第11話 テスト
真っ白な紙に数字を書き込んでいく。
1週間のおさらいテストの問題は思ったより複雑で、ただの計算だけではなく文章題まであり、シュゼリアは動揺したが、深呼吸をして落ち着きを取り戻した。
(今日のためにたくさん勉強したのだ。大丈夫。)
シュゼリア迷いなく答えを書いていった。
一度書き終わると間違いがないか見直したが、大丈夫そうなのでソファーで本を読んでいたロンに声をかけた。
「終わったぞ。」
シュゼリアが声をかけるとロンは本を閉じて机の上に置き、シュゼリアの持っていた紙を手に持った。
ペンを使うことはなく、さっと目を通してシュゼリアを見た。
「全部あってる。」
「やったぁ!!!!!」
シュゼリアはその場でウサギのようにピョンピョンと飛び跳ねて、その勢いのままロンに抱きついた。
思いっきり勢いをつけた突撃にロンの体は微動だにすることなかった。
「やった!やった!やったぁ!!これで龍の街に連れていってもらえるのだな?」
シュゼリアはロンに抱きつきながらロンの顔を上目遣いで見た。
ロンはシュゼリアから目をそらした。
「あぁ。」
シュゼリアはロンに抱きつく腕に強く力を入れた。
「いつ行けるのだ?」
ロンは眉間にしわを寄せて答えた。
「暫く忙しい。来月だな。」
「来月!楽しみなのだ。」
シュゼリアはロンから手を離すと、後ろを向いて尻尾をブンブン振りながら、部屋に置かれていたピンク色のカレンダーに丸をつけた。
ロンは自身の体から離れたシュゼリアを名残惜しげに見ていた。
「楽しみだな。」
シュゼリアはもう一度ロンの方を見て笑顔を向けた。
ロンは何度も自分の国の街に行っていたので、今更楽しみだと言う感情もなかった。
しかしシュゼリアがあまりに嬉しそうに笑うのでつい口角を上げて答えてしまった。
「あぁ、そうだな。」
その笑みは今まで見た中で一番優しい表情だったので、シュゼリアはロンの顔を見て顔を赤くして下を向いて照れた。
「そなたの笑っている顔、私は好きだぞ。」
シュゼリアは下を向きながら答えた。
ロンは顔が赤くなるのを隠すように手で口を覆った。
「そうか。…暫く仕事が忙しい。お前の部屋に勉強を教えに来れない。代わりにリハをまた来させるから、勉強をサボるなよ。サボったら街に行くのは中止だからな。」
「リハ先生がまた教えてくれるのか!」
シュゼリアは両手を上げて尻尾をブンブン振った。
「おい、名前。」
「あぁ、えっと、先生に会えるの楽しみなのだ。」
シュゼリアはリハの名前を呼ぶなと匂わされたので言い直したのだが、ロンの機嫌は悪くなる一方だった。
このままロンの機嫌が変わって街に連れて行くのはやめたなんて言われたら困るので、どうにか話題を変えようと思った。
「龍族の街に行くのは楽しみなのだ。何人くらいで行くのだ?」
「はぁ?お前と俺だけに決まってるだろ?」
「護衛とかはついてこないのか?」
「俺に護衛が必要だと思うか?」
「それもそうだな。では、私とロン殿の2人だけで行くのだな。…こう言うのを何て言うか知ってるぞ。デートと言うのであろう?」
シュゼリアがデートと言うと、ロンは固まった。
「デートだぁ?」
ロンは眉間にしわを寄せて、シュゼリアを睨みつけた。
怒っているような目つきではなかったが、何か間違えたのかと思い訂正した。
「すまない。違ったのか。アモ…いや、龍族の宰相殿に聞いたのだが。」
ロンはその返答に嫌な顔をした。
「何を聞いた?」
「2人で出かけることをデートと言うと言っていたぞ。違うのか?」
ロンは舌打ちをした。
シュゼリアが勘違いをするような教え方をアモンがわざとしたことが長い付き合いのロンには、わかったからだ。
訂正するのも癪にさわるので、そのままにした。
「まぁ、そうだな。デートだ。」
ロンの言葉にシュゼリアは間違っていなかったと思い安心した表情で笑った。
「デートが楽しみなのだ。毎日カレンダーでカウントダウンするのだ。」
シュゼリアはウキウキとカレンダーを見つめた。
ロンはシュゼリアを見て可愛いなと思ってしまったことに気がつき、そんなはずはないというように慌てて首を振った。
「あぁ、勉強をサボるなよ。サボったら中止なことを忘れるなよ。」
ロンはシュゼリアに念を押すように声をかけると部屋から名残惜しそうに出て行った。
今日は特に何も教えられなかったが、時間がなかったのだろう。
ロンはシュゼリアと違い王の仕事をきちんとこなしているようなので、忙しくても仕方がないのだ。
むしろ、今までよく勉強を教える時間があったなとシュゼリアは思った。
シュゼリアは、ロンの出て行った扉を見て、ロンはもういなかったが、返事をした。
「了解したのだ。勉強頑張るのだ。」
ノートを開いて今までの勉強のおさらいをした。