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第15話 番の話

 今までナルニア以外の侍女をシュゼリアは見たことがなかったが、朝起きて朝食を食べると、ナルニアと同じグレーの長着に白いエプロンをつけた服装をした侍女たちが数人部屋に入ってきた。


「番様、こちらは陛下からのプレゼントです。」

 侍女がそう言うとたくさんの洋服やアクセサリーを部屋の何も入っていなかったクローゼットに入れた。


「プレゼント??」

 シュゼリアは何が起こっているのかわからずに、忙しなくクローゼットに服を詰め込んでいる侍女達を見つめた。


 するとその中から、1人の侍女が布を持ってシュゼリアに近づいた。


「今日のお召し物はこちらでどうでしょうか?」

 侍女は薄黄色の生地に水色のお花が散りばめられている上品な柄の布をシュゼリアの前に差し出した。


布と一緒に濃い黄色の帯らしき物も差し出された。



「可愛いぞ!!こんな服着たことないぞ!」

 シュゼリアは興奮してその長着を受け取ろうとしたが、侍女によって遠ざけられた。


「では、着替えを手伝いますので、立ち上がってください。」

「着替えなら自分でできるぞ!!」

シュゼリアは龍族の服装など着たことがなかったが、それ以上に人に着せられたことなどなかったので戸惑った。


 シュゼリアは体を仰け反って抵抗したが、気がついたら侍女達に囲まれていて、いつのまにか黄色い長着に帯を巻いた姿で立っていた。


「お綺麗です。」

 侍女達はシュゼリアに称賛の言葉を伝えると、シュゼリアを今度は座らせて、真っ黒でつやつやしたシュゼリアの髪の毛を触り始めた。


「何なのだ?」

 シュゼリアが混乱しているうちに、いつのまにか作業が終わっていて、1人の侍女が鏡を持ってきていた。


「とてもお似合いです。」

 侍女達はシュゼリアを褒めるとすぐに後片付けをして部屋から出て行った。


 シュゼリアは、あまりの早さに何が起こったのかわからず、部屋にある鏡の前まで行って自分の全身を見た。


 そこには上品な龍族の服装を身につけたシュゼリアが立っていた。


 髪の毛は今までしたこともない複雑なアップヘアになっていて、小さな薄い黄色の宝石がいくつも付いている髪飾りが付いていた。


 昨日読んだ絵本の龍族のお姫様が着ていた服装に似ていて、シュゼリアはテンションが上がって、ピョンピョンとその場で飛び跳ねた。

いつも着ている黒のドレスと違い少し動きにくかったが、見た目よりは着心地が良くて快適だった。


「可愛いのだ〜!!!」

「それは良かった。」

 シュゼリアは独り言を言ったつもりが、返答があり驚いて声のした方を見ると、アモンが立っていた。

「あ!!…宰相殿、久しぶりなのだ!!」


 シュゼリアは笑顔でアモンに近づいた。

 アモンはにっこりと笑ってシュゼリアを見た。


「うん、とてもよく似合っているよ。」

「これは一体何なのだ?」

「何って陛下からのプレゼントだって侍女達は言っていなかったかい?」

「言っていたが、突然何なのかと思ったのだ。」

 アモンは目を細めてシュゼリアを見た。


「さぁね。陛下の考えは陛下に聞かないとわからないからね。」

 シュゼリアは頷いた。

「それもそうだな。して、宰相殿は何か用だったのか?」


「番様の着飾った姿を一目見たくて来ただけだよ。あ!このことは陛下に内緒にしてくれるかな?」

 アモンは人差し指を自身の唇に当てた。


「うぬ。ロン殿に宰相殿が来たことは内緒にするのだ。」


 アモンは口角を上げて意味深な表情をした。

「ありがとう。そうだ。少し耳を貸してくれる?」


 シュゼリアは首を傾げながらアモンに近づいた。

 アモンはシュゼリアの耳元で囁いた。


「う、うぬ。よくわからぬが、ロン殿にそうお礼を言えばいいのだな。」

「うん!きっと喜ぶと思うよ!」

 アモンは嬉しそうに笑った。

 シュゼリアはよくわからなかったが頷いた。

