第28話 叔父愛
玉座の間には、シュゼリアとロンしかいなかった。
ロンに言われて魔王城に戻ってきたのはいいが、この後どうしたらいいのか分からなかった。
まだ自分の部屋があるのかも分からなかったが、取り敢えず自分の部屋を見に言ってみようと思った。
「ロン殿、私はまだあるか分からないが、自分の部屋に行ってみるのだ。」
「なら、俺もついていく。」
「へ!?ロン殿も一緒に行くのか?」
「ああ。ほら行くぞ!」
ロンはシュゼリアの手を握って引っ張って玉座の間から出た。
シュゼリアは慌ててロンの手を引いて、仕方がないので自分の部屋に案内した。
「こっちなのだ。」
ロンは大人しくシュゼリアについてきた。
暫く薄暗い廊下を歩いていた。
「どこも、同じドアばかりだな。廊下も薄暗し、道に迷いそうだな。」
「そうなのだ。私も殆ど何の部屋なのか知らないのだ。廊下をもっと見やすく、明るい灯を飾ろうとしたら、グレンデール宰相に怒られたのだ。」
シュゼリアとロンは雑談をしながら歩いていた。
シュゼリアは1つのドアの前で立ち止まった。
「ここなのだ。」
シュゼリアは自分の部屋のドアを恐る恐る開けた。
すると、この家を出る前にあった自身の部屋と全く変わらないままで、安心して、少しだけ嬉しくなった。
グレンデールに出て行けと言われて落ち込んでいたが、帰る場所があった気がした。
ロンはシュゼリアがドアの前で立ち尽くしているのを無視して、無遠慮にシュゼリアの部屋に入った。
「うわ!!なんだこのファンシーな部屋は!!ピンク一色だと!」
「可愛いであろう?人間の街で集めたのだ。」
「…落ち着かない部屋だな。」
ロンはシュゼリアの趣味を理解できそうになかったが、そのことには触れずに、シュゼリアのピンクのベットに腰をかけて、ベットの枕元に置いてあった、兎のぬいぐるみを摘んで机の上に置いた。
「んー、じゃ、流石に疲れたし寝るか。」
「へ!?ロ、ロン殿もここで寝るのか?」
「ああ?もう婚約したから一緒の部屋で寝てもいいだろう?」
「ぬぬ!!!いつ婚約したのだ!」
「お前は俺を好きなんだって言ったろ?俺もお前が好きだと言った。これで婚約成立したんだ。」
「なんと!そうであったのか!では、私はロン殿の奥さんになってしまったのか?」
「奥さんの一歩手前だな。」
「一歩手前…なんだかまだ一緒の部屋で寝るのは早い気がするのだ。」
「ベットの中で触ったりしないから安心しろ。もう寝るぞ。俺はお前を探すのに飛び回ったり、人間の王国に乗り込んだりして、疲れたんだ。」
ロンはそう言うと自身の上の服を脱ぎさり、半裸になると、シュゼリアの腕を掴んでベットの中に引きこんだ。
そのまま、シュゼリアは横になり、ロンは後ろからシュゼリアを抱きしめた。
「ぬあ?ベットの中では触らないのではなかったのか?」
シュゼリアはロンの体にベットの中で直接触れているのが恥ずかしくて身じろぎをした。
しかし、ベットから出ることは叶わなかった。
「これは触ってるうちには入らない。もう喚くな。俺は寝るぞ。」
ロンはそう言うと、シュゼリアを抱いたまま寝息を立て始めた。
シュゼリアは驚いてロンの腕から抜け出そうとしたが、ロンは寝ているにもかかわらずシュゼリアに抱きつく力は強かったため、抜け出すことができずに肩を落として諦めた。
ロンの体温の熱を感じてドキドキしたが、シュゼリアも疲れていようで、ロンの熱が心地よく感じ始めてそのまま眠ってしまった。
シュゼリアが眼が覚めると、ロンの顔が間近にあって、驚いてベットから出ようとしたが、ロンに腰を掴まれていて抜け出すことができなかった。
シュゼリアは自身を見ると、昨日まで着ていた龍族の服の帯が解かれていて、服がはだけていた。
「へ!?なんで?」
「寝苦しそうだったから、帯だけ外しておいた。」
ロンは昨日と同じように上半身は裸だった。
シュゼリアは驚いてはだけた衿を胸元前で強く掴んだ。
もう片手は近づいてくるロンの胸を押した。
しかし、ロンの方が力が強いので、あっさりとシュゼリアは抱きしめられて深い口付けをされていた。
「んっ…ふんっ。」
シュゼリアはいきなりのことに戸惑って自身の口の中に侵入してきたロンの舌にただ、翻弄されていた。
「んっ、、ふ。」
ロンはシュゼリアの頬に手を当てた。
その手は、首筋、胸、腰と降りてきて、シュゼリアの尻尾に到達するとに強く握った。
シュゼリアは驚いて、想像よりずっと大きな声が出た。
「ひやあああ!!」
シュゼリアの声が部屋中に鳴り響くと同時にシュゼリアの部屋のドアがけたたましくなった。
ドンドンドンドン!!!
