表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/34

第21話 何かがおかしい

「王立魔法軍?」


 頭にハテナマークのミリィ。クムカがこたえる。


「ああ、そうだミリィ。トゥルーランド王国最後の守護神、王立魔法軍。王都ジェリコをあらゆる敵から防ぐため、自らの命を捨てることすら厭わない、誇り高き軍団。別名『ウォール・オブ・ジェリコ』! 入隊審査は異様に難しく、合格率は一%未満だ。俺も過去三回不合格になっている」

「え?」


 最後の「俺も過去三回不合格」にケイ、ムーディ、ミリィ、そしてダークシュナイダーが声をそろえて愕きの声を挙げた。


「……ウォール・オブ・ジェリコに落ちたの? その程度の実力で、魔王討伐に着いてきたの? ありえない! 何考えてるの?」


 さすがにムーディはあきれ果てた。


「ああ。何か問題があるか? ウルトラエクスカリバーがあれば問題ない!」


 ありまくりじゃボケ、あとあんたの剣はウルカバ違う、ニセモノよ、とクムカを蹴飛ばしたい欲求をムーディはぐっとこらえた。


「アホ! ウルカバがあろうがなかろうが、お前みたいな低レベル筋肉バカじゃ魔王は絶対倒せへんわ!」


 代わりにダークシュナイダーがぶっちゃけた。


「ていうか、まだワイが話ししとる途中や! 話の腰を折らんどいてや!」

「おお、そうだった。申し訳ない。で、なぜ、ウォール・オブ・ジェリコの隊員が闇魔導師などになったのだ?」


 ダークシュナイダーが大きなため息をついた。


「ワイの名前は闇魔導師のダークシュナイダー。闇落ちする前は、王立魔法軍シュナイダー将軍や」

「シュナイダー将軍!」


 クムカが驚きの声を挙げた。


「『王都の戦い』の、あの、シュナイダー将軍なのか?」

「マジで?」


 ムーディも驚く。


「誰それ?」


 ケイが聞いた。


「そっか、ケイとミリィは外国の人だったね。知らないのも無理はないわ。今から五年前、食屍鬼(グール)の族長が王都ジェリコを攻めてきたのよ」

「食屍鬼?」

「そう。食屍鬼は南の砂漠に住む魔族よ。普段は砂漠で行き倒れた人間を食べたるの。変身能力があって、見分けるのが困難。だからトゥルーランドの村や町では食屍鬼避けの護符を至る所に貼り付けてあるの」


 ケイとミリィは気がつかなかったが、ヤゴーナ村でも至る所に食屍鬼避けの護符は存在していた。


「だけど、五年前。食屍鬼避けの護符に耐性を持つ突然変異種の食屍鬼が生まれたの。彼らが王都ジェリコに姿を変えて侵入。王都中の護符を全て剥がし、食屍鬼が一気に王都に攻め込んできたのよ」


 その戦いは熾烈を極めた。これまで王国が経験したことのない規模の襲撃だった。


 何しろ敵は人間に変身している。見分けが付かない。通常の軍隊では民間人と食屍鬼の区別が付かないのだ。


 そこで魔法軍が応戦した。彼らは全員魔眼の持ち主。的確に食屍鬼を見つけ、駆逐していった。なかでもレベル九九の魔法力を持ち、無限のMPを持つシュナイダー将軍の功績は大きかった。体力が続く限りレベル九九魔法を連打した。


 戦闘は三日間に及んだ。ほぼ不眠不休で戦った魔法軍。なかでもレベル九九魔法を打ちまくったシュナイダー将軍は人間の身体能力を超えて戦った。戦闘が終わったとき、シュナイダー将軍の髪は全て白髪になっていたという。


「……王都を救った英雄シュナイダー将軍が、なぜ、闇魔導師になって魔王の手下に?」


 ケイが言った。


「結論から言えば、妹バーバラや。病気のバーバラを救いたい。それだけや」

「病気とは?」クムカが聞く。

「……田舎の母親から手紙が来た。もうバーバラが長くないいうてな」


 ダークシュナイダーの妹、バーバラは生まれつき体が弱かった。幼い頃より何度も名医に見せたが、答えはいつも同じ。


 ――残念ですが、大人になるまでは生きられないでしょう。


 約一ヶ月前。猛烈な寒波が到来した。それと同時に王都で病が流行した。我々の世界でいえばインフルエンザに該当するウィルス性病気だ。王都ジェリコで大流行したので「ジェリコの悪魔」と名付けられた。


