第20話 城の外
シュゼリアはあれから勉強を頑張っていて、龍族の歴史や、習慣についても大分分かるようになっていた。
ナルニアが入室すると、龍族の礼をした。
いつも冷静で、動じないナルニアが珍しくシュゼリアを見て固まったが、それらほんの一瞬で、すぐにいつもの表情に戻った。
「本日は陛下より、こちらの服を着せるようにと言われています。お着替えのお手伝いをします。」
ナルニアはそう言うとあっという間にシュゼリアの寝巻を脱がせて、持ってきた着物を着せた。
着物はいつもロンからの贈り物だと言われて着る着物とは違い、軽くて生地がゴワゴワしていた。
帯も紐のような柔らかさで、美しさよりも動きやすさを重視した服装のようだった。
髪の毛もいつもなら複雑なまとめ方をナルニアがするのだが、今日は簡単に三つ編みを二つ作ってクルクルとまとめただけだった。
ナルニアは準備が済むとすぐに退室をしたので鏡を見てみた。
リハに見せられた本に載っていた龍族の平民の格好に近かったが、薄いピンク色には可愛らしい黄色の花が描いてあり、シュゼリアの好みそのままのデザインに嬉しそうに笑った。
「似合っているな。」
ロンは入室してすぐにシュゼリアを褒めた。
ロンもいつもの王族の服装とは違い、生地の薄そうなグレーの着物に、黒の帯を巻いていた。
シュゼリアはいつもと違う雰囲気のロンに見惚れて、頬を染めて、誤魔化すようにしたを見た。
「今日はいつもと雰囲気が違うのだな。その、そう言う格好も素敵だと思うぞ。」
「ああ、王族の格好で行ったら大騒ぎだからな。今日はお忍びで行くから、魔法で色々変えてきた。」
ロンにそう言われてまじまじとシュゼリアはロンを見た。
言われてみれば、見事な金髪に金色の目は、青い髪色に、青い目になっていた。
金もにあっているが、青もにあっているなとシュゼリアは考えているとロンが近づいて小ぶりの蝶々が付いている簪をシュゼリアの頭に刺した。
するとシュゼリアの真っ黒な髪の毛に色は青く染まった。
「何なのだ?」
シュゼリアは驚いて鏡を見ると、真っ黒な目の青い髪の毛の自分が写っていた。
「まぁ、目の色は目立たないから大丈夫だと思うが、髪の色が真っ黒なのは龍族にはいないからな。目立つから悪いが今日はその髪の色を変える簪をつけていてくれ。」
「分かったのだ。」
「それから、俺のことは今日はロンとは呼ぶな。キルアと呼べ。」
「どうしてなのだ?」
「ロンという名前はこの国の王の俺だけだ。変装しているのに名前を呼ばれてバレたら意味ないだろう?」
「なるほど。わかったのだ。」
シュゼリアが頷くとロンはシュゼリアに手を差し出した。
シュゼリアはロンが差し出した手を頬を赤らめて掴むと、ロンに誘導されるがまま部屋を出た。
「龍族の街まではどうやっていくのだ?」
「転移魔法で行く。城の外まで転移魔法を使える場所は一つしかないから、その部屋まで行って転移魔法で街の空き家に転移する。魔王城だってそうだろう?部外者から転移されたら困るから一箇所しかできないようにしてあるだろう?」
ロンに言われてシュゼリアは考えてみた。
確かに人間の国から帰る時は玉座の間にしか転移できなかった。
魔王城の中でならどこにでも転移できたのに。
考えたこともなかったが、防犯のためだったのかと今更気がついた。
「うぬ。今気がついたが、玉座の間にしか移動できなかったのだ。」
ロンは今気づいたと言う言葉に呆れたが、シュゼリアらしいとも思い複雑な顔で笑うだけだった。
ロンに連れられて大きな扉の前に着いた。
龍族の城の扉は、龍の体でも入れるようにもともと大きな作りになっていたが、この扉はその中でもさらに大きかった。
扉は光り輝いていて、扉の目の前には2匹の槍を持って鎧を着ている赤と青の龍が立っていた。
青い龍がシュゼリアとロンに顔を近づけて、匂いをかぐとすぐに離れた。