シュゼリアは驚いて扉の方を見たが、ロンはシュゼリアしか見ておらず、その手は不埒に動いたままだった。
ロンがシュゼリアの頭の猫耳に息を吹きかけたので、シュゼリアは腰が抜けて、また叫んでしまった。
「ひやあ!!」
バーーン!!
扉は音を立てて壊れて、その扉の向こうには珍しく息を切らして、髪が乱れたグレンデールが立っていた。
ロンは扉からグレンデールが来たことなど御構い無しに、シュゼリアの猫耳を舌でペロペロと舐めていた。
グレンデールは、ロンの半裸、シュゼリアのはだけた服に目をやると、思いっきりロンに攻撃魔法をぶっ放した。
ロンは咄嗟にシュゼリアを抱きしめて、グレンデールからの攻撃を庇った。
「おい!シュゼリアもいるんだぞ!危ないだろ!!」
ロンはシュゼリアを庇ったが、特に外傷はなく、元気だった。
ただ、大切に抱えていたシュゼリアが自身の手の中にいないことに気がついて慌て、グレンデールがシュゼリアを抱えていることに気がつくと眉間にしわを寄せて怒鳴った。
「おい!!俺の番を返せ!!」
グレンデールはロンの叫び声を無視してシュゼリアに話しかけた。
「シュゼリア、犬に噛まれたと思いなさい。気にすることはありません。」
「犬?」
「ええ、私が来たからにはもう大丈夫です。犬は外に放り出してあげます。」
ロンは自身が犬呼ばわりされたことに気がついて、青筋を立てるとグレンデールを睨みつけた。
「おい、俺を怒らせるなよ?殺されたいのか?早くそいつを俺に返せ。」
「駄犬にシュゼリアは勿体無いのでは?」
グレンデールの返答にロンは怒って拳を振り上げて、グレンデールめがけて殴ろうとした。
しかし、グレンデールはさっと避けたので、何故かグレンデールを庇おうと思ったシュゼリアなら思いっきり当たって、シュゼリアは壁に打ち付けられた。
「ぴぎゃ!!!」
「「シュゼリア!!」」
ロンとグレンデールはシュゼリアの倒れた壁に走って行き、抱き上げようとしたが、2人とも抱き上げようとしたので、シュゼリアの奪い合いになった。
「おい、その手を離せ。」
「ロン様こそ、離してください。殴ったのは貴方でしょう?私が治療しますので。」
「殴った俺が責任を持って治す。」
ロンとグレンデールはシュゼリアを引っ張り合っていて、シュゼリアの体は悲鳴をあげた。
「2人ともやめてくれなのだ!!体が裂けちゃうのだ!!!」
シュゼリアがそう叫ぶとロンとグレンデールは。ハッとしたようにシュゼリアを離したので、シュゼリアはその場にべちゃりと音を立てて落ちた。
「ふえ。うゔ、、ヒック。」
シュゼリアはあまりの痛みの連続に本格的に泣き始めた。
ロンとグレンデールは焦ってシュゼリアを慰めようとした。
「シュゼリア、後で好きなもの買ってやるから、泣き止め。」
ロンの言葉に、グレンデールは勝ち誇った顔をして、ポケットからお菓子を取り出してシュゼリアに渡した。
「シュゼリア、ほら、貴方の好きなお菓子ですよ。」
シュゼリアは顔を上げて、グレンデールからお菓子をもらうと口に入れた。
そのままグレンデールはシュゼリアを抱き上げて、ロンに勝ち誇った笑みを浮かべた。
「あなたはまだまだシュゼリアの扱いがなってませんね。」
ロンは悔しそうに奥歯を噛み締めた。
