第29話 封印の洞窟
魔王城から封印の祠までは、山2つ超えた辺りにあったので、ロンの飛行スピードでは、1時間もかからずに到着した。
ロンはグレンデールの書いた祠の場所と思われるところに降り立つと、人の姿になって、シュゼリアを抱きかかえた。
シュゼリアは気を失っているようだったが、ロンが人の姿に戻るとすぐに目を覚ました。
「起きたか?行くぞ。」
ロンはシュゼリアの手を握ると、祠の入り口と思われる土でできた穴の方に向かおうとした。
シュゼリアはハッとして、ロンを引き止めようとしたが、力の差のせいで、シュゼリアは引きずられているだけだった。
「待ってくれなのだ。祠の中には強い魔物がたくさんいるのであろう?まだ、覚悟ができていないのだ。怖いのだ!!」
「シュゼリアの覚悟ができるのを待っていたら、ここで餓死する。行くぞ。」
「待ってくれなのだ〜!!!」
シュゼリアは、ロンに引きずられるようにとうとう封印の祠に入ってしまった。
シュゼリアは観念して、ロンの腕をがっしりと掴みながら薄暗い洞窟のような場所を歩いた。
洞窟の中は湿っぽくて、水がどこからか沸いているのか、時々シュゼリアの肩に水滴が落ちてきた。
その度にシュゼリアは驚いてロンにきつく抱きついた。
ロンは自分にすがっているシュゼリアをみて嬉しそうに笑った。
「安心しろ。強い魔物が出ても俺が守ってやるから。」
「う、うぬ。ロン殿がいて本当に良かったのだ。こんな怖いところに1人でなんて絶対来れなかったのだ。」
シュゼリアは少し安心した顔をしたが、ロンの後ろの方に見えたものをみて、顔を強張らせた。
ロンの後ろにいたものは、ロンめがけて、牙を向けて襲いかかってきた。
シュゼリアは驚いて声も出ずに、目をつぶってしまった。
しかし、ロンは腰の剣を引き抜くと、後ろに振り返ることなく、振りかざして、後ろから襲ってきた魔物を切り裂いた。
魔物は、ロンの剣に切り裂かれると、跡形もなくその場から消えた。
シュゼリアが目をそっと開ける頃にはもう何もなかった。
シュゼリアは安心したが、ロンの表情を見て顔を強張らせた。
ロンは口角をあげて笑っていたが、その表情は楽しそうであったが、とても怖い顔だった。
シュゼリアはビックリしてロンから手を離した。
その時ちょうどシュゼリアの耳には沢山の唸り声が聞こえた。
どうやら魔物に囲まれていたらしいことに気がついて、シュゼリアは腰を抜かした。
ロンはその唸り声に楽しそうに笑うと、剣を構えて声を出した。
「ああ、こんなに暴れられそうなのは久しぶりだ。退屈しのぎにはなりそうだな。」
シュゼリアが驚いてロンの顔を見ていると、先ほどまでロンがいた場所にロンはもうおらず、魔物たちめがけて次々と剣を切り裂いていた。
魔物はロンに刃を向けられて、次々に消えていなくなっていったが、数が多すぎるのか、ロンの洋服も少し切り裂かれていた。
しかし、ロンは切り裂かれた洋服のことなど気にするそぶりもなく、楽しそうに剣を振るっていた。
シュゼリアは腰が抜けたままその光景を呆然と見ていたが、気がついたら、1匹の魔物がシュゼリアめがけて走ってきているのが見えた。
ロンもそのことに気がついたようで、シュゼリアの方に走ったが、魔物の方が早くシュゼリアの目の前まで到着してしまい、シュゼリアめがけて口を大きく開けて襲ってきた。
シュゼリアは恐怖に体を震えさせながら、目を強くつぶって、大きな声で叫んだ。
「やめてくれなのだー!!!!!」
シュゼリアは、叫んだ後、頭に備えて体を固くしたが、思ったような痛みが来ることはなく、恐る恐る目を開けると、先ほどシュゼリアの目の前にいた魔物は、跡形もなく消えていた。
ロンの方を見ると、目を見開いて固まっていた。
ロンの周りにいた魔物たちもいつの間にか消えていた。
シュゼリアは首を傾げてロンを見た。
「ロン殿が全員やつけてくれたのか?」
「え?いや、今のは俺じゃなくて…お前がやったぞ。」
ロンはシュゼリアが魔力を放出して魔物たちを一掃したのを見ていた。
「私にそんな力があるわけないだろう?ありがとなのだ。」
