第1話 魔王ちゃん
真っ赤な2つの月が黒い煙の渦巻く森を照らす。
その暗い森の中には大きくて不気味な城が立っていた。
不気味な城は断崖絶壁に建てられていた。
その城に入るためには、今にも壊れそうな木製で作られている橋を渡らなければならなかった。
赤い2つの月に照らされた薄汚れた灰色の不気味な城の壁は、暗い森に住みついている凶暴な魔物ですら近寄ろうとは思えないほどの不気味なものだった。
その城の玉座には、黄色いツノを頭から生やし、トカゲのような黒い尻尾をお尻につけて、黒いスリットが裾に入ったセクシーなロングドレスを身につけた、黒髪黒目の可愛らしい顔立ちの魔王様が足を組んで座っていた。
魔王様は、人間の男性を周りに侍らせて、ワインを飲んで騒いでいた。
「姫からシャンパンの追加が入りました〜!!」
銀色の安っぽいテカテカ光るスーツを着こなした人間の男性が声をあげた。
「「あざーーす!!」」
10人くらいの魔王城にいる男性はお礼の声をあげた。
そのうちの1人が、玉座の間には似つかわしくない大きなタワーのように並べられたグラスに、シャンパンを上から注いだ。
すると人間の男性は全員で声を上げて歌い出した。
「「はい、
こんな可愛い姫から
シャンパンコール!
こんな可愛い姫は
不気味なお城の
魔王様!!
魔族の女王陛下ばんざい〜!!
俺たち人間
魔王様の下僕〜!!
ぶち上げていくぜ〜!!!」」
シャンパンは綺麗に並べられたグラスに均等に注がれて、それを人間の男性たちは全員手に取った。
「「それではシャンパンを注文してくれた可愛い我らの姫様である魔王様から一言お願いします。」」
姫と呼ばれた魔王様は、人間の男性がシャンパンの入ったグラスを手に持って歌っているのをワインを飲みながら上機嫌な顔で見ていた。
テカテカのジャケットを着た男性の1人が魔王様に向けて安っぽいマイクを差し出した。
「それでは魔王姫から一言お願いします。」
魔王様は気分良く下品に笑いながら叫んだ。
「おう!!お前ら今日は私の奢りだ!!全部残さず飲めよ!!」
魔王様の一言に人間の男性達は雄叫びをあげて喜んだ。
「 「うぇ〜い!!乾杯〜!!」」
人間の男性達はグラスに並々にそそがれたシャンパンを一気飲みすると、新しいグラスを手に取り、また一気飲みしていた。
それを何度か繰り返し、シャンパンタワーになっていたグラスはほとんど空になった。
グラスが空になるころには、人間の男性達はフラフラになっていて、酔い潰れて倒れている者や、魔王城のトイレに引きこもって出てこない者までいた。
魔王城の玉座に引いてある赤いカーペットにはシャンパンの染みがそこら中にできていて、お酒の匂いが染み付いていた。
魔王様はその様子を上機嫌な顔で見ていた。
魔王様がもう一度シャンパンを注文しようとした時、玉座の間唯一の人間の力ではとても開けられそうにない、大きくて赤と黒の模様が描かれている重厚な扉が大きな音を立てて開かれた。
「魔王様!!!今度は、何をなさっているんですか!?」
扉から入ってきたのは、人型の男性の魔族だった。
その魔族は、片目だけのレンズにチェーンをぶら下げた眼鏡をかけていて、緑色の髪は綺麗にオールバックにまとめられていた。
服装は、高価そうな深緑のジャケットを羽織っていた。
人型の魔族のようで人に見えなくもなかったが、彼の牙が人にしては鋭くて長く、唇からはみ出していて、耳は鋭く尖っていたため、彼が人間でないことがわかった。
見た目だけでいうならば、この男性の魔族の方が魔王様と呼ばれるのに相応しい見た目をしていた。
「げ!?宰相!!」
魔王様は先程まで上機嫌に飲んでいた酒のグラスを床に落とした。
グラスは床に落ちて割れる直前に、宰相と呼ばれた魔族が何かを囁いて、その場から消えて無くなった。
宰相はそのままツカツカと足音を立てて玉座まで進んで歩いた。
魔王様は、宰相が自分に近づいてくるのを見て、怯えた子供のように震えて固まった。
しかし宰相が魔王様の元に着く前に人間の男性の1人が宰相に声をかけた。
「グレンデール宰相様、こちら本日の請求書になります。」
黒いジャケットを着て、黒縁眼鏡をかけている唯一人間の男性の中でお酒を飲んでいなかった男性が明らかに魔族で怖い形相の宰相に怯えることなく書類を差し出した。
グレンデールは、人間の男性が差し出した紙を勢いよく掴んで、目を通した。
「に、、二千万!!!!」
グレンデールは人間の男性から受け取った紙に目を通すと、ぐしゃりと音を立てて潰された。
「ひぃいいいい!!!」
魔王様は怯えた声を上げてびくびく震えた。
「しばらくご飯抜きの外出禁止です!!!」
宰相は森の奥まで響く声で叫んだ。
「そんなぁ〜!!!!」
魔王様は玉座の目の前で両膝をついてショックを受けていた。