 ただ、耳元で囁かれてもロンならドキドキするのにアモンにされても何とも思わないなと思った。


 アモンはシュゼリアを見て嬉しそうに笑うと部屋から出て行った。


 アモンと入れ違いでリハが入ってきた。

 リハは、部屋に入るとすぐにシュゼリアを見て嬉しそうな顔で笑った。


「あら?番様とても可愛いですね。陛下からのプレゼントですか?」

「うぬ。そうらしいな。」

 シュゼリアは褒められて嬉しそうに笑った。


「よかったですね。ところで先ほどアモンが来ていませんでした?そこですれ違ったのですが。」

「来てたぞ!あれ?言ってはいけなかったのか?いや、ロン殿にはいうなと言っていたが、先生には言うなとは言っていなかったぞ。」

「まぁ、陛下に言ってはいけないと口止めを?」

「うぬ。」

 リハは目を細めて冷たい瞳をしたが、一瞬で笑顔になりシュゼリアの方を見た。


「…そうですか。まぁ、いいです。全くあの人は陛下の番様のこんな可愛らしい姿を陛下より先に見るなど罰せられても仕方ありませんわ。」

「ロン殿に宰相が今日来たことがバレると罰を受けるのか?」

「恐らくそうですが、気にしなくていいですよ。アモンは罰を受けるべきです。」

 リハは冷たい目をしてどこでもないところを睨みつけたが、シュゼリアは焦った顔をした。


「なら、絶対に言わないようにしなければならぬな。宰相が罰を受けるのはかわいそうなのだ!」

「まぁ、番様はお優しいですね。」

 リハは優しそうに笑い、もう一度シュゼリアを褒めると席についてノートを広げて勉強を始めようとした。


 しかし、シュゼリアの視線に気がつき首を傾げて聞いた。

「どうされました?私の胸元に何かついていますか?」

「いや、どうやったら先生のように胸が大きくなれるのかと思ったのだ。」

「胸ですか?大きくてもいいことないですよ。肩が凝りますし、動きにくいですし。」

「そうなのか?だが、ロン殿が胸が大きい人がタイプだと言っていたのだ!」

「まぁ、陛下がそんなことを?」

 リハは目を見開いて、何かを考えている顔をした。


「番様は陛下に好かれたいのですか?」

「うぬ。好かれたいぞ。」

「ならそのままで大丈夫ですよ。陛下の番はあなた様なのです。龍族にとって番は理想のタイプそのものですので、陛下は胸が大きい人がタイプではありませんよ。」

「ぬぬ?そうなのか?」

「因みに、胸が大きい人がタイプだと陛下が言う前にどんな会話をしたのですか?」

「えっと、確か私を番だと認めないって言ってたのだ。それで私のどこがダメなのか聞いたら、胸の大きさだと言っていた。」


「あらまぁ。ふふふ。」

 リハは楽しそうに笑った。


「そうだ。先生のオススメの本を読んだぞ!とても面白かったのだ。私も王国騎士のような番がいたらいいなとロン殿に言ったら、私は魔族だから番なんかいるわけないと言われてショックを受けたのだ。先生にも宰相殿がいるし、番のいる龍族は羨ましいのだ。」

「番は必ずしもいいものでもないんですよ。」

 リハは悲しい顔をして窓の外を見た。


「そうなのか?」

「番様は番についてどこまでご存知ですか?」

「うぬ。伴侶だと聞いた。つまり奥さんなのであろう?」

「ええそうですね。シュゼリア様の考えている奥様とはどのようなものですか?」

「一緒の部屋で暮らすものだ。でも飽きたら違う伴侶と暮らすぞ。」


 シュゼリアの回答にリハは顔を歪めた。

 何か間違ったことを言ってしまったのかと思いシュゼリアは焦ってロンが言っていたことを思い出した。


「だが、龍族の番はたった1人なのであろう?魔族とは違ってロマンチックで素敵だと思うぞ。」

 シュゼリアは訂正したが、リハの表情は全く変わらなかった。


「そうですね。一見ロマンチックですが、大変なこともたくさんあります。番とはこの世にたった1人しかいないのです。それは一目見れば分かります。私はアモンが番ですが、アモンと私の親は仲が良かったので物心着く前からアモンが番だと分かっていました。