ロンはシュゼリアの無自覚加減に脱力すると、それ以上何も言わずに、シュゼリアの手を取って立たせた。
「まぁ、なんでもいいか。先に進むぞ。」
「うぬ。」
シュゼリアはロンの手を取り、また歩き始めた。
先に進めば進むほど、魔物の数は増えていったが、ロンが楽しそうに暴れたおかげで、シュゼリアは気がついたらいつも魔物が消えていたので安心した。
いつの間にか2人は封印の洞窟のかなり奥まで進んだようで、細い一本道だった洞窟は、とうとう行き止まりに着いた。
そこには魔物は1匹もいなかった。
広くて、土でできた階段があり、階段の横にはどこからか湧き出ていた水が溜まっていて、湖のようになっていた。
土でできた階段の上には、魔王城の玉座にあるような椅子が置いてあり、そこには1人の黒髪の青年が座っていた。
その真っ黒な髪は、シュゼリアと同じくサラサラで長く、頭には黄色いツノが付いていて、目は閉じていたが、魔王城の玉座の間に飾ってあった、前魔王の絵画にそっくりだった。
シュゼリアとロンはお互いの顔を見た。
この男性がシュゼリアの父親で前の魔王だろうと2人は思った。
「そういえば、どうやって前魔王の眠りを覚ますんだ?」
「…知らぬのだ。」
「めんどくせーな。切るか!」
ロンは物騒なことを言い出して剣を構えたので、慌ててシュゼリアは止めた。
「待ってくれ、まずは私にやらせてくれ。」
ロンは剣を鞘に収めて、シュゼリアを見た。
シュゼリアは、ロンが剣をしまったことに安心した顔をすると、特に何も青年を起こす方法を思いついていなかったので、悩んだが、とりあえず階段を登って、青年の近くまで行ってみた。
青年は透き通るような肌をしていて、目をつぶっているが、今にもその瞳は開きそうなほど、綺麗で恐ろしいオーラが出ていた。
シュゼリアは、恐る恐る青年に近づくと、耳元で叫んだ。
「えっと、おはようなのだ!!」
シュゼリアの行動に、ロンはずっこけそうになったが、青年の瞳が開いてシュゼリアを見たので、ロンは唾を飲み込んで、剣の柄を握った。
「おや?私の眠りを妨げたのは貴方ですか?死にたいのですか?」
青年の声は、グレンデールに似ていて、その瞳は真っ黒で、何の感情も読み取れなかった。
シュゼリアは腰を抜かして、その場に座り込んだが、青年は楽しそうに微笑むとシュゼリアに近づいた。
ロンは青年が椅子から立ち上がるのが視界に入ると、剣を抜いて、階段を駆け上がり、シュゼリアの前に庇うようにして立った。
「こいつを殺すなら、まず俺から相手をしろ。」
ロンは、青年に飛びかかったが、青年は楽しそうに手を振りあげると、いつの間にかロンは階段下に吹き飛ばされていた。
シュゼリアは顔面蒼白になり、ロンの後を追いかけようとしたが、青年に抱き上げられてしまい、追いかけることは叶わなかった。
シュゼリアは殺されると思い、体を固くしたが、青年はシュゼリアの猫耳と尻尾を堪能するように撫でただけだった。
「ふふふふふ。この感覚は久しぶりですね。父に何かようだったのですか?リリ二アンニュイ。」
シュゼリアは、父と言われたことよりも、最後の謎の暗号の方が気になり、復唱した。
「リリ二アンニュイ?」
「貴方の名前でしょう?我が娘よ。」
「わ、私の名前はシュゼリアだぞ。」
「シュゼリア?そんな平凡な名前をつけたは覚えはありませんよ。」
「で、でもシュゼリアだぞ。」
「ふむ。我が弟、グレンデールが勝手に名前を変えましたね。…まぁ、良いでしょう。それで、リリー、私に何の用ですか?あのチンピラを処分して欲しいのですか?」
青年は階段下で立ち上がったロンを指差した。
「違うのだ。ロン殿は私のためにここまで付き合ってくれたのだ。攻撃したらダメなのだ。」
「そうなのですか?楽しそうだったのに、残念です。」
青年は振り上げた手を下ろしたが、ロンは額に青筋を立てると剣を振りかざして青年に再び飛びかかった。
青年は笑いながら、シュゼリアを抱きかかえたまま、ロンの攻撃を避けた。
ロンはイラついた様子で何かを唱えた。
