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第21話 兎のカフェ

 目の前に広がる光景にシュゼリアは目を輝かせていた。


 ピンク一色の壁紙に、ピンク色の兎の形をした机、ピンク色の兎のクッションが置かれたソファーと兎の形をした椅子。


 そして、店員らしき人たちが兎の耳をつけて、ピンク色のもこもこした触り心地が気持ちよさそうな服を皆きていた。


 店員は、シュゼリアたちに気がつくとすぐに席に案内してくれて、シュゼリアにピンク色の兎の耳を頭につけようとしたが、シュゼリアの猫耳に気がつき手を止めた。

「あら?お客様は、兎ではなく猫耳派ですか?」

「兎好きなのだ。」

「上からつけられますか?」

「うぬ。頼むのだ。」

 店員は、そう言うとシュゼリアの猫耳の上に兎の耳のカチューシャをつけた。


 ロンにもつけようとして、ロンは驚いた顔をして拒否の言葉を出した。

「俺はいい。」

「ぬ?つけぬのか?似合うと思うぞ。」

「似合っても嬉しくない。」

「そうか、残念だな。せっかく初めてのお揃いだと思ったのに。」

 ロンはお揃いと言う言葉に耳をピクリと動かした。

 眉間にしわを寄せて視線を彷徨わせたが、深くため息をついて諦めた表情をした。

「わかった。つければいいんだろう?かせ!」

 ロンは店員が持っていた兎の耳のカチューシャを奪うと自分でつけた。


 シュゼリアは嬉しそうに笑った。

「似合うのだ。かっこいいのだ。」

「あっそ。」

 ロンはふて腐れたように顔を横に向けたが、耳が赤いのがシュゼリアにはよく見えた。


 店員は2人とも似合いますと言い、メニュー表を渡した。

 メニュー表も兎の形になっていて、美味しくて可愛いメニューがたくさん乗っていた。


「可愛いのだ!!誰にするか悩むのだ。」

 シュゼリアは楽しそうにメニューを眺めていると、店員がお水を持ってきてくれた。


「おい、まだ決まらないのか?」

 ロンはあまりにシュゼリアがメニューを長いこと見ていたので、痺れを切らして声をかけた。


「うぬ。全部美味しそうで、悩んでしまって。でも、2つまでは絞れたのだ、どっちにしようか…。」

「2つとも頼め。」

「2つも食べられないのだ。」

「食べれなかった分は俺が食う。それでいいんだろ?」

「半分こなのか?いいのか?」

「ああ。」

 シュゼリアは満面の笑みを浮かべて、店員さんを呼んで、悩んでいた2つのメニューを頼んだ。


 店員は紙に注文を書き込むと、机の上にある控えを置いて、厨房に歩いて行った。


 食事が出てくるまでシュゼリアは、ワクワクしながら周りを見渡していた。

 兎柄ばかりのファンシーなお店は、どこを見てもシュゼリアの気持ちを高揚させるばかりだった。


 店内は女性同士も多かったが、カップルも多くて、シュゼリアもカップルに見られてるのかと思うと少しだけ恥ずかしい気持ちになり、ロンを見た。


 ロンはまだふて腐れているのか、兎の耳をつけたまま横を向いていて、その端正な顔立ちに兎の耳が付いていることが、少しだけおかしくなりシュゼリアは小さく笑った。

 それと同時に自分のためにカチューシャをつけてくれたことに嬉しく思った。


 シュゼリアがそんなことを考えていると、先ほどの店員が歩いてきた。

 てっきりもう出来上がったのかと思ったが、手に持っているのは料理ではなかった。


「記念撮影をしますが、いかがですか?」

「したいのだ!」「脚下だ。」

 ロンとシュゼリアの声が被って店員は2人の顔を交互に見た。


 シュゼリアは目に涙をためて、ロンを見つめた。

「ダメなのか?」

「ゔ…!!わかったよ。一枚だけだからな。絶対誰にも見せるなよ!」

「いいのか?嬉しいのだ!誰にも見せないように気をつけるのだ。」

 シュゼリアはピョンピョンその場に飛び跳ねた。


 店員は2人に声をかけて、写真を撮った。

 写真はすぐに現像できるタイプだったようで、取るとすぐに出来上がった写真を店員は机の上に置いて、また去って行った。


 シュゼリアは机の上に置かれた写真を見た。

 兎の耳をつけたシュゼリアは満面の笑みで両手にピースをしていた。


 ロンは半分顔を隠すように机に肘をついた手で口元を覆っていて、目線は下の方を向いていた。


 ロンの顔はほとんど見えていなかったが、シュゼリアは嬉しそうにその写真を抱きかかえた。

「宝物にするのだ。」

「そうか。」


 ロンはぐったりした表情をしていたが、嬉しそうなシュゼリアをみて笑った。


 ロンの笑顔にシュゼリアが照れているとすぐに頼んだ食事が運ばれてきた。

「お待たせしました。ワンパク兎のオムライスとお月様は兎が大好きチーズハンバーググラタンです。」

「何だそれは!」

 ロンはメニューの長さに驚いたが、シュゼリアは目を瞬かせて並べられたメニューを見ていた。


「可愛いのだ〜。食べるのがもったいないのだ〜。」

 シュゼリアはウキウキしていたが、ロンが兎がケチャップで描かれているオムライスに遠慮なくスプーンを指した。


「ああ!!兎さんが…!」