龍は声を出さなかったが、シュゼリアの心に直接告げた。
「陛下、番様、お通りください。」
門は2人の龍が端に移動するとゆっくり音を立てて開いた。
中は思ったよりは狭かった。
階段を数段登った先に、魔法陣が描かれていて、そこは真っ白く光っていた。
ロンは魔法陣の中に戸惑いなく入るとシュゼリアの手を引い。
シュゼリアは魔法陣の中に入ると眩しくて目をあけることができなかった。
目を閉じていても、眩し感じたが、ロンがシュゼリアを抱きしめて、ロンの体に遮られて光が薄まったように感じたので、目を開けると先ほどの部屋ではなく、古びた木造の小屋の中にいた。
ロンはシュゼリアから体を離すと手を引いて小屋の外に出た。
小屋の外の入り口にも、人間に擬態している龍が2人立っていた。
ロンと同じような服装をしているが、腰には剣を携えていた。
ロンに手を引かれながら歩くシュゼリアは、振り向いてその2人を見た。
2人は小屋から出てきたシュゼリア達に目を向けることもなくただあたりを警戒するように立っていた。
シュゼリアは、ロンに手を強く引かれてこけそうになった。
「あの2人は城の兵士だ。間違って城に入らないように見張っている。…あまり他の者を見つめられると嫉妬しそうになるのでやめてくれ。」
シュゼリアは頬を染めて頷いた。
小屋は森の中に建っているのか、暫くは大きな木しか見えなかった。
頭上の方で何かの声がしてシュゼリアはびっくりしたが、ロンはシュゼリアの反応に笑うだけだった。
森の中は魔王城のある真っ暗で、魔物がうじゃうじゃいる森とは違い、空気が澄んでいて、明るかった。
明るさが増してくると、森を抜けたのか目の前には木はなくなり、真っ白な世界が広がっていた。
しかし、真っ白な世界は行き止まりになっているようで、地面が見当たらなかった。
試しに、行けるところまで歩いて行って、下を覗いてみると遥か下の方に人間の国が見えた。
ここが空の上にある国であったことをシュゼリアは初めて実感した。
ロンは森を抜けた場所に立っていた一つの小屋にいる男性にお金を払った。
すると、大きな青い龍がシュゼリアの前に現れた。
シュゼリアはあまりの大きさに足を滑らせて落ちそうになったが、ロンに腕を掴まれて免れた。
「おい、気をつけろ。リアと言えど死ぬぞ。」
「リア?」
「俺はキルアだろ?お前はリアだ。」
シュゼリアはそう言われて、シュゼリアもこの街ではあだ名で呼ばれるのだと理解した。
「うぬ。」
シュゼリアが頷くとロンはシュゼリアの手を取って龍の背の上に飛び乗った。
「ひやああ!!」
シュゼリアは驚いて叫び声を上げた。
気がつくと青い龍の背に付いている籠の中にいた。
籠は意外としっかりした作りをしていて、座る場所まであった。
「これは、何なのだ?」.
「この国の移動手段だ。まぁ龍族は自身で龍になって空を飛べるが、疲れるし、連れとはぐれる時もある。だから、こうやってお金を払って移動するとこともできる。」
シュゼリアは納得した。
ロンが青い龍に行き先を告げると、龍は羽を広げて飛び立った。
シュゼリアは浮遊感に驚いたが、龍の背の籠の中は風が強く吹き付けてきて気持ちが良かったし、眺めも良かったので気分は高揚した。
「すごいのだ。」
まだ移動しかしていないのに興奮しているシュゼリアにロンの頬は緩みっぱなしだった。
青い龍は、たくさん同じように籠を背負った龍がいる場所に降り立った。
ロンはシュゼリアを籠の中から下ろすと、青い龍にお礼を言った。
青い龍はその場に座り込み目を閉じた。
「何をしているのだ?」
「この龍は今日一日貸切にしたから、俺たちが遊んでいる間はここで休息を取っている。」
「なるほど。そうであったのか。今日一日よろしくなのだ。」
シュゼリアがそう言うと龍は目を開けることなく鼻を鳴らした。
「まず始めに飯でも食べるか。」
ロンはそう言うと、シュゼリアの手を取って歩き出した。