すると洞窟の水は、渦を巻いてロンの持っていた剣に巻きついた。
ロンはその剣を青年に振りかざすと、水の渦は青年とシュゼリアめがけて飛んできた。
シュゼリアは驚いて目をつぶったが、青年は楽しそうに、水の渦めがけて、腕をかざした。
すると青年の手からは真っ黒な渦が出現して、ロンが出した水の渦と激突した。
水の渦と黒い渦が激突した衝撃で、シュゼリアは青年の腕の中から転がって落ちたが、シュゼリアのことに気がつくことはなく、攻撃し合っていた。
ロンは水の渦に刀を絡ませて、青年に近づき、青年はどこからか真っ黒い杖のようなものを出現させると、ロンの刀にぶつけた。
青年もロンもどこか楽しそうだったが、シュゼリアは2人の攻撃魔法の余波で、転がったり、飛ばされたりして、擦り傷だらけになった。
2人がもう一度大きな攻撃を仕掛けようとした気配を感じたので、このままではシュゼリアがやられると感じて、叫んだ。
「2人ともやめるのだー!!!!」
すると、ロンと青年が出そうとした攻撃魔法は跡形もなく消えて、呆然と2人はシュゼリアを見た。
しかしすぐに、青年の方は可笑しそうに笑い出して、シュゼリアに近づいた。
「そういえば、争いごとの嫌いな猫族には、時々魔法を無効化する能力者がいるんだよね。うん。母親のラニャンに似たんだね。」
青年はシュゼリアの頭を撫でた。
ロンは我に返ると急いで、シュゼリアを取り返した。
青年はシュゼリアを抱き上げるロンを見て、先ほどまでの余裕そうな表情を崩して、冷たい瞳をした。
「僕の娘を離せ、今代の龍王よ。」
「これは俺の番だ。父親といえど触れるな。」
「番!?…リリー、まためんどくさい奴に好かれてしまったね。安心してね、パパがすぐに跡形もなく、消してあげるから。」
2人はまた攻撃しようと構えたので、慌ててシュゼリアは止めた。
「2人ともやめて欲しいのだ!!」
シュゼリアの掛け声に2人は構えたままの体制で、睨み合ったまま、動かなかった。
「ち、父上殿。私はロン殿を消して欲しくないのだ。ロン殿と一緒にいたいのだ。」
「消して欲しくない?まさか、龍王と結婚する気なの?」
「えっと、その。…結婚はまだ、早いー…いや、うぬそのつもりだ。」
シュゼリアが結婚という言葉に動揺して、言葉に詰まったが、ロンに鬼の形相で睨まれたの素直に結婚を認めた。
青年はシュゼリアの返答に目を細めた。
「へぇー。じゃ、僕を起こしに来たのって、結婚するから魔王を代わってほしかったとか?」
「う、うぬ、そうなのだ。」
「やだ!!誰が、起きたら可愛い娘が結婚すると分かっていて起きるか!僕は寝るからほかっといて。」
青年は怒ったように先ほど座っていた椅子に戻るように足を踏み出したので、慌てて、シュゼリアは青年の服の裾を掴んだ。
「そ、その、私に魔王は荷が重いのだ。戻って欲しいのだ。父上〜。」
「ゔ!!」
シュゼリアの上目遣いに、青年は瞳を彷徨わせた。
「や、やだ!仕事したくないもん。妻もいないし、グレンデールも煩いし。」
「戻ってくれないと、また魔族に苛められるのだ〜。」
シュゼリアは本格的に泣き出してしまい、慌てて青年はシュゼリアを抱き上げた。
「苛められる?魔王であるリリーをいじめる奴がいるのか?」
「皆いじめるのだ。猫族である私は弱いから、魔王に認めないって。」
「へぇー。」
青年は今まで見たこともないような顔で何もないところを睨み付けると、シュゼリアの頭を優しく撫でた。
「気が変わった。結婚は、絶対、頑なに認めないけど、一旦魔王城に帰ってあげる。」
「本当なのか??」
「うん、だから、魔王城で、父娘で、楽しく暮らそうね。」
青年はそういうと、シュゼリアを抱き上げて、その場から姿を消した。
後に残された、ロンはシュゼリアと青年が消えた場所を呆然と見ていて、我に返り、龍の姿になると、洞窟の中をぶつかりながら抜けた。
ロンが洞窟でぶつかりまくったせいで、ロンが洞窟を抜け出す頃には、洞窟はガラガラと音を立てて崩れたが、ロンは全く気にすることなく、魔王城目掛けて飛んでいた。




