第2話 王族会議
グレンデールは頭を抱えて2人の王と向かい合っていた。
「毎回言ってるかもしれないが、君の所の魔王様は、人間の国で問題を起こしていてね。
魔王様に関する嘆願書が毎日のように僕のところに来ていて、困っているんだ。」
茶色い髪の男性がグレンデールに話しかけた。
彼は白い服に銀色の装飾を身につけていた。
年はまだ若く、19歳になったばかりだが切れ者で、人間の王として申し分のない人格者のため、グレンデールは彼をそれなりに気に入っていた。
「まぁ、大した内容ではないので、今すぐどうにかして欲しいというわけではないのだけど。
食い逃げしたとか、お店に落書きされたとか、いらないものを押し付けられたとかで、困っているというものばかりだしね。」
グレンデールはますます頭が痛くなり声を出すのも嫌になった。
今日は3人の王が集まる王族会議が開かれていた。
この世界には、人間、魔族、そして龍族が住んでいた。
以前は、人間の国と魔族の国は敵対していた。
人間は魔物に国を荒らされていて、魔物は魔族が従えていると人間達は、思い込んでいた。
そのため、異世界より勇者を召喚して、魔王討伐を依頼した。
魔王討伐の勝敗は五分五分で、魔王が勝利したり、勇者が勝利したりを繰り返していた。
勇者が勝利した時は、勇者は報酬をもらい元の世界に帰った。魔族の中の王である魔王という役職には、また別の魔族が選ばれた。
魔王様が勝利した時は、また新たな勇者が異世界から召喚された。
魔王様の選抜と勇者召喚が長い年月繰り返されていた。
しかしある時、心優しい女勇者が異世界より召喚された。
そして彼女は、魔王様と出会い恋に落ちた。
人間達が魔族を誤解していることに気がついた女勇者は、魔族と人間の仲介人となり、話し合いの結果誤解は解けた。
魔族は魔物を操っているのではなく、魔族もまた魔物に困っていることがわかったのだ。
そして、人間の国と魔族の国が和解したことで、いつのまにか龍族の国とも交流を取るようになり、3つの国は今、友好関係を結んでいた。
そして、昔のような誤解が起きないように、3つの国は数ヶ月に一度話し合いの場を設けて、国で困っていることや、国の現状などを話し合っていた。
魔族と龍族は長生きの種族のため、王の任期は長いが、人間は寿命が短く、すぐに王が変わってしまった。
しかし、人間の王族の教育が素晴らしいらしく、王が変わっても特に3国間の外交に問題はなかった。
そして、本来ここには魔族の代表として宰相のグレンデールではなく魔王様が来なければならなかった。
しかし魔王様はここに出席するどころか、この会議の問題の中心だった。
グレンデールは自国代表として恥ずかしくてしかたがなかった。
しかも遥か昔の魔王のように暴君に振る舞うならまだしも、食い逃げやいたずらなど小さすぎる悪行に、呆れを通り越して怒る気にもなれなかった。
「申し訳ありません、ハル様。最近は魔王様は人間の国を気に入って、頻繁に出かけているようです。
部屋から出ないように言い聞かせているのですが、逃げ足が速く、目を離すとすぐに消えてしまうためハル様には毎度迷惑をおかけして申し訳ありません。
魔王様が迷惑をかけた物は、私から弁済をしますので、いつでも請求書を私宛に送ってください。」
グレンデールは人間の王のハルに頭を下げた。
魔族はプライドが高い者が多いため、滅多なことでないと頭を下げないのだが、魔王様の件はグレンデールにとって滅多なことだったのだ。
「グレンデール殿、毎回言っていますが被害額は小さいので気にしないでください。
被害にあった人達も、怒っているわけではなく、困惑しているのです。
ただ、魔王様には人間の国で遊ばれるのは控えていただけると助かるのですが…グレンデール殿が、魔王になることはできないのですか?」
ハルはグレンデールの謝罪に慌てた。
最近はこの会議でいつもグレンデールに苦言を言っている自覚はあったが、頭を下げられたのは初めてだったのだ。
それに嘆願書は減らないが、怒っているというよりも困惑している人たちがばかりだったので、グレンデールに謝罪されるほどではなかった。
魔王様は、食い逃げやイタズラをしても対価とばかりに、その辺に生えているお花や草を置いていくので、買い物の仕方がわからないのではないかと思われていた。
買い物すらできない魔王様に、魔王の職が務まるとはハルには思えなかった。
「私が魔王になることは、今の魔王様が生きている限りはありえません。ハル様はご存じなかったのですね。魔王というのは魔族で1人しかなれません。
