第18話 お誘い
お昼ご飯を食べた食器がナルニアによって片付けられると、シュゼリアはリハに勧められた本を1つ手にとった。
恋人はお菓子屋さんという題名の本で、2人の恋人がデートに出かけたり、一緒にお菓子を作ったりして仲を深めて、最後は男性がプロポーズをして物語は終わった。
シュゼリアはお菓子屋さんの恋人を羨ましく感じた。
「いつも美味しいお菓子が好きな時に好きなだけ食べられるなんて、羨ましいのだ。」
「太るぞ。」
シュゼリアは独り言を呟いただけであったが、思いがけず返答があった。
本に集中していて気がつかなかったが、そこにはロンが立っていた。
ロンは以前はいつも眉間にしわを寄せた表情でシュゼリアを見ていたが、別人かと思うほど甘い表情に笑みを浮かべてシュゼリアに近づいてきた。
金の瞳に金のサラサラの髪は物語の王子様そのもので、金の瞳に写る自分が恥ずかしくなり顔を赤く染めた。
ロンはシュゼリアの腰に手を回して、額にキスをしようとしたが、シュゼリアはロンの腕の中で暴れて、ロンの唇を避けた。
ロンは眉間にしわを寄せてシュゼリアから離れると、シュゼリアが持っていた本を取り上げた。
「恋人はお菓子屋さん?昨日渡した本はどうした?もう読んだのか?」
「う、うぬ。読んだが、あの本は間違いだと聞いたのだ。先生がロン殿に返すと言って持っていったぞ。」
ロンは舌打ちをして、シュゼリアから取り上げた本をベットに投げた。
そのままシュゼリアにもう一度近づいて、腰に手を回し、額にキスをしようとしたが、シュゼリアの左手で阻止されたため、ロンはシュゼリアの手のひらにキスをする羽目になった。
ロンは眉間にしわを寄せてシュゼリアの手の中で口を開いた。
「何のつもりだ?恋人は毎日キスをするものだと昨日教えただろう?」
ロンの唇が自身の手のひらに触れていることが恥ずかしくなり、シュゼリアはすぐにロンから手を離して、両手をロンの胸のあたりに置いて、ロンの体を押した。
ロンの拘束から離れようとしたがロンの体はビクとも動かなかった。
「それはロン殿の勘違いなのだ。キスはデートを積み重ねたものがたまにする行為だと先生が言っていたのだ。」
ロンは眉間にしわを寄せたまま、腕の中でもがくシュゼリアをみて、大きく息を吐くとその体を持ち上げた。
「何をするのだ!?」
ロンがシュゼリアを持ち上げて足を進めた先にベットが見えて、シュゼリアはロンの体をポカポカ叩きながら抵抗をした。
昨日読んでしまった侍女の眠れない夜という本の内容を思い出して、シュゼリアは頬を赤らめ、目にはうっすらと涙をためた。
ロンはゆっくりとシュゼリアの体を下ろした。
シュゼリアが下されたのはロンの膝の上で、涙目でロンを見たが、ロンが座っている場所はベットではなくソファーだったことに気がついてシュゼリアは少しだけ落ち着いた。
ロンがどういうつもりなのか気になり、涙がいっぱい溜まった黒い瞳でロンの金色の瞳を見た。
ロンはシュゼリアの瞳見て、唾を飲み込むと、視線をそらすようにシュゼリアの首に顔を埋めた。
「デートしないとキスはダメなんだろ?なら抱きつくのはいいのか?」
シュゼリアはそれはリハに聞いていなかったと思ったが、多分いいのだろうと思い恥ずかしかったが、首を縦に振った。
ロンはシュゼリアの動作を見ていなかったが、首に埋めた自身の頭に感じた振動でわかったのか、シュゼリアの背中に回す手にますます力を込めて、深く息をした。
ロンの吐息が首に当たるのがシュゼリアはくすぐったくて体をもじもじと揺らした。
ロンはしばらくそうしていたが、顔を上げて目を細めてシュゼリアを金の瞳で見つめると、シュゼリアを離して、自身の横に座らせた。
「街にデートに行くの楽しみだな。」
ロンはシュゼリアの真っ黒な髪を自身の手で梳かしながら話しかけてきた。
シュゼリアはロンの甘い行動に1人ついていけないまま全身を赤く染めて視線を逸らした。
「た、楽しみなのだ。」
「デートが終わったらキスしていいのだろう?」
「ゔ、それは、その…。」
シュゼリアのにえきらない様子にロンは口角を上げた。
「何だ。さっきと話が違うだろう?」
「それは、そうなのだが、、デートが終わったら、キ、、キスされるかと思うと、恥ずかしいのだ。デートに集中できないのだ。」
「そうか?俺はデートが終わったら、シュゼリアにキスできるのかと思うと楽しみで仕方ないな。なんなら、今からデートするか?」
ロンはシュゼリアの髪の毛にキスを落としたので、シュゼリアは恥ずかしさで気絶しそうになった。
キスをしたいので、デートに行こうと言われているようでシュゼリアの許容範囲を超えた。
「な、な、な、ロン殿、前とは別人ではないか?それに、ロン殿には仕事があるであろう?」
「あぁ、だが、城の庭に散歩に行くくらいなら時間が取れる。それもデートに入るだろう。今から行くか?」
そう言われてシュゼリアはものすっごく悩んだ。
龍の国に来てからこの部屋から一歩も外には出ていない。
普通に誘われたなら迷わず行くと答えた。
しかし、庭に行ってしまうと、キスをされるのが分かっていた。
ロンにキスをされたことは今までもあったが、いきなりされるのと、予告されてされるのでは緊張度が違う。
ものすごく悩んで悩んで頭がショートしてソファーの背もたれに倒れ込んだが、やはり部屋から出たいという気持ちが強くなった。
「行くのだ。」
シュゼリアはなるべくキスのことを頭から切り離して天井の電球を見た。
ロンはシュゼリアの返答に楽しそうに笑うとシュゼリアの手を取って部屋から出た。
初めて出た部屋の前ではナルニアがロンの方に体を向けて頭を深く下げているのが見えた。