第4話 龍の国
魔王様が目が覚めると見知らぬベットに横になっていた。
あたりを見渡すと、金色の光輝く机や、ギッシリと本が詰められた本棚、水晶玉のような見たこともない電気が見えた。
魔王様の部屋は、ピンクの兎柄のベットに兎のぬいぐるみが敷き詰められていて、カーテンはピンク色の花柄で、机もピンク色だったので、ここが自分の部屋ではないのはすぐにわかった。
何が起こっているのかを考えて、誰だか知らない龍族らしき男性に襲われたことを思い出した。
(私は死んだのか?ここは天国なのか?)
魔王様は混乱しながらベットから立ち上がり、部屋に唯一ある扉に向かった。
扉の前まで来ると、恐る恐る取っ手を掴んで回した。
しかし、扉が開くことはなかった。
魔王様は焦ってガチャガチャと扉の取っ手をひねった。
すると扉の外から声がかかった。
「お目覚めですか?」
急に声をかけられて魔王様は驚いて、扉の取っ手から手を離した。
どうしたらいいのか悩んだが、疑問をそのまま口にした。
「おぬしは誰だ?ここはどこだ?」
「ここは、龍族の国の王宮の一室でございます。私はここの侍女でございます。」
「龍族の国!?!?…あ!!私はあの不審者に攫われたのか??ここから出せ!!私は魔族の王、魔王だぞ!!!こんなことしてタダで済むと思っているのか??」
魔王様は臆病だが、相手の姿が見えないことをいいことに強気に怒鳴った。
「グレンデール宰相様から許可はもらっていると聞いています。王が来られるまで部屋でゆっくりとお過ごしください。」
侍女は魔王様の脅しに慌てた様子もなく、冷静に話した。
「宰相の許可をもらってるだと??どういうことなのだ!?!?」
魔王様は叫んだが、何を言っても侍女は王が戻ってからお聞きくださいの一点張りだった。
このままこの侍女と話してても何の進展もないと思い、侍女に話しかけるのを諦めた。
この大きな扉を壊したりして、自分の力で壊して出て行くのは不可能だとわかっていたので魔王様は大人しく扉から離れた。
部屋の中で試しに得意な転移魔法を使って魔王城の玉座まで転移しようとした。
しかし、魔法にある程度耐性がある部屋なのか、城なのかわからないが、転移魔法を使うとは出来なかった。
部屋でゆっくりするようにと言われて、何をしようかと考えて、部屋を見渡した。
難しそうな本が置いてあるだけで、他に時間を潰せそうなものは何もなかった。
試しに本を手にとってみたが、全く何が書いてあるのか分からず諦めた。
やることもなくボーッとソファーに座って何時間かたった。
一体いつまでこの部屋に入ればいいのだろうかと何度目か考えた瞬間に扉が開いて、あの時魔王様を襲いに来た龍族の王が入ってきた。
ロンが入ってくるのにすぐに気がついた魔王様はソファーに座りながら怒鳴りつけた。
「おい!!私は何で龍族の王宮にいるのだ?しかも、おぬしは私を殺そうとしたのだろう?なぜ殺そうとしたのだ?おぬしにあったこともないと思っておったが、知らないところで殺されるほどの迷惑をかけていたのか??」
ロンは魔王様の声に煩そうに顔をしかめると、魔王様が腰をかけていたソファーの隣に座った。
「うるせぇ奴だな。お前を殺そうとしたのはグレンデールに頼まれたからだ。」
魔王様はロンの言葉を聞いて目を見開いた。目からは大粒の涙を流がした。
「う、嘘だ!宰相が…叔父上が私を殺そうとしたなんて、そんなの嘘だ!!」
「嘘じゃねえ、色々あってお前を殺すのはやめたが、お前を預かると言ったらものすごく喜んでこれにサインしてくれたぞ。」
ロンはそう言って一枚の紙を差し出した。
魔王様はその差し出された紙を恐る恐る見た。
その紙は録音機能が付いていたのか、グレンデールの声を出して内容を読み上げた。
<龍族の王、ロン・アレンダースに魔族の王シュゼリア・コゼットを差し出す。生死を問わず好きにしてくれて構いません。グレンデール・コゼット宰相。>
「わ、私は、叔父上に嫌われていたのか?もういらなくなったのか?魔王として出来損ないだから…。」.