「どうせ食べるんだから、一緒だろ?」

 シュゼリアがショックを受けて兎のオムライスに手を伸ばしているのをロンは横目で見たが、気にせずに半分に切って、残りの半分をシュゼリアに渡した。


 シュゼリアはがっかりした顔をしたが、ロンは気にすることなく、グラタンも半分に分けて、一口食べた。

「お。味はうまいな。」


 シュゼリアはロンの言葉でお腹が空いていたことに気がついてスプーンを手にとって食べた。

「美味しいのだ!」


 シュゼリアはたくさん食べて、すぐに食べ終わった。

 まだ物足りなかったのでデザートを頼もうかと思いメニュー表手に持ったが、ロンに止められた。


「デザート食べると、他の店に行けなくなるぞ?」

「また違う場所に行くのか?」

 

 シュゼリアは目を輝かせて、急いでメニューを閉じた。

「あぁ、食べ終わったなら行くぞ。」

 ロンはそうシュゼリアに声をかけると、机の上に置かれた小さな紙を掴んでレジの前まで来た。


 店員に小さな紙と渡すと、店員はレジに金額を打ち込んだ。

「ワンパク兎のオムライスとお月様は兎が大好きチーズハンバーググラタンの2点で3800円になります。」


「3800円?」

 シュゼリアは首を傾げたが、ロンは自身の帯から財布を取り出すとお金を取り出して店員の前に置いた。


「4千円のお預かりですね。200円のお戻しです。」

 店員から200円渡されるとロンは頭の上の兎の耳のカチューシャを2つ返して、固まっているシュゼリアの手を引いて店を出た。


 入る時にも見たが、店の外観もピンク一色の兎の形をしていて、とても可愛かったが、シュゼリアはそんなことよりも先ほどのロンと店員のやりとりが気になった。


「先程は何を出したのだ?」

「何ってお金だろ。」

「お金とは何だ?」

 ロンは眉にしわを寄せてシュゼリアをみた。


「お前買い物したことないのか?」

「買い物はあるぞ。人間界に行く時に欲しいものをもらって、代わりに今持っているものを渡していたぞ。」

 シュゼリアの答えにロンは目眩がして頭を手で抑えた。


「いつの時代の買い物の仕方だ!!いや待て、あんまり聞いていなかったが、ハルが困っているといったお前の行動に盗みがあるといっていたな。お前まさか人間界で盗んでいたのか?」

「盗んでなんかいないぞ。きちんとお花とかを渡したら、ありがとうって皆言っていたぞ。」

「それはお前が魔王だから強く言えなかっただけだろう!!お金を払ってないならそれは盗みと変わらない。」

「そんな!お金など知らなかったのだ。みたこともないのだ。」

「グレンデールに一円も貰わなかったのか?」

「欲しいものは言いなさいと言われていたので、困ったことはなかったのだ。ただ、人間界のお菓子が食べたいとかは言いにくかったので、自分で買いに行っていたのだ…。しかし盗んでいたことになっていたとは、ショックなのだ。」

 シュゼリアはショックで呆然としたが、ロンはシュゼリアの頭に手を置いて、軽く撫でた。


「まぁ、知らなかったなら仕方ない。そもそも教えなかったグレンデールも悪いしな。お金を払ってない店には俺が払っておくから気にするな。」

「ダメなのだ。ロン殿に迷惑をかけるわけにはいかないのだ。…だがしかし、お金とはどうやったら手に入るのだ?」

「それはお前、働いたりした労働の対価だろ。」

「ロン殿は何の仕事をしているのだ?」

「王の仕事をしているだろう?」

 シュゼリアは衝撃を受けた。


「私も王であったが、仕事をしたことがなかったのだ!」

「あ〜まぁ、じゃ、グレンデールからお金もらえなくてもしゃーねーな。」

 シュゼリアはがっかりしたが、ふと思いついてロンの顔を見た。


 ロンは嫌な予感がした。

「私に仕事をくれないか?」

「ダメだ。」

 ロンは即答だった。


「なら、この街で働きたいのだ。さっきの店とかの店員として働けたら楽しそうなのだ。」

「もっとダメだ。」

 シュゼリアはロンのダメ出しにふて腐れた顔をした。


「何故なのだ?」

「お前は魔族だろう?魔族はこの国では働けない。」

 シュゼリアはガガーンと言う効果音が消えてきそうなほどショックな顔をした。


「そうであったのだ。私は魔族だったのだ。…魔界なら私を雇ってくれるとかはがあるのだろうか?」

 ロンはシュゼリアの手を強く掴んだ。


「王を雇う国なんか聞いたことない。諦めて、俺に与えられた部屋にこもってろ。欲しいものは買ってやるから。」

「それでは魔界にいた時と何も変わらないのだ…。」

 シュゼリアの悲壮な顔を見て、ロンはため息をついた。

「わかった、なら次の店でまず買い物をしてみろ。財布を貸してやるからお金をそこから出してみろ。」

「買い物?したいのだ!」

 シュゼリアはウキウキして、ロンの手を掴むと歩き出した。


 しかし、ロンはシュゼリアの手を掴み返すと別の方向に引っ張った。

「お前は行き先を知らないだろう?ついてこい。」

「そうであった!!」

 シュゼリアは大人しくロンに引かれてついて行った。

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