第13話 進展
ロンはシュゼリアを怪訝な表情で見つめていた。
シュゼリアはベットの下でロンを見ることができず、真っ赤な顔をして自身の尻尾を手に持ったまま恥ずかしさに震えていた。
真っ白なはずの尻尾や耳まで赤くなってるように感じた。
ロンはシュゼリアをじっと見つめていた。
シュゼリアはロンの視線を感じてますます顔を赤くして、何か声を出そうとしたが、口が開くだけで音は出なかった。
ロンが動く気配がしてシュゼリアはピクリと体を揺らしたが、ロンはどさりと音を立ててソファーに座っただけだった。
「いつまで変な格好をしているんだ?」
ロンにそう言われてシュゼリアは、自分がベットの下で自身の尻尾を掴んでいて、足を立てていたのでスカートはめくれ上がり、髪はゴロゴロ布団に転がっていたせいか乱れていることに気がついた。
急いだ立ち上がり、軽く髪の毛を手櫛で整えてその場から動くことはせずに下を向いてロンに話しかけた。
「な、何の用なのだ?ロン殿は忙しくてこれないと言っていなかったか?」
シュゼリアは先ほどのベットで転がって変な声を出していたところを見られたことと、恋愛小説を読んでいたこともあって、気恥ずかしくて冷静に話したつもりが声が震えていた。
ロンはシュゼリアの反応に眉間にしわを寄せるとシュゼリアの足元に落ちていた本に視線を向けた。
「それはなんだ?」
シュゼリアはロンの方をちらりと見て、ロンが自身の足元を見ていることに気がつき、自身の足元を見てみた。
するとそこには先ほどまでシュゼリアが読んでいた王国騎士の番というタイトルの本が落ちていたことに気がついた。
慌ててシュゼリアは本を拾い、両手で本を背中の後ろに隠した。
最初からこの部屋にあった本なので、見られて恥ずかしいものでもなかったが、なぜかロンにこの本を読んでいたことをバレたくないと思ってしまった。
ロンはますます眉間のシワを深くした。
「何を隠した?持ってこい。」
シュゼリアは頭をブンブン横に振って話をごまかそうとした。
「ロン殿は忙しいのではなかったのか?緊急のようなのか?」
ロンは眉間にシワを寄せたまま答えた。
「忙しいから、勉強は見れないと言っただけだ。全く来れないとは言っていない。」
シュゼリアはロンの言い分に目を見開いた後、納得した顔をした。
「そう言われてみれば、そうであった。して、用はなんなのだ?」
「特にない。」
シュゼリアはロンの言葉に手をもじもじさせて、真っ赤な顔をしてロンを横目でチラリと見た。
「ロ、ロン殿はもしや、わ、私のことがこ、恋しくて毎日会いに来ないと、ね、、眠れないのか?」
「はぁ???」
ロンは眉間がもはや眉毛がくっついてしまったのではないかと思うくらい皺くちゃだった。
ロンは目を細めて冷たい瞳でシュゼリアを見ると、突然立ち上がりシュゼリアの目の前まで歩いていき、後ろで隠した本を取り上げた。
「ひやぁ!!」
シュゼリアはロンの顔が近くなったことが恥ずかしくなって、ロンから顔を背けるために下を向いた。
しかし、自分が持っていた本をロンが持っていることに気がつき顔を上げて、ロンの手を見て叫んだ。
「な、何をするのだ!返してなのだ!!」
シュゼリアはピョンピョン飛び跳ねてロンから本を取り返そうとした。
しかし、ロンは本を持っていた手を高く上げてしまい、身長の小さなシュゼリアは飛び跳ねてもロンの膝までも届かなかった。
「王国騎士の番か。」
ロンは本のタイトルを読み上げてパラパラとめくった。
「…「侍女殿、そなたに会えない日は、夜も眠れないのです。あなたのことが恋しいのです。」ねぇ。…これに影響を受けたのか。」
ロンは意地悪な顔で笑い、本を持った手をシュゼリアの手の届く位置まで下げた。
シュゼリアは本を取り返そうと手を伸ばした。
シュゼリアが本を掴むと、本はロンの手からすぐに離れたが、シュゼリアの手首はなぜかロンに掴まれていた。
ロンはシュゼリアの手首を軽く自身の方に引っ張った。
シュゼリアは気がついたら手首を掴まれたまま、ロンの体に密着していた。
ロンはシュゼリアの頭の猫耳に自身の唇を寄せると囁いた。
「シュゼリアに会わないと、俺は夜寝付けない。シュゼリアが恋しい。」
シュゼリアは猫耳の近くで囁いたロンの言葉に狼狽えて、真っ白な猫耳を真っ赤にしてロンの体を両手で押した。
ロンはあまり力を入れていなかったようで、シュゼリアが離れようとするとあっさりと手首を掴んでいた手を離した。
「な、、な、な、!!」
シュゼリアは腰が抜けたようにその場にしゃがみ込んだ。
ロンは愉快そうな顔で笑っていた。
「ク、、クク、ク。」
ロンの様子を見てシュゼリアは顔を真っ赤にしながら叫んだ。
