもっと知りたいと思った。


 何日龍族の城に滞在したのか、いつまでいられるのかわからなかったが、シュゼリアは出来たらずっと龍族の国にいたいと思った。


 魔族の国にいた時とは違って穏やかに過ごせていて楽しかった。


 今日の授業が先ほど終わったので、そろそろいつものようにアモンが来る時間だとシュゼリアは気がつき、リハにもらったお菓子を分けてあげようと思い机の真ん中に並べた。


 部屋の前にいつもいる侍女にお願いをすると2人分のお茶を持ってきてくれた。


 それをアモンがいつも座るソファーの前において、アモンが来るまでの間ソファーに座ってアモンに見せる自分の書いた文字の一番綺麗なものを選んでいた。


 昨日は自分の名前を見せたので、今日はアモンの名前を書いた文字を見せようと思い、新しくもらった4冊目のノートに先ほどアモンと読む文字をたくさん書いていた。


 リハもリハの名前を書いて見せた時すごく喜んでくれたので、アモンも喜んでくれるだろうと考えて書いた文字を見て褒められることを想像してニヤついた。


 その時ちょうど扉が音を立てたので、アモンが来たと思いシュゼリアは飛び上がって扉の方までノートを片手に持って歩いて行った。


 扉が完全に開くとシュゼリアはノートを開いてアモンと書いた文字がよく見えるように自分の顔の前に持ってきた。


 アモンはいつもならオーバーに驚いて褒めちぎってくれた。

 しかし、いつまでたってもアモンから返事はなく、今日は調子でも悪かったのかと思い、恐る恐るノートの上から目だけを出した。


 アモンがいると思っていた場所にいたのはロンで、その表情は固く、シュゼリアを睨みつけていた。


 シュゼリアはアモンではなくロンがいたことと、その表情の怖さに恐れをなして、もう一度ノートで顔を全て隠した。


 ノートをつかむ腕がノートの重みのせいか震えてきた時、ロンから声がかかった。

「いつまでその変な体勢でいるつもりだ?」


 ロンの声は冷たく、シュゼリアは下を向きながらそっとノートを下ろした。


 不貞腐れた気分になりソファーまで歩いて行き、手に持っていたノートを机の上に置くと、どかりと音を立ててソファーに寝転び、ソファーの上に置かれたクッションに顔を埋めた。


