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第7話 赤い龍

 シュゼリアは宿題を終えると、特にやることもないので早めにお風呂に入って夜着に着替えてベットでゴロゴロしようと思った。


 魔界にいるときは暇になると人間の町に行っていたが、この部屋から出してもらえそうにないので特にやりたいこともなかった。


 部屋に備え付けのお風呂に入ろうと思い、身につけていた黒いドレスのボタンに手をかけたその時、部屋の扉が音を立てて開いた。


 シュゼリアはギョッとした顔をして扉の方を見た。

 てっきりロンが来たのだと思って身構えたが、入ってきたのは見たこともない赤い髪の大柄な人間に擬態した姿の龍族の男だった。


ロンやリハよりも格段に大きなその男性を見てシュゼリアは怖さに怯えて、目から涙を流した。


 赤い髪の男はシュゼリアを見ると少し目を見開いたが、何事もなかったかのように笑顔を作った。


「こんにちは。番様。」

 赤髪の男性は扉を閉めると腕を高く上げて前で組み、頭を下げて丁寧なお辞儀をした。


 シュゼリアは番様が誰のことを言っているのかわからなかったが、この部屋にいるのは自分しかいないので、目から出た涙を拭いて挨拶をした。

「こ、こんにちわ。」


 シュゼリアが挨拶をすると男性は爽やかな笑顔で笑い、部屋のソファーに勝手にどかりと座り腰をかけた。

 その行動は先ほど丁寧なお辞儀をした男性の行動だとは思えずシュゼリアは驚いた。


「番様もお座りください。」

 赤髪の男性は言葉こそ丁寧だったが、乱暴に自身の隣の席を手でバンバンと叩いた。


 隣に座れと言うジェスチャーであるのはシュゼリアにもわかったが、誰だかわからない見た目の怖い人物の隣に座るのは気が引けたので、向かいの椅子に腰をかけた。


 赤髪の男性はそんなシュゼリアの態度に特に言及することはなく話し出した。


「初めまして。俺、、いえ、私は、この国の宰相をしていますアモンと言います。」

「はぁ。」

 アモンの自己紹介にシュゼリアは気の抜けた返事をした。

 アモンはシュゼリアの返事に特に気にすることもなく話を続けた。



「今日の家庭教師のリハはどうでしたか?陛下からあなたに家庭教師をつけるように指示されたので、私が彼女を推薦したのですが、いかがでしたでしょうか?気に入らないのであれば、次回から別の龍族を派遣します。」

「き、気に入らないなんてとんでもないです。優しくて綺麗な先生でした。」

 シュゼリアはアモンの提案に驚いて大きな声を出した。

 リハのことをとても気に入っていたので、他の先生にして欲しくなかった。


 アモンはシュゼリアの返答を聞いて嬉しそうに笑った。

「そうですか。それは良かったです。では引き続きリハに家庭教師をしてもらいます。何か困ったことがあったら遠慮なく私に言ってください。もちろん勉強の件でなくてもです。」

 シュゼリアはアモンの提案に頷いた。


 話はもう終わりかと思ってアモンが帰るのを待っていたが、微笑みながらシュゼリアを見ているだけでアモンは部屋から出て行く様子はなかった。


 シュゼリアはどうしたらいいのか悩んでアモンをじっと観察した。


 アモンはシュゼリアの様子にますます楽しそうに笑った。

「今日は何を習ったのですか?」


 アモンの問いかけにシュゼリアは浮き浮きした様子で先ほどのリハにもらったノートとペンを取り出した。

「チョコレートとキャンディが書けるようになったぞ。」

 今日の自分の出来栄えを誰かに話したかったので聞かれてシュゼリアは満面の笑顔を浮かべてノートを開いて自分の書いた文字を見せた。


 アモンはそれを見ると笑みを深めた。

「とてもお上手ですね。」

「そうであろう?」

 シュゼリアは満足そうに何度も頷いた。

 真っ白でフワフワの尻尾はブンブン嬉しそうに動いていた。


 アモンは笑いそうになるのを堪えて、口に手を当てて咳払いをした。

「番様は、何か困っていることや、気になっていることはありませんか?」


「この部屋から出たい。暇なのだ。」

「それは王の許可をもらわないと無理です。許可は自分でもらってください。」

 アモンの答えにシュゼリアはがっかりした。

 困ったことがあったらなんでも言えと言っていたくせに願いが全部叶うわけではないらしい。


「先程から気になっていたが、番様って何だ?」

 シュゼリアの問いかけにアモンは少し目を見開いた。


「龍族の番について魔界で習わなかったのですか?」

「…その、習ったかもしれないが、聞いていなかったかもしれない。」

 授業をサボりすぎて、自分の名前すら書けないのに、他の種族のことについて習っていたとは思えないが、それを告げるのも恥ずかしいので、目を泳がせながら誤魔化した。


「では、陛下は何と言ってあなたをここへ連れてきたのですか?」

「えっと、確か、魔王討伐をしようと思っていたが気が変わった…だったかな?」

 シュゼリアの回答を聞き、アモンは複雑な顔をして自身の顎を親指と人差し指で軽く挟んだ。


「…そうですか。では、簡単に説明すると、番とは伴侶のことを言います。番様と呼ばれるということは、人間や魔族の国で言うところの、奥様、又は旦那様と呼ばれているということですね。」