それは血で受け継がれます。 魔王の血筋の中に1人しか現れません。
つまり、魔王の生んだ子の中で1人しか魔王にはなれませんし、それは魔王が亡くなった瞬間に決まります。
順当に行けば次の魔王は、現魔王様が生む子供の誰かに受け継がれます。
ただ、現魔王様が子供を産む前に亡くなってしまった場合は、魔王の血筋を引く別の魔族が魔王に選ばれます。
魔王の血を引いているのは、前の魔王様の娘である現魔王様と弟である私だけですので、私が魔王になるでしょうが…。」
グレンデールは淡々とした声で話した。
ハルは、グレンデールの言っていることを理解した。
つまり、今の魔王様が亡くならないことには、魔王が変わることはあり得ないと言うことだ。
しかし、もし今の魔王様が亡くなれば、次は必ずグレンデールが魔王になるという事実を聞いて、ハルは疑問に思ったことをつい聞いてしまった。
「そうだったのですね。
その、純粋な疑問なのですが、グレンデールさまは現魔王様を…亡き者にして、自身が魔王になろうと思ったことはないんですか?」
ハルは恐る恐るグレンデールの顔色を伺いながら質問をした。
自分が恐ろしいことを言っている自覚があったからだ。
「魔王様を亡き者にしたいと、なんど思ったことでしょう。
しかし、魔族は文句は言えても、根本的に魔王様に逆らえないようになっています。亡き者にするなど当然無理です。
人間の国に行くことも、口で禁じることはできても、魔王様が本気で抵抗をすれば、魔族は止めることができないのです。
…魔王様をもし討伐できるとすれば、異世界より召喚された勇者に頼むしか無いと思いますが、ハル様に頼むことはできませんか?」
ハルは自身の不用意な発言のせいで大変な展開になってきたことに冷や汗をかいた。
「申し訳ありませんが、今は昔とは違いまして、異世界人召喚禁止法があります。
何でも、最後に魔王討伐をしに行き、当時の魔王様と恋に落ちた女勇者様が、異世界から召喚されることの大変さを人間の王に訴えました。
その際に魔王様と友好関係を結ぶのでもう討伐の必要もないということで、女勇者と当時の魔王様の力もあり、異世界召喚をできなくしたそうです。
その後数名が、試しに召喚を試みたところ、やはりできなかったそうです。
しかも、勝手に異世界人召喚を試みたものには重い罰を与えなければいけない法律ができましたので、できないのです。」
ハルの返答にグレンデールは疲れた顔をした。
「そうですか。仕方ないですね。」
ハルもグレンデールもこの話はもう終わりだと言うように同時にため息をついた。
しかしそのため息の音はもっとうるさい声にかき消された。
「おい!ただでさえ面倒くさい会議にイライラしてるのに、毎回毎回魔王の話題で長引いてるじゃねーかよ!どうにかしろよ!!」
ずっと黙ってイラついた様子で足と腕を組んでいた男性が声をあげた。
彼は龍族の王である。
今は人間の姿に擬態しているが、鋭い金色の目と流れるような金色の髪、鋭い牙を口から出していて、頭には金色の龍のツノが生えていた。
彼は、マイペースでのんびりしている者が多い龍族の中で、珍しく短気な性格をしていた。
「ロン様申し訳ありません。」
人間の国の王ハルが龍族の王ロンに謝罪した。
「お前に謝ってほしいわけじゃねぇ。おい、グレンデール!!どうにかしろ!!」
グレンデールはロンに名前を呼ばれて嫌そうな顔をしたあと、何かを思いついたように手を顎に当てた。
「ふむ。そうですね。ロン様をそこまで不快な気持ちにさせていたことを心より謝罪します。
これ以上ロン様に魔王様の件で、煩わせるのも申し訳ありませんので、つきましては、ロン様に魔王様を討伐していただこうと思います。」
「はぁ????」
「えええ???」
ロンとハルが同時に叫んだ。
「本気ですか?」
ハルは目を彷徨わせて困惑していた。
「そんなめんどいこと俺がやるわけねーだろ!?」
ロンは怒りに任せて机を叩いた。
龍族の力で叩いても壊れない机は王族会議にふさわしく美しく輝くものだった。
「現魔王様のことをどうにかしてほしいんですよね?玉座の間で明日魔王様を待機させておきますので、お待ちしております。」
グレンデールはそう告げると、もう用はないとばかりに会議場から姿を消した。
「クソ!!!!」
ロンはグレンデールの態度にイラついているのを隠すことなく、椅子を蹴っ飛ばして、自身の国に帰っていった。
残されたハルだけがとんでもないことになってしまったなと考えながら、呆然とした顔で座っていた。