 なんだ、インフルエンザか、とバカにしてはいけない。我々の世界でも過去においてインフルエンザは治療に死者を出している。一九一八年に大流行したインフルエンザは全世界で一億人の死者を出している。俗にいうスペイン風邪だ。


 体の弱いバーバラを「ジェリコの悪魔」が襲った。

 ダークシュナイダーは――。

 いや、闇落ちする前だからシュナイダーだ。彼はすぐに休暇を取り、妹バーバラに会いに行った。

 バーバラはベッドに寝てはいたものの、英雄の兄との再会を喜び、ニコニコと笑っていた。


 だが、魔眼を持つシュナイダーにはわかった。バーバラの生命力が見えてしまった。生命力はほぼゼロだった。生きているのが不思議なくらいだった。兄が会いに来るというから、気力だけで生きているのだ。


 病床でバーバラがシュナイダーの手を取る。


「うちな、お兄ちゃんが王立魔法軍、ウォール・オブ・ジェリコの将軍やいうの、めっちゃ自慢やねん。お兄ちゃんが王都と王国を守ったいうの、ほんまに自慢やねん! お兄ちゃんのおかげで、うち、人気もんやねんで!」


 ガリガリに痩せたバーバラがなんとか声を振り絞ってシュナイダーに言う。シュナイダーの目から大粒の涙がこぼれた。


「最後に会いに来てくれてありがと。ほな、うち、もう逝くな……」

「バーバラ! バーバラ! 逝くな! 死んだらあかん! お兄ちゃんな、めっちゃ金もってんねん、せやからな、王都で一番高い薬草を買ってきたんや! これで治るで!」


 我々は知っている。ウィルスに効く薬草などないことを。


「うん……。飲んでみる」


 バーバラは笑った。母親が薬草を煎じ薬草茶を作った。それをバーバラに飲ませる。バーバラは体を少し起こす。


「な! ええ匂いやろ! いかにも効きそうやろ!?」


 シュナイダーは悲しみをこらえながら極力笑顔で話す。


「ほんまや。ええ匂いや……。ええ気持ちで、寝ちゃいそうや……」


 バーバラが目を瞑った。手から煎じ薬草の入ったカップが落ち、床で割れる。ずるる、とバーバラの体が力なく倒れた。


「バーバラ?」


 バーバラは息を引き取った。


「……今度王都に遊びに来る言うとったやんか……お兄ちゃん、王都案内する約束したやんか……まだ約束果たしてないで……あかん……死んだらあかん!」


 シュナイダーは泣いた。号泣した。そして神に祈った。自分はどうなってもいい。妹のバーバラを助けてください、生き返らせてくださいと。


「それはもう、必死に願った。ワイの全てを捧げる、だからバーバラを助けてくれと願ったんや。そしたらな、魔王が現れよったんや! 魔王が『守護神ミカ・エル・シェンカーはそのような願いは決して聞き入れない。祈っても無駄だ』言いよるんや!」


 ミリィは不審に思った。


 なるほど、間違ったことは言ってない。だが、転生魔王がなぜミカのフルネームを知っているのだろう? 悪魔が教えたのか? いや、普通は教えない。仮に教えたとしても、ミカが病気治癒や栄達など現世利益に関する願いを聞き入れないなんてことまで、教えるはずがない。悪魔はそれを知らないからだ。ありえない。


「それでワイは、そんなことあるかい、神様はきっと願いを聞いてくれるはずや、と魔王に反論したんや。するとな、魔王が『お前の知り合いで、死者を復活させてくれと神に祈って成就した奴、いるのか?』と言いよったんや」