「わ、私をからかったのか?」
「さぁな?」
ロンは上からシュゼリアを見下ろした。
その顔は窓から入る光でどんな顔をしているのかシュゼリアには分からなかった。
「ひ、酷いではないか。ドキドキしたのに!」
「へぇ、ドキドキしたのか?」
ロンは妖艶な顔で笑うとその場に座り込み、シュゼリアと目線を合わせた。
シュゼリアはロンの妖艶な笑顔に全身真っ赤にして、茹でタコのようになった。
恥ずかしいからなのか目には涙がたまっていた。
「ゔゔ。恥ずかしいのだ。恋とは恥ずかしいものなのだ。」
「なんだお前、俺に恋をしたのか?」
「ち、違うのだ!!!…多分。」
シュゼリアは手を思いっきり振って否定の言葉を出したが、ロンは嬉しそうに笑うと、シュゼリアの顎に自身の指をおいた。
「へぇ〜?」
ロンは妖艶な表情のままシュゼリアに顔を近づけた。
シュゼリアは先ほどの小説のことを思い出し、もしやこれは小説に載っていたキスなのではと思い、目を思いっきり閉じて、緊張から唇をワナワナと震えさせた。
しかしいつまでたっても唇に何も触れなかったので、シュゼリアは目を少し開けた。
するとロンが笑いを堪えるように、口に手を当てていた。
「ひ、酷いではないか!!またからかったのか?」
真っ赤な顔で抗議の言葉を口にするシュゼリアにロンはもう笑いを堪えることはしなかった。
「あはははは!そもそもお前が「俺がお前を恋しいから、会いに来るのか?」とかわけのわからないことを言うからだろ?変な小説に影響されやがって。
小説は小説だ。物語なんだ。リアルじゃね〜。」
ロンの言い分にシュゼリアは、何故だかショックを受けた。初めて読んで感動した物語を否定された気分になった。
「そ、そんなことないぞ。きっと私にだって、いつかこの王国騎士みたいな番が現れるのだ!」
シュゼリアは真っ赤な顔をして、そっぽを向いた。
ロンからはシュゼリアの横顔しか見えなかったが、頬を膨らませて、拗ねているのはわかった。
ロンはからかい過ぎたことを反省するように、シュゼリアの頭を優しく撫でた。
「お前は魔族だろ?番が現れるわけないだろ?」
ロンの言葉にシュゼリアはショックを受けた。
「そうだったのだ!私は魔族だから番などいないのだ!残念なのだ!!」
シュゼリアは両手を床につけて、頭を下にしてうなだれた。
ふとあることが頭によぎり、体をガバリと起こしロンを見た。
「ロン殿が羨ましいのだ。龍族だから番がいるのだろう?」
「…いるかいないかは、わからねぇけどな。一生番に巡り会えない奴はかなりいる。」
ロンは窓の外を眺めながら答えた。
シュゼリアも窓の外を見てみたが、空の上にある城らしく、澄んだ青色の空に水蒸気のような霧がかかっているだけだった。
「番に会えない者も龍族にはいるのか。その場合はどうするのだ?他の者と恋に落ちるのか?」
「龍族は特殊だからな。番以外に恋はしない。ただ現れなかったときは、現れなかった者同士慰め合うだけだ。
ただ、龍族は番に会えることを羨望しているからな。番に会えないことを嘆き病む者もいる。」
ロンは窓の外から視線をそらさなかった。
シュゼリアはロンの横顔を見た。
「そうか。でもロン殿には私と言う番がもういるので安心だな。」
ロンは窓の外から目を離してシュゼリアを見た。
何かを推し量るようにシュゼリアの目をじっと見つめた。
シュゼリアはこんなに人に見つめられたことがなかったのでどうしたらいいのかわからず、ただずっとロンの視線を受け止めていた。
暫く2人は見つめ合っていたが、ロンが先に声を出した。
「お前が俺の番だということは勘違いだっで前に言ったろ?」
「む?そうであった。でも先生がロン殿の番は私だけだと言っていたぞ。」
「リハが…。ッチ。」
ロンはシュゼリアから目線を外して舌打ちをした。
「おい、俺はお前が番だと認めてないからな。」
「む?そうなのか?私の何がダメなのだ?」
「何がダメって…。」
ロンはシュゼリアの猫耳の先から足のつま先まで全身を見た。
目はぱっちりしていて、睫毛は長く、よく泣く瞳はいつも潤んでいた。
真っ黒でサラサラの髪の毛についているふわふわの猫耳は思わず触りたくなるし、よく揺れる白い尻尾は可愛い。
頭が悪く単純だが、そこも最近では可愛いところなような気がしてきていた。
シュゼリアのダメなところをあげるなら、龍族でないところだけだった。
ただ、それをシュゼリアに伝えるのは、よくないとロンは思った。
ロンも龍族だからダメだと言われたら、嫌だからだ。
だからロンは何とかシュゼリアの欠点を絞り出した。
全身を何度も見て、胸のあたりで目を止めた。
