第14話 雑誌
執務室にロンが戻ると、アモンがロンの机の前に立って書類をまとめていた。
アモンの周りには数人の龍族がいて、龍族たちは書類をアモンに渡したり、何かを書き込んだりと忙しく働いていた。
「あれ?もう少し休憩してきても良かったのに。」
アモンは扉から入ってきたロンを見て首を傾げた。
ロンが手を挙げるとアモンは周りの龍族を皆部屋から退室するように言いつけた。
アモン以外の龍族たちはロンに挨拶をして部屋を出た。
「もう十分だ。それより街に行くときに何処に行くのがいいのかまとめたか?」
「あぁ、おすすめのデートプランを教えろって言ってたやつね。リハと話し合って龍族の女性に人気のスポットの中で、ロン様の番様が好きそうな場所をまとめといたよ。」
「デートプランを教えろなどと言っていないだろ!!」
ロンの叫びは無視して、アモンはポケットから小さな紙を取り出すとロンに渡した。
ロンは不服そうにその紙を受け取ると内容を見て上から読み上げた。
「ふわふわ兎のスイーツ専門店、キラキラ雑貨専門店、ピョンピョン遊園地…。」
ロンはアモンから受け取った紙を持つ手を震えさせながら読み上げたが、最後まで読み上げる前に紙を握りつぶしてしまった。
「こんな女子しか行きそうにない場所に俺が行けというのか?」
ロンは握りつぶした紙を持つ手を震えさせながら叫んだ。
アモンは楽しそうに笑った。
「デートスポットなんてそんなもんだよ。そもそも何処に連れて行く予定だったの?」
「龍族歴史博物館とか、龍族アート展とか…。」
アモンはロンを同情した顔で見た。
「それは、番様は全く楽しめないと思うよ。好きな人もいるとは思うけど、番様に歴史やアートの趣味があるように見えるの?」
「それは…。」
「どう見たって番様は甘いお菓子や、可愛いものが大好きな女の子だよね。魔王という役職に似合わず。」
ロンはアモンの言うことはもっともだと思い素直に頷いた。
自分でアモンからもらったグシャグシャにしてしまった紙をもう一度開いて見た。
上から下まできちんと目を通したが、全て女性が喜ぶような、ロンが一度も足を踏み入れたことのない場所ばかりで、自分がこのような場所に行くことが想像できずに困惑した顔をした。
アモンはロンの様子を見て口角を上げた。
「まぁ、絶対行けっと言っているのではないからね。俺とリハのおすすめってだけだから、参考にしてよ。」
「わかった。あくまで参考にする。」
ロンは参考を強調したが、仕事以外で街になど出たことないのと、女性の扱い方など今まで番がいなかったのでわかっていないので、アモンに言われたところに行くしかないことはわかっていたがアモンは知らないふりをして、頷いて話題を変えた。
「街に行くなら、シュゼリア様に街に行く時の洋服をあげないといけないですね。どんなものがいいかな?」
「洋服か、確かにいつも魔界で会った時に着ていた真っ黒なドレスを着ているが、あの服で街に行くと確かに浮くな。」
「え?もしかして、ロン様は、シュゼリア様に洋服とかアクセサリーとか何も与えてないのですか?」
アモンがシュゼリアにあった時は確かにいつも真っ黒なドレスを着ていたが、ロンがアモンの代わりに会いに行くようになってからは流石に洋服をプレゼントしたと思っていた。
しかしロンはアモンの問いかけに眉間にしわを寄せた。
「洋服やアクセサリーが必要なのか?いつも部屋にいるのに。」
アモンは顔を引きつらせた。
「まさかと思うけど、せめて寝巻は渡したんだよね?」
「いや?必要あるのか?そもそも魔族の着る服には自動補正機能が付いているのだろう。汚れても破れても元どおりになるだろ。」