「うるさい!!お菓子なんか持ち歩いてる方がおかしいだろう?」
「私は毎日持ち歩いてますよ。シュゼリアが泣いた時のためにね。」
グレンデールの声にシュゼリアは驚いた顔をして、抱き上げられたままグレンデールはの顔を見た。
「…本当なのか?確かにいつも私が泣くとお菓子をくれたが、私のために持ち歩いてくれていたのか?」
グレンデールはシュゼリアの真っ黒な瞳に見つめられて、顔を赤くすると、シュゼリアをそっとその場に置いた。
「シュゼリアが無事でよかった。突然龍王に番なので連れて行くと言われた時はどうしようかと思いました。」
シュゼリアはグレンデールが先程から珍しく魔王ではなくシュゼリアと呼んでいることに気がついて動揺した。
「だが、ロン殿に私の討伐を依頼したのは、叔父上であろう?…私がいっぱい迷惑をかけたから、嫌になったのであろう?」
シュゼリア自分で言った言葉にショックを受けてなみだを流した。
しかし、グレンデールはシュゼリアの瞳から流れる涙を自身の胸ポケットから出した真っ白で綺麗に折りたたまれたハンカチで拭った。
「龍王は短気ですが、情の深い方だと有名なのですよ。シュゼリアのような心優しい魔族を殺したりなどしないと最初からわかっていました。竜王と接触すれば、同じ王としていい刺激にならないかと思ってけしかけただけです。まさか番だと言って連れて行くなど想定外でしたが。
シュゼリアには散々振り回されましたが、全て私の教育不足のせいだとわかっています。それが理由でシュゼリアを嫌いになったりしませんよ。」
シュゼリアは、グレンデールにそう言われて思わず抱きついた。
勢いよく抱きついたのにグレンデールは動揺したそぶりはなく、微動だにしなかった。
「嫌われてなくてよかったのだ。いっぱい迷惑かけてごめんなのだ。」
グレンデールは返事をすることはなかったが、優しくシュゼリアの頭を撫でた。
グレンデールに頭を撫でてもらうのは酷く久しぶりのことで、シュゼリアは嬉しそうに目を細めた。
しかし、呆然とシュゼリアとグレンデールのやりとりを見ていたロンが、我に返ると急いでシュゼリアとグレンデールを引き離した。
グレンデールはあっさりシュゼリアを離すと、ロンを睨みつけた。
「嫌ですね。嫉妬深い男は嫌われますよ?」
「龍族の宿命だ。仕方がない。」
ロンはシュゼリアを強く抱きしめて、グレンデールを睨みつけた。
グレンデールはロンの態度に半ば諦めたようにため息をつくとロンの腕の中でもがいているシュゼリアに話しかけた。
「シュゼリアはそれでいいのですか?ロン様のことが好きなのですか?一緒にいたいのですか?」
シュゼリアは顔だけロンの腕から出すと頬を染めて答えた。
「その、ロン殿のことが好きなのだ。できれば一緒にいたいのだ。」
グレンデールはつまらなさそうにため息をついたが、優しそうに笑った。
「まあ、あなたがロン様を好きならいいのですよ。」
「いいのか?」
「ええ、ただ、まぁ、ロン様も家出をされているとはいえ、いつまでも魔王城にいるわけにもいかないでしょう。
それに、魔王様がこれ以上魔王城を留守にすると、魔王城が崩壊してしまいますし、魔族にも示しがつきませんのね、仕方ありませんね!!