 でもこれはとても運がいいことです。

 龍族は番がいないものは、年に一回王族、貴族、平民にかかわらず強制参加のパーティに参加します。

 そのパーティで大半の者は番を見つけますが、見つけられないも者もいます。」

「見つけられないとどうなるのだ?…そういえばロン殿が番がいない者同士慰めあったり、病む者も出ると言っていたな。」


 リハは悲痛な表情で目線を彷徨わせた。

「えぇ、陛下の言う通りです。国の全員が参加するパーティに番が現れないと言うことは、番が龍族でないか、死んでいるか、生まれていないかなどれかなのです。

 あまりに年の離れた番はいないので、成人してからも番に会えない場合は生まれていないことは考えられません。

 死んでいるか、龍族でないかのどちらかなのです。

 今まで王族の番に龍族以外の者が選ばれたことはなかったので、陛下は自分の番は亡くなったのだろうと考えていました。

 所がある日魔族の国に行って、あなた様が番かもしれないと言って連れてきました。

 かもしれないなんてことはあり得ません。

 陛下は龍族でない番様に戸惑ってそのようなことを言っているだけで、紛れもなくあなた様が陛下の番なのです。」


「龍族でない者が番だと問題があるのか?」

「えぇ、人間や魔族は恋愛して、付き合ったり、別れたりを繰り返して、もっとも相性のいい相手と結婚しますよね?それが複数人いたり、一緒に暮らしてみてやはり合わないと思って離婚したりしますよね?」

「うぬ。」

「龍族にはその感覚はありません。もっとも相性のいい者が一目見ただけでわかるのです。そのたった1人しか一生愛せないのです。ですから、あなた様が陛下以外を好きになったとしても陛下はずっと番である、あなた様だけを好きでいるのです。

 それはとても辛いことなのです。」

「龍族同士なら番同士だからその想いは永遠だが、魔族や人間が番だと想いが続かないことがあると言うことか?」

「ええ…。」


 リハは窓の外に目を向けてシュゼリアと目を合わせなかった。

 窓の外には相変わらず真っ青な澄んだ空しか見えなかった。

「だから番が人間や魔族の場合は、好かれたいがために言いなりになることが多のです。」

「言いなり?」

「たとえば、龍の城を攻撃しろだとか、お金をたくさん調達しろだとか言われても好かれたいがために龍族は実行してしまうのです。」


「わ、私はそんなこと言わないぞ!それに、ロン殿も私の頼みなんか全く聞いてくれないぞ。」


「ええ、わかっております。あなた様はとても心が優しい魔族です。陛下の番があなた様で本当に良かったです。

 陛下はずっと私とアモンを羨ましいと言ってました。

 龍族なら皆自分だけの番に憧れる者です。

 そしてやっと現れた番に内心は喜んでいるのです。

 本当ならあなた様の願いを全て叶えてあげたいのです。しかし、王として全て叶えるわけにもいかないのです。

 あなた様のことを陛下は大切にしています。そのプレゼントだって大切にしている証拠です。

 ですから、どうか陛下のことをずっと側で支えて欲しいのです。」

「ずっと側で…。」

 シュゼリアは目を彷徨わせて逡巡した。

 龍の国にずっといられればいいと思っていた。

 しかしそれはあくまで願望に過ぎず、自分は魔族の王なのでいつかは帰らなければいけないと漠然と思っていた。

 ロンのことは好きだが、これが恋なのか、永遠に好きでいられるのかと言われるとシュゼリアには分からなかった。


 シュゼリアの様子を見てリハは、優しく微笑むと手を伸ばして頭を撫でた。

 いつもなら気持ちよくてシュゼリアは目を細めるが、今日は戸惑いの方が強く、リハがどのような表情をしているのか探るように見上げた。


「ですが、それはあくまで私の願望です。あなた様が陛下の伴侶になりたくないと思うのであればそれは仕方のないことだと思います。

 それに伴侶として同じ時を過ごしても片方が病気になったり、亡くなったりする時もありますしね。」

「番を失うとどうなるのだ?…私が伴侶にならないとロン殿はどうなるのだ?」

「番を失った龍族は生きることができません。生きていても廃人のようになるか、後を追うかのどちらかです。」

「そんな…。」

 リハの笑顔は優しかったが、どこか悲しそうだった。

 リハの瞳には戸惑った顔で目を彷徨わせるシュゼリアが写っていた。

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