「嫌われていないと思っていたのか?お前の頭はお花畑なんだな。好き勝手に国のお金を散財して、勉強も仕事もせずに遊び呆けてたんだろ?」
「ゔゔゔ…。だって勉強も仕事も苦手で、うまくできなくて、叔父上が変わってくれるっていうから!!せめて、魔王らしく振舞うようにと言われて、人間の国で暴れてみたり、男をはべらせてみたりしてただけなのに、それにはお金が必要だっただけで…ゔゔゔ。」
「王らしく振舞うなら自国でやれ!他国で暴れて迷惑をかけるな!お前のことは毎回王族会議で人間の王が苦言を言ってた。グレンデールの立場を考えればわかるだろ?」
「だ、だって、魔族は見た目が怖いし、性格も凶暴な奴が多いし…。」
ロンはため息を吐いた。
その仕草にシュゼリアは、ピクリと肩を震わせた。
グレンデールにいつもため息をつかれて呆れられているのを悲しく思っていたため、ため息を吐かれるのが苦手だった。
しかし、苦言を言うだけのグレンデールと違い、ロンは凶暴だった。
ロンはシュゼリアの頭に生えている黄色いツノを思いっきり掴んで叫んだ。
「お前は、その見た目の怖くて、凶暴な奴らの王だろー!!!」
「ギャーーーー!!!痛い!!!」
ロンは思いっきりシュゼリアのツノをつかんだが、硬質な見た目とは違い、フニャリと曲がり、フサフサした感覚に驚いてすぐに手を離した。
「ふにゃぁ〜!!!何をするのだ!!耳は急所だぞ!!!痛いではないかぁ!!」
シュゼリアは自身の掴まれた黄色いツノをさすった。
すると先程まで硬質な見た目の黄色いツノだったものが、白くてふわふわした猫耳らしきものに変わった。
ロンはシュゼリアのツノが耳に変わったことに驚いて気がつかなかったが、お尻に生えていたトカゲの尻尾も白いフサフサの尻尾に変わっていた。
「な!!なんだそのフサフサの耳は!!」
ロンは驚きながらも、もう一度シュゼリアの先程までツノだった白い耳を今度は柔らかく指でツンツンと触りながら叫んだ。
「ふにぁ!!ふやぁ!!!やめろ!!!くすぐったいだろ!!!」
シュゼリアはロンの手がくすぐったくなり、思いっきりロンを押した。
しかし、シュゼリアの力ではロンを押してもビクともしなかったが、ロンは素直にシュゼリアの耳を触っていた手を離した。
「…お前の種族は何なんだ?」
ロンは耳を触っていた手を震えさせながらシュゼリアの頭に生えている猫耳を指でさして聞いた。
シュゼリアは猫耳と尻尾を下げてしょんぼりしながら答えた。
「猫族だ。」
「猫族〜??魔族の中でもあの最弱の特に愛でられる以外取り柄のないあの猫族か!?」
「ゔゔ…ゔぅ。そうだ!!その猫族だ!仕方ないであろう?魔族は父親か母親どちらか片方の種族が百パーセント引き継がれるのだ!母親が猫族だったのだ!!」
「それで、隠すために変化の術を使って、耳と尻尾を変えていたのか?」
「叔父上がそうしろっていうから。王として他の魔族に舐められないためにって。まさか父が早くに亡くなってしまって、子供が私しかいなかったために、猫族の私が魔王の役職を引き継いでしまうことになるなど魔族中の誰もが想定外だったのだ!!