「それはそうですけど、洋服だと寝にくいではないですか!それに昼間着る服だって、毎日同じ服を着るなんて楽しくないじゃないですか!番様は女性なんですよ。お洒落したいに決まってます!」
アモンの気迫にロンは尻込みをした。
「そ、そういうものなのか。では、いくつか寝巻と洋服と、すこしのアクセサリーを見繕って渡しておいてもらえるか?」
「早急に手配します。」
アモンはそう言うと、机の書類の束を全てロンに押し付けて部屋から出て行った。
ロンは自分が女性に対して疎いのかもしれないと思いながら椅子に座ると、目の前に雑誌が置いてあった。
雑誌の表紙にはおすすめ龍の国デートスポット、女性が喜ぶプレゼント特集と書いてあり、所々に付箋が挟んであった。
アモンが持ってきた雑誌だろうと思いながら、何となくパラパラと雑誌をめくった。
雑誌の付箋が貼ってあるページには、先ほどアモンが紙で書いて渡してきたデートスポットの場所や写真が貼ってあり、そこでの楽しみ方や人気のアイテムが書いてあった。
こんな恥ずかしい場所に行かなければならないのかと思うとロンは顔をしかめた。
そのままなんとなくページを読み進めていくと、袋とじになっているページにたどり着いた。
袋とじの表紙には、女性が嬉しいデートのシチュエーションと書いてあり、ロンは遠慮なく袋とじを破った。
ロンはその袋とじを読み終わる頃には、額から汗を流して、雑誌を強く握っていた。
雑誌はロンが強く握ったせいで表紙にシワができていた。
「こんなことできるわけないだろ!!」
ロンは雑誌を閉じて読むのをやめた。
その時ちょうど執務室の扉からノックがなったので、雑誌をすぐに机の引き出しにしまった。
「入れ。」
ロンが声をかけると、妙齢の男性が入ってきた。
妙齢の男性を見るとロンは嫌な顔をしたが、男性はロンの表情を見てた気にするそぶりもなく、ロンの前まで進み出た。
「陛下、婚約者の件ですが、」
「くどい!!婚約などするつもりはないと何度も言っているだろう。」
「しかし王族の血を引いている、金の龍はあなた様しかいないのです。早く世継ぎを作ってもらわないと王族の血が絶えしまいます。」
「その時はその時考えろ。」
「無責任ですぞ!まさかと思いますが、王宮に滞在しているというロン様の番だと噂の魔族を娶るつもりではないでしょうな?」
ロンは何度も繰り返される話題に辟易した表情をした。
「そのつもりは今の所ない!」
「今の所?前回は全くないと言っていませんでしたか?」
妙齢の男性は緑色の目を細めてロンを見た。
ロンは舌打ちをすると男性に叫んだ。
「ザジエル、人の言葉の揚げ足を取るな。とにかくお前が勧めてくる女とは婚約しない!婚約の話しか用がないならもう出て行け!」
ザジエルと呼ばれた年配の男性は、ロンに頭を下げると振り返って扉から出て行こうとした。
しかし、扉の取っ手をつかむとロンのことを見ることなく声を出した。
「陛下の番が魔族などと、誰も受け入れられませんよ。百歩譲って、一緒に過ごすことは私は構いません。しかし世継ぎは、龍族の女性と作ってもらいますからね。」
ザジエルはロンの返事を期待していなかったのか、そういうとすぐに部屋から出て行った。
ロンは嫌な顔をして、机の上の書類を片付け始めた。
ロンが仕事を始めると、いつのまにかアモン以外の龍族が部屋に仕事しに戻ってきていた。
何時間か仕事をすると、皆部屋から出て行って、ロンも仕事を今日はやめようと思い席を立った。
そのまま部屋を出ようとして、あることを思い出して、もう一度先ほど座っていた椅子の前まで来て、椅子を引いて、机の引き出しを開けた。
机の引き出しから、先ほど読んでいた雑誌を取り出すと今度こそ部屋を後にした。