 しかし、ロンによってそのクッションは素早く剥ぎ取られてしまい、シュゼリアの顔を覆うものは何もなくなった。


「な、何の用なのだ?」

 シュゼリアは戸惑いながら、ソファーに座りなおしてロンを見上げた。


 ロンはクッションをベットに放り投げるとアモンのために侍女に入れてもらったお茶の置かれた椅子の前に座りそのお茶を一気に飲んだ。


「何の用とは何だ?お前は俺の客人だろう?様子を見に来て何が悪い?」

 ロンは乱暴にお茶が入っていたコップを机に戻すとシュゼリアを睨みつけた。



 シュゼリアは顔を隠す物が何もなくなり、今にも殺されそうに睨まれていることに怯えながら下を向いて反論をした。


「ア、アモンはどうしたのだ?いつもこの時間はアモンが来るではないか。」

「おい、アモンとずいぶん親しくなってるようじゃねぇーか。」

 ロンは机の上に無造作に置かれたノートを開いた。

 4冊目はまだアモンと言う文字しか書いていなかったので、ロンが開いたページにはアモンと言う文字だけしか書かれていなかった。


 ロンはそのノートをぐしゃりと音を立てて潰した。

「な、何をするのだ!」

 シュゼリアは変な音がしたので顔を上げると、自分のノートがぐしゃぐしゃになっているのが見えて目に涙をためてノートに手を伸ばし、ロンを睨みつけた。


 ロンはシュゼリアの反応に片眉を上げるとノートを床に叩きつけた。

 シュゼリアは驚いて咄嗟にノートを拾おうと立ち上がり、ロンの足元まで来た。


 シュゼリアがノートを拾おうとしたその手首をロンは強く握って自身の座っていたソファーに引き上げた。

「ひあ?」


 シュゼリアは状況がよくわからず目を白黒させた。

 ロンに手首を掴まれた状態でロンと同じソファーに座っていた。

 足を大きく開いていてスカートがめくれ上がっていることに気がつき、慌てて足を閉じた。


 シュゼリアの様子をロンは目を細めて見た。

「アモンとは何をしていた?毎日あいつはここに来ていたのか?」


 シュゼリアはロンの質問を無視してやろうと思ったが、鋭い目つきで睨まれて沈黙していることができずに答えた。


「毎日来てたけど、、何って、話してただけだぞ。」

 シュゼリアはロンが掴んでいる手首が痛くて顔をしかめて手首を見た。


「話って何の話をしていた?」

「えっと、、あ!そう言えばロン殿の番が私だと言う勘違いが起こっていたと聞いたが、訂正できたのか?」

「勘違いだぁ??」

 ロンはシュゼリアの手首が折れるのではないかと言うほど力を込めて握った。


「痛い!!」

 シュゼリアは咄嗟に叫ぶとロンはハッとしたようにシュゼリアの手首を離した。


 シュゼリアの手首は真っ赤になっていて、シュゼリアはそこもう一方の手でさすった。

 すると手首の赤色は消えて無くなった。


 これは回復魔法なのだが、シュゼリアには仕組みはよくわかっていなかったが、いつも痛いところを手でさすると痛くなくなるなと思っているだけだった。


「わ、私がロン殿の番だということは、か、、勘違いではなかったのか?」

 痛みが引くとロンに質問をした。


「はぁ?勘違いに決まってるだろ?」

 ロンはつい言ってしまったという表情をしたが、ロンの顔を見ていなかったシュゼリアは安心した顔をした。


「そうか。早く誤解が解けるといいな。」

 シュゼリアは笑顔でロンを見た。

 ロンはシュゼリアの笑顔にイラついた表情をして、シュゼリアの頬をつまんだ。


「ひゃ、ひゃにをふるのだ?」

 シュゼリアあまり痛くはなかったが、抗議の声をあげた。


「別に、何となくムカついただけだ。」

 ロンはすぐにシュゼリアの頬から手を離した。


 シュゼリアは、先ほどから痛いことばかりしてくるロンから少し距離を置こうとした。

 しかし、シュゼリアが後ろに下がるとロンも同じだけシュゼリアとの距離を縮めたため、距離を置くことはできなかった。


「ロ、ロン殿は何か用があったのではないのか?私はもしかして魔族の国に帰ることになったのか?」

 シュゼリアは仕方なくロンの用事を早く済ませて部屋から出て行ってもらえるように話を変えた。


「あぁ、アモンにはもうお前を会わせないと伝えに来ただけだ。」

「な、何故なのだ?もうアモンには会えないのか?」

 シュゼリア驚きのあまりロンに近づいて、目に涙をためて潤んだ瞳で見上げた。


 ロンは怒った顔をした。

「おい、アモンの名前はもう呼ぶな。」

「何故なのだ?」

「お前は俺の客人だろう?客人は他の者の名前を呼んではいけない決まりがある。」

「へ?そうだったのか?ではリハ先生の名前も呼んではいけないのか?」

「そうだ。」

「…不便だの。」

 シュゼリアは名前を呼んではいけないことを不便に感じたが龍族には龍族のしきたりがあるのだろうと思い納得した。


 もちろん客人が他の龍の名前を呼んではいけないしきたりはない。

 ロンは、自分の番であるシュゼリアが他の者の名前を呼ぶのが気にくわないだけだった。


 しけし、番だと認めたくないので、わけのわからない説明をしたが、シュゼリアは単純なので納得したようだった。ロンはシュゼリアの納得顔を見て複雑な顔をした。


「それから暫くリハもこの部屋に来させない。」

 ロンの言葉にシュゼリアはアモンの時以上に猛抗議した。


「な!何故なのだ?嫌なのだ!!せっかく勉強が楽しくなってきてるのに!もっと勉強したいのだ!」

「他のものが教える。」

「リハ先生がいいのだ!リハ先生でなければならないのだ!優しいリハ先生でなくては勉強がはかどらないのだ!!」

 シュゼリアはロンの服を強く握って揺さぶり懸命に訴えた。


 ロンは服を引っ張られても微動だにすることはなく、冷たい瞳でシュゼリアを見下ろすだけだった。

「あまり他の奴に懐くな。」

「だ、だって龍族の皆は、魔族と違って優しいのだ。」

 シュゼリアはリハとアモンしか龍族を知らないが、シュゼリアの知っている魔族のように自己中で冷たくなかった。


 懐くなと言われても無理があると思った。

 ロンはため息を吐いた。

「そのうちリハにはあわせてやるから、暫くは諦めろ。」


 龍族の国で、王であるロンの発言は絶対だ。


 シュゼリアは王としての威厳がなかったし、そもそも魔族は個人主義なので、魔王城ではグレンデールしかいなかった。


グレンデールと家庭教師として派遣された女魔族しか魔族のことも知らなかったが、魔族と龍族の性質の違いは何となく感じた。


 シュゼリアは仕方なく頷いた。

「わかった。して、他の先生はいつから来るのだ?明日からか?」

「あぁ、明日から俺が見る。」


 シュゼリアは明日から来ると聞いて頷いたが、俺が見ると言う言葉が脳まで伝わると硬直した。

「俺?」

「二度も言わせるな。俺がお前の勉強を見てやる。なんか文句あるのか?」


「も、文句しかないぞ。ロン殿に勉強を見てもらうなんて嫌だ!間違えたら怖そうだ。殺されるのが目に見えてる!」

「あぁん??」

 シュゼリアは精一杯きゃんきゃん鳴いて抗議をしたが、ロンに凄まれて怖くて下を見て黙るしかなかった。

 もうすでに怖いので勉強を教えられるなど絶望的だと思った。


 龍の城に来てから隠すことをしなくなった、真っ白でフワフワの尻尾と耳が垂れ下がった。

 それを見たロンは眉間にしわを寄せた。


 ゆっくりとシュゼリアの頭に手を伸ばすと、その艶々の黒髪を撫でた。

 シュゼリアは驚いてロンの顔を見ると相変わらずものすごく怖い顔をしていた。


「なるべく怒らないようにする。」

 シュゼリアはもうすでにロンの顔が怖いと言いたかったが、言える空気ではなかったので、ゆっくりと頷いた。


 シュゼリアが頷くのを確認するとロンは名残惜しげにゆっくりとシュゼリアの頭から手を離した。


 シュゼリアはロンの手を何となくじっと見た。

 ロンはその手で自身の口元を覆った。


「とにかく、明日から毎日俺がこの部屋に来る。」

 ロンはそう言うと扉から出て行った。

 シュゼリアはロンが出て行ったことにホッとした。


 目の前に置いたお茶とお菓子に手をつけていなかったことをやっと思い出して、急いでお菓子を食べて、お茶を飲み干すと、寝る準備をしてすぐに布団に入った。


 いつもより疲れていたのか、すぐにその日は眠れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