でも変化の術を使って見た目だけ変えようが、魔族は皆、私が本当は猫族だと言うことを知っているのだ!こんな最弱な魔王など、魔族は皆舐めきっていて言うことを聞いてくれないのだ!!」
シュゼリアは、そう言い切るとうわーんと声を上げて泣き出した。
シュゼリアのふわふわの白い尻尾と耳は垂れ下がっていた。
ロンはシュゼリアをよくよく観察した。
確かに魔族の中で、唯一加護欲をそそらせて生きている猫族の特徴にシュゼリアは当てはまっていた。
サラサラでまっすぐなストレートな黒髪、大粒の黒い瞳からはうるうると涙が溢れていた。
体も小さく、白い猫耳としっぽがよく似合っていた。
「か、、可愛い。」
ロンは無意識につぶやいていた。
「へ!?」
シュゼリアはロンの言った言葉が聞き取れなくて、涙でいっぱいの潤んだ目でロンを見上げた。
ロンは自分が無意識に言った言葉を認識すると、顔を赤くして、それを隠すように無表情を無理に作った顔をしたため、怒っているよに見えた。
シュゼリアはビクビクしながら、後ずさりをした。
ロンは自分がシュゼリアを怖がらせていることに気がつき、咳払いをした。
「と、とにかく、お前の事情は大体わかった。
だが、シュゼリアはもう龍族の王宮で暮らすのだから、変化の術なんか使う必要もないだろう?そのままの姿でこの部屋にいればいい。」
ロンは出来るだけ感情を抑えて話したので、シュゼリアにはロンが嫌がっていると思った。
「そ、そのことだが、私は魔王城に帰ろうと思う。叔父上、、いや、宰相もきちんと話せばきっとわかってくれると思うし、ロン殿に迷惑をかけられぬので…ひぃいい!!」
シュゼリアはロンに怯えながら下を向いて話しだしたが、ロンがどんな表情をしているのか気になって途中でロンの顔を見てしまった。
すると想定したよりもずっと強い眼差しで睨まれていたので驚いて、最後まで話すことができなかった。
「帰るだと?」
ロンは怒った声を出し、シュゼリアの左腕を痛いくらい掴んだ。
「ひぃいぃ!!ロ、、ロン殿に迷惑をかけるわけには…!」
シュゼリアは怯えながら震える声で伝えた。
「迷惑なんて言ってないだろう。部屋はたくさん余ってるし、とりあえず、この部屋にいろ。いいか、この部屋からは出るなよ?」
ロンのあまりの恐ろしさにシュゼリアは何度も何度も頷いた。
ロンは満足そうな顔をして去っていこうとしたので、慌ててシュゼリアはロンを引き止めた。
「あ、、あの、この部屋にずっといろと言われても私は一体何をしていればいいのだ?」
「何って、本でも読んでゴロゴロしていればいいだろ!」
「本??わ、私が読めそうな本なんてここにはないぞ!!この部屋でずっと暇して過ごすのか??」
「お前の読めそうな本がない?どんな本が好きなんだよ?」
「そもそも本など読んだことがないからわからないぞ!」
「はぁ??本を読んだことがない?…お前勉強をサボってたと言っていたが、どのくらいサボっていた。」
シュゼリアはロンの質問に明後日の方を向いて目を彷徨わせた。
「あ、ええっと、その〜。」
するとロンはポケットから小さな紙とペンを取り出して何かを書き込んでシュゼリアに見せた。
「これを読んでみろ。」
「あ、ええっと〜、シュリンプ・プディング?新しい食べ物か??」
「シュゼリア・コゼット!!!お前の名前だ!!お前は自分の名前も読めないのか!!」
ロンは自分でシュゼリアの名前を書いた紙をくしゃりと握りつぶして、床に投げつけて叫んだ。
シュゼリアはロンのあまりにも恐ろしい顔に怯えた。
「ひいいいい!!!ご、、ごめんなさい!!」
「お前はしばらく教師をつける!!勉強しろ!」
「勉強!?お、お許しを〜!!!!」
シュゼリアは絶叫して許しを乞うたが、ロンは鬱陶しそうにその手を払うとそのまま部屋を出て行ってしまった。
シュゼリアは、ロンを追いかけて部屋を出ようとしたが、鍵がかかっていて、部屋に閉じ込められたことに気がついた。
周りに時間を潰せそうなものは、全く読めない本くらいしかない。
シュゼリアはこれから強制的に勉強しなければならないと言うことに絶望しながら、ソファーに座ってぼんやりと時が過ぎるのをただ待つしかなかった。




