第24話 立ち聞き
転移魔法はうまく発動したようで、シュゼリアは庭の噴水の前に立っていた。
噴水の周りには前にロンに連れてきてもらった時と同じように綺麗な色とりどりの花が咲き誇っていた。
周りを見渡して、シュゼリアは興奮したように走り出した。
部屋に長くいると、足が鈍っていたのか以前より上手く走れなかったが、風が気持ちが良くてシュゼリアは楽しくなった。
以前はよくグレンデールに追いかけられて魔王城を駆けずり回っていたことを思い出して、何だか懐かしく感じた。
シュゼリアはグレンデールに足の速さだけは勝てる自信があった。
暫く走ると、お花に囲まれた地面に寝そべった。
地面は真っ白で柔さがそうな見た目に反して硬かったが、シュゼリアには気持ちが良かった。
「気持ちがいいのだ〜。」
風がさわさわと吹いて、シュゼリアの周りのお花を揺らした。
風につられてお花の匂いがシュゼリアの鼻孔をくすぐって、シュゼリアは気持ちよさそうに目を閉じた。
風の揺れは、あまりに気持ちが良かったので、シュゼリアはそのまま少し眠ってしまった。
眠った時間はほんの少しだったが、目がさめると当たり前真っ暗になっていて、シュゼリアは慌てて立ち上がって部屋に帰ろうと思った。
シュゼリアが転移魔法を発動しようとした時、話し声によって遮られた。
話し声はシュゼリアがいるすぐそばから聞こえたので、シュゼリアは気になって声のする方に歩いて行った。
「何度言わせるな!!しつこい!!」
「何度でも言いますわ。陛下には私が必要です。」
「お前など必要ない。」
「いいえ!!龍族の未来を考えればわかることですわ。」
「それはお前たちの考え方だろう?俺は望んでない。」
男性と女性が話してるのが話し声でわかった。
木の陰からそちらをのぞいてみると、男性の方は声からも分かっていたが、ロンであった。
もう一人は、見覚えのない龍族の女性で高級そうな真紅の長着に緑の帯を巻いていて、緑の髪をなびかせながら、鬱陶しそうに前を歩くロンを追いかけていた。
女性の大きな瞳は少しつり上がっていて、気が強そうな印象を与えた。
その緑の瞳がシュゼリアを写した気がした。
女性は目を少し細めると、先ほどまでの怒鳴り声とは違い、甘く媚びるような声を出して、ロンの腕なら絡みついた。
「ロン様、私はロン様をお慕いしているのです。それでも、私をロン様のお妃にしてもらえませんか?」
ロンは腕を振りほどくことはせずに、静かに女性を見下ろした。
「リリーに番がいないのは同情する。俺も番に出会えなければ、いずれリリーと結婚するのだろうと思っていた。だが、番に出会ってしまった今、それは無理だ。すまない。」
ロンはリリーと呼ばれた女性の頭を優しく撫でた。
その時シュゼリアの中で心が何故だか、ざわざわした。
「ロン様が番様が大切なのは分かっています。番様と一緒にいてくれてかまいません。2番でもいいのです。ロン様のお子を私が生むことができればそれでいいのです。」
「リリー。」
「魔族と龍族の間に生まれる子供は魔族になる可能性が高いのはロン様もご存知でしょう?魔族として生まれたら、魔族の国に子供を取られてしまいます。王の世継ぎが魔族の国に取られたりなどしたら、国民全員黙っていませんわよ。魔族と戦争にだってなるかもしれません。」
「ああ、わかってる。」
「分かっていませんわ!ロン様私はー。」
ロンはリリーの腕を引くとそっと抱きしめた。
シュゼリアは呼吸が止まりそうになった。
ロンが自分以外を抱きしめている光景を見ることになるとは思わなかった。
「リリーが俺や国を案じてくれてるのは分かってる。だけど、どうしようもないんだ。」
「納得できません。」
「ふはは。お前は昔から真面目だからな。まぁ、お前が納得しなくたってー…。」
ロンは優しくリリーに笑いかけた。
その笑顔をシュゼリアは見て、ひどく傷ついた顔をした。
シュゼリアはもう見てられないと思ったが、目線をロンから離すことなく、後退した。
するとそこに落ちていた木の枝を踏みつけてしまい、ポキリと音がなり、ロンはその音がなった方を見て、シュゼリアの存在に気がつき目を見開いた。
リリーはロンの腕の中にいて、目は見えなかったが、口角が上がっているのがシュゼリアには見えた。
「シュゼリア…。」
ロンはシュゼリアの歪んだ表情を見て、自身がリリーに抱きついているのに気がつき、リリーから離れようとした。
しかし、ロンの腰にリリーは強く抱きついていて、咄嗟に抜け出すことができなかった。
シュゼリアは、ロンがリリーと抱き合っている姿をこれ以上見ることができずに、目を瞑ると、後ろを向いて走り出した。
「シュゼリア!!」
ロンは叫んだが、視界からシュゼリアは消えて、転移魔法で部屋まで帰ったことがわかった。
シュゼリアが消えると、リリーは先ほどまでの拘束する腕が嘘のように解いた。
ロンは急いでシュゼリアの部屋に向かおうとしたが、リリーに止められた。
「追いかけてどうするんですの?」
「どうって…。」
「ロン様はシュゼリア様とどうなりたいのですか?結婚したいのですか?ただ一緒にいたいだけなのですか?」
「それは…。」
ロンはリリーの質問に答えることができなかった。
シュゼリアとずっと一緒にいたい。
できれば結婚したい。
だが、国のことを考えると結婚はできないのではないかと思っていた。
今シュゼリアを追いかけても、シュゼリアを慰める言葉が出てくるとは思えなかった。
ロンは足を止めると、髪の毛をかきむしった。
「仕事に戻る。」
ロンは冷静になるために、一旦シュゼリアのことを頭から追い出すことにした。
リリーはもうロンを止めることはなく、膝を曲げるとその場から去っていった。
ロンも転移魔法で執務室に戻った。