魔王の役職を他の者に押しつけましょう!!」
「私が死なねば、叔父上に魔王の力は移らないのではなかったのか?」
「ええ、ですが、前の魔王が生きていて、眠ってるだけなら、話は別です。前魔王が眠ってるがために、シュゼリアが魔王を代理として行なっている形になるので、眠っている魔王を起こせば、シュゼリアはただの魔族になります。そうすれば、龍の国にいても、そうは問題はないでしょう。」
「眠っている?」
「ええ、シュゼリア、とっととあのアホ兄上を起こしてきてください!」
グレンデールは満面の笑みを浮かべたが、その笑顔は心底怒っているように見えた。
「へ?私の父は生きているのか?」
「むしろ、魔王がどうやって死んだと思ったのですか?魔王は寿命を迎えない限りそうそう死にませんよ。」
「なぜ眠ってるのだ?」
「シュゼリアの母がシュゼリアを生んだことによって死んでしまった時に、ショックで封印の祠に自ら入って眠ったのです。それで、生まれたばかりのあなたに魔王の座を譲るなど、本当に、本当に、なんて無責任なやつなのでしょう!!!」
グレンデールは、手に持っていたハンカチを強く握りしめた。
シュゼリアは自分の父親が生きていると聞いて呆然とした顔をして固まってしまった。
代わりに、ロンがグレンデールに話しかけた。
「眠ってるだけなら、叩き起こしに行けば良かっただろう?何故子供のシュゼリアにそのまま魔王の役職を押し付けたんだ?」
「封印の祠には、魔族では魔王しか入らないのです。
つまり、シュゼリアしか入れない。子供のシュゼリアが向かうには、あまりに危険な場所にあるので、成長してから向かわせようと思っていましたが…。」
グレンデールはシュゼリアの顔をチラリと見てその後話すのをやめた。
シュゼリアは首を傾げたが、ロンにはグレンデールが何を言おうとしているのかわかった。
成長しても、魔族が怖いと逃げ回っているシュゼリアにはとても言い出せなかったのだろう。
「まぁ、ですが、この際龍王の番にシュゼリアが選ばれたことは良いことだったかもしれませんね。封印の祠には、人族なら勇者、龍族なら龍王のみ入れるとされています。シュゼリアが行くとなったら、ロン様はついていかれるでしょう?
シュゼリア1人に行かせるのは不安でしたが、ロン様も行くなら、大丈夫でしょう。」
グレンデールはそう言うと、地図を書いてロンに渡した。
「封印の祠はここにあります。空を飛んでいけますが、中に入ると強力な魔物がたくさんいるそうなので、気をつけてください。」
「強力な魔物!?無理なのだ!」
「わかった。シュゼリア行くぞ。」
ロンはシュゼリアの拒否の言葉を無視して、シュゼリアの腰を掴むと、シュゼリアの部屋の窓から飛び降りた。
「ギャーーーー!!!!」
シュゼリアは驚いて悲鳴をあげたが、ロンはシュゼリアの叫び声を気にすることなく、龍の体になると、シュゼリアの体を右手で掴んだまま空に飛び立った。
「ギャーーーー!!!!」
シュゼリアは下を見て悲鳴をあげたが、ロンは止まることはなかった。
グレンデールは窓からその様子を見て、口角を上げると、窓の外から視線を逸らして部屋を見渡した。
慌てていて、周りをよく見ていなかったが、初めて入るシュゼリアの部屋がピンク一色のファンシーな作りになっていることに気がつき、窓の外めがけて、怒鳴り声をあげた。
「シュゼリアーー!!!!この部屋はなんですか!?!?」
耳のいいシュゼリアは、グレンデールが魔王城で叫んでいることに気がついて、怯えた。
封印の祠には行くのも、帰るのも、今現在も怖くて、失神した。