 アモンの返答にシュゼリアは口をあんぐりと開けた。

「な、な、な!奥様!?私はいつの間に奥様になったのだ?誰の奥様なのだ??」

 シュゼリアはワナワナと震えた人差し指で、意味もなくアモンを指をさした。


「もちろん陛下、つまりロン様の奥様でございます。」

「ぎょえーーーーーーー!!!」

 シュゼリアは驚きのあまり変な叫び声をあげて、その場で少し体を浮かして全身を震えさせた。


 シュゼリアのあまりの奇行にアモンは手を口に当てて、笑うのを必死にこらえていた。

 しかし、シュゼリアは自分のことに精一杯で、アモンの様子には気がつかなかった。


「ロ、ロン殿の奥様になどいつなったのだ??私にはさっぱりわからなかったぞ!何かの間違いではないのか?」

 シュゼリアは混乱した。

 落ち着かない様子で足を無駄に動かして動いた。


「さぁ?どうでしょうね?」

 アモンは間違いかもしれないと匂わすように話したので、シュゼリアは安心した。

 多分間違いなんだろうと思ったからだ。

 シュゼリアをロンが連れてきてここに住まわせたので、周りが勝手に番だと勘違いしたのだろうと思い、深く考えるのをやめた。


 安心した表情をするシュゼリアを見て、アモンは複雑な顔をした。


 龍族でないとわからないが、番を間違えることはあり得ないことなのだ。


 番とは龍族が長い寿命の中でも出会えるかわからない存在で、出会うことができれば一目見た瞬間に自分の番であることがわかる。


 龍族は渇望した番に出会えるととても大切にする。


 龍族同士の番は、同じ性質を持つのでうまくいく。


 しかし人間や魔族は龍族の番になるとワガママ放題する者が多く、龍族の国ではしばしば問題になっていた。


 龍族は、大切な番の望みを最大限叶えようとする。

 そのため、龍族でない番をもった龍は、番の望みで龍の王国を攻撃した者や、人間の国や魔界を攻撃しに行った者もいた。

 いずれも責任を取って番もろとも自害したが。


 そんな経緯があるため、龍族の者は魔族や人間が自分の番だとわかると警戒する。

 周りの者も龍族でない番をもつ者に警戒する。


 王であるロンの番が魔族であることだけでも、どんなワガママを言ってロンをこき使うのだろうかと龍族の民は警戒していた。


 しかもそれが魔族の王、魔王なのだと知った城の者は、今後の国の未来に不安に思っていた。


 龍族の王の血筋はロンしかいないため、早く龍族の中で番をみつけるか、龍族の由緒ある家の者と結婚して子供をもうけることを望まれていた。

やっと表れた番なのに、龍族でないと言うだけで周りの目は厳しかった。


 ロンもまた、自分の番が魔族だという事実を受け入れられなかった。


 ロンが番かもしれないと言って連れてきたとき城の者は、分かっていた。

 番を間違えるなどあり得ないので認めることができないだけで、シュゼリアこそがロンの番なのだと。


 しかし、ロンはまだ認めたくないらしく、自分の番だと明言はせずにシュゼリアをこの部屋に押し込めて外に出さないように指示していた。


 龍族の男性は女性よりも番に対する執着が強く、外出をすることを酷く嫌う者が多い。


 他の者、特に他の男に会うことは嫌がる。


 そのため、ロンがシュゼリアが自分の番だと断言すれば本来アモンはシュゼリアに会うことはできなかった。


 しかしまだ番の可能性があるだけでそうではないかもしれないなどと、ロンが言うので城の者はシュゼリアの対応に困っていた。


 番かもしれないと言い、シュゼリアを部屋に閉じ込めておきながら、部屋への他の者の入室を禁じることをしなかったからだ。


 だから、アモンもシュゼリアの部屋に簡単に入れた。


 アモンはロンと長い付き合いなので、ロンの考えがわかった。

 ロンにはすこし冷静に考える時間が必要なのだろう。

 急に番が思いがけない形で現れたので、戸惑っているのだ。


 アモンはシュゼリアを見た。

 シュゼリアがもし、ロンに龍族を害するような命令を出すのであれば、彼女をアモンは宰相として処分しなくてはならない。


 白くてフワフワの尻尾と耳をもつ可愛らしい見た目をしているが、腐っても魔族の王なので、龍族何人で挑めば勝てるかは分からなかったが。


 アモンはできれば、シュゼリアを殺すことにならなければいいと思っていた。

 シュゼリアが死ねば、番を失った悲しみに耐えられないロンも亡くなる可能性が高い。

 何千年と続いてきた王の血も途切れることになる。


 それに、シュゼリアは魔族の王という肩書きを持っているが、想像とは全く違う弱々しい魔族だった。

 優しそうにも見えた。

 だから、2人がうまくいき、龍族の王の血筋が途絶えることのないように、うまく動かなければならないと思った。


 ロンは恐らく暫くは、シュゼリアの前に姿を現さないだろう。

 番であるシュゼリアに会うと自分がおかしくなりそうで怖いのだ。



 しかしこの部屋にロンに閉じ込められているのに、ロンが会いにも来ないのは、シュゼリアも息がつまるだろうと考えて、アモンはシュゼリアの部屋に通うことに決めた。


 アモンが暫くシュゼリアの部屋に通えば、番に無断であっていたとして何らかの処分はあるだろうが、ロンもそれをきっかけにシュゼリアを番だと認めるかもしれない。

 それにシュゼリアの息抜きにもなるだろう。


 アモンは今後のことを考えて、ため息を小さく吐いたが、シュゼリアには笑顔を向けた。

「では、今日は予定がありますので失礼します。明日もまたきますね。」


 シュゼリアは不思議そうに首を傾げていたが特に返事をすることはなかった。

 アモンは入ってきた時と同じ挨拶をした後、扉から出て行った。

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