「何って、まずここが小さい奴には魅力を感じない。」
ロンはシュゼリアの胸を指差した。
シュゼリアはロンが胸のあたりに指を指していることに気がついた。
「胸…。そうか、先生は大きいもんな。龍族は皆大きいのか?」
ロンは別に胸が大きい女性がタイプなわけではなかった。
むしろ、シュゼリア位が丁度いいと思っていた。
シュゼリアは番なので、そもそもロンにとっての欠点などないのだ。
ただ、シュゼリアが番だと認めたくない一心で適当な嘘をついた。
ロンは、嘘をついた手前後ろめたくなり、シュゼリアから目をそらした。
「人による。」
シュゼリアは納得したように頷いた。
「そうか。ロン殿は胸が大きい女性が好きなのだな。次の番は、胸の大きい人だといいな。」
シュゼリア納得した表情で頷いたが、ロンは目を大きく開くと睨みつけるようにシュゼリアを見た。
「次だ?」
「うぬ。私の次のロン殿の番は胸が大きい人だといいな。」
「番に次なんてあるわけないだろ?何考えてるんだ!!」
ロンはシュゼリアを睨みつけて怒鳴った。
いきなり怒鳴ったロンの思考についていけずに、シュゼリアは困惑した。
「そ、そうなのか?番とは伴侶のことを言うのであろう?魔族は伴侶が複数人いる者が多いのだが、龍族は違うのだな。」
「魔族の伴侶と龍族の番を一緒にするな!!」
ロンの怒鳴り声にシュゼリア何か怒らせてしまったことはわかったが、何に怒っているのか分からなかった。
ただ、ロンが怖くて、目に涙を溜めて謝った。
「ご、ごめんなのだ。」
ロンはシュゼリアの涙を見てハッとした。
シュゼリアが龍族の番のことなど知っているはずがないのだ。
アモンかリハが多少説明しているようではあったが、番についてシュゼリアが簡単に理解できるものではないのはロンもわかっていた。
人間や魔族のように相性が合わなくて、離婚したり、複数人と結婚してお気に入りを作ったりすることを龍族はしない。
たった1人の自分と相性がいい運命の相手が一目見ただけでわかるのだ。
たった1人の番だけを愛するのだ。
龍族同士だと番について理解し会えるが、シュゼリアは魔族なので番のことを簡単に理解できない。
ロンは分かっていたのに、番であるシュゼリアに次の番と言われて、頭にきて怒鳴ってしまった。
ロンはシュゼリアの顔を覗き込むようにして見て、シュゼリア出した涙を自身の手で拭った。
「悪い。」
シュゼリアはロンの目を見てもう怒ってなさそうなことにホッとした。
「いいか、龍族は番の話に敏感なんだ。次だって言われて思わずむかついちまった。龍族の番はただ1人なんだ。魔族や人間とは違う。たった1人を生涯の伴侶に選ぶんだ。」
「そうなのか。知らなかったとはいえ不用意な発言をしてすまなかった。…龍族の番はたった1人なのだな。なら、私がもしロン殿の番だとしたら、もう他に番は現れないのか?」
「お前がもし俺の番なのだとしたらそうなるな。」
ロンはあくまでシュゼリアが番だと認められなかった。
「そうか、なら、私は胸が大きくなれるように頑張るのだ。明日から先生に聞くのだ!」
「は!?」
ロンはシュゼリアの発想に驚いた。
「先生がロン殿の番は私だけだと言っていたのだ。ロン殿が病んだら大変なのだ。頑張るのだ。」
ロンは頭が痛くなった。目を細めてシュゼリアを怪訝な表情で見た。
「お前は俺の番になりたいのか?」
「うむ。どちらでもいいのだ。」
「どちらでも良いだぁ?」
ロンは怒鳴りつけそうになるのを必死に抑えて、深呼吸をした。
「…因みに伴侶の意味はわかってるよな?」
「奥さんなのだ!」
「奥さんは何をする人だ?」
「同じ家で暮らす人であろう?」
シュゼリアの回答は間違っていなかったが、正解でもなかった。
「まぁ、そうだな。間違ってない。」
ロンは頭を抑えた。
今日はもうシュゼリアと話す気力が起きなかった。
適当に返事をすると話を切り上げて執務室に戻ることにした。
「忙しいからから、もう行くな。じゃな。」
ロンは振り返って扉の方まで向かった。
ロンが扉の取っ手に手をかけた瞬間にシュゼリアは叫んだ。
「ロン殿!!私はロン殿に感謝している。龍族の国に来てから毎日がとても楽しいのだ。だから、こんな暮らしをさせてくれているロン殿の力になりたいのだ。」
ロンは取っ手から手を離してシュゼリアの方を見た。
シュゼリアの目が嘘を言っていないことに気がつき、嬉しい気持ちでいっぱいになった。
優しい表情で笑った。
「あぁ。」
それだけ言うと今度こそロンは部屋から出て行った。
後に残されたシュゼリアだけが、ロン笑顔を見て、頬を赤くして、ロンがいなくなった扉をずっと眺めていた。