 確かに、死者が復活したなどと言う事例をシュナイダーは知らなかった。


 絶望するシュナイダーに魔王は言った。闇の世界の住人となり、魔王に身も心も捧げるというのなら妹を助けても良い、と。

 シュナイダーは喜んだ。妹のためならなんでもする、魔王に身も心も捧げると。

 魔王は言った。暗黒面が導くまま自らの魂を闇の世界に委ねよ。闇の世界の住人となれ。と。目の前に広がる闇の世界にシュナイダーは飛び込んだ。


 ――汝を封じて闇魔導師と成す。以後ダークシュナイダーと名乗るべし。


 闇の力に飲まれたシュナイダーはダークシュナイダーとして生まれ変わった。顔は醜悪な闇顔に変化、声もダミ声になってしまった。

 その瞬間、バーバラの身体が消えた。ダークシュナイダーは魔王に猛然と抗議した。話が違う、バーバラを復活してくれ、と。


 魔王は笑いながら言った。


「安心しろ。一ヶ月後の満月の夜、復活する。ただしお前が闇の住人として務めを果たし続けたらな」


 ダークシュナイダーは具体的に何をしたらいいのかを聞いた。


「魔王ダンジョンの門番となれ。一ヶ月の間、誰一人として敵をダンジョンに入れなければ、次の満月の深夜、バーバラがお前のもとに現れるだろう」


 それを聞いたダークシュナイダーは一ヶ月、このダンジョンの前で勇者を排除し続けていたのだ。


「満月って、昨日じゃない」


 ムーディが言った。


「でも、今日私をバーバラさんと間違えたってことは……」


 ミリィの言葉にダークシュナイダーが力なく頷く。


「……そうや。来なかったんや。ワイ、寝ないで待っとったんやで? やのに結局バーバラは……」


 ダークシュナイダーが言葉に詰まる。


「そんなときにミリィはん、あんたがやって来た。目の色とえっちな服装以外、バーバラに瓜二つや。それでワイ、てっきり一日遅れでバーバラが戻ってきたと思って、それで思わず抱きついてしもうたんや。堪忍してくれへんか?」

「うん……わかった……」


 ミリィの中で疑問が渦巻いていた。おかしい。確かに転生魔王は強力だ。社畜で童貞という闇パワー炸裂、史上最凶の魔王として転生したとは聞いている。


 だが、死者の復活など出来るはずがない。生命の操作は神と悪魔にしか許されず、いかなる場合でもその権限を魔王や転生勇者に分け与えるはずがない。例外は【死に戻り】だけである。なぜ神側だけにそんなチートが認められているのか、その話は長くなるので割愛だ。

 百歩譲って仮に悪魔側が死者復活の権限を人間に認めるとしても、神側と同じく転生したもの、すなわち一度は別世界での死を経験したものにしか許さないはずだ。具体的には転生魔王にしか認めることができない。

 同じ世界での生まれ変わりなど、そう簡単に許せるものではないのだ。


 なにかがおかしい。


 これは一度天界へ戻るべきだろう。

 ケイが魔王討伐を決意した今、天上界に変えることは可能なはずだ。ミカに相談したほうがいい。

 まず、時間を止めそれから一時天界へ帰還しよう。ミリィは小声で時空魔法【マーチ・オブ・タイム】の呪文を唱えた。

 空気の流れが止まる。クムカ、ダークシュナイダー、ムーディ、そして今回はケイも動きが止まった。


「みんなちょっとの間待っててね。調べ物してくる」


 天界に戻るための呪文を唱える。だが、何も起こらない。


「あれ?」


 もう一度唱える。同じだ。おかしい。アラートすら出ない。


「ま、いっか。空を飛んで帰ろーっと」


 ミリィの背中から七色に輝く天使の翼が出て来た。超時空飛行を可能にする天使の翼だ。少しだけ時間はかかるが、これで空を飛んでいけば天界に戻ることが出来る。ケイが魔王討伐を決意したのだから大丈夫なはずだ。


「れっつごー!」


 ファサ、ファサ、とミリィは飛び立つ。順調に空に舞い昇るミリィだったが、途中で見えない壁にぶつかった。

 まるで磁石の同じ極同士が反発し合うように、見えない壁にどうしても近づけない。ミカが作ったとは思えない。ミカが作ったのなら必ずアラートが出るはずだ。

 空中で静止してミリィは水晶玉(クリスタル)を取り出す。クリスタルのAIモードを起動し、状況を判断することにした。


「オーケークリスタル。教えて。なんで私は天界に帰れないの?」

『お答えします。未知のフォースフィールドが張り巡らされています』


 クリスタルなだけに澄んだ声で答えるが、内容は不透明なことでいっぱいだ。


「え? 未知のフォースフィールド? なにそれ? ミカ姉さんでも魔王でもないってこと?」

『はい』

「あのさ、はい、の一言で片付けないでよ……。もう少し情報はないの?」

『すみません、わかりません』


 ぐぐぐ、とミリィが呻く。


「じゃあ、とりあえずミカ姉さんに話ししたいんだけど。できる?」

『できません』

「なんで? ケイが魔王討伐を決意したから、天界への通話回線は使えるんじゃないの?」

『すみません、わかりません』

「あーもー、全然役に立たないこのAI!」


 クリスタルを叩き割りたいのをぐっとこらえるミリィ。

 ミリィは空を見上げる。フォースフィールドなら、力技で破壊できる可能性がある。全属性狙撃魔法弾【天使の怒りLv99】で破壊できるかもしれない。ミリィは呪文を唱えた。強力な全属性魔法弾がミリィの指先から放たれた。


「え……!」


 ミリィは衝撃を受けた。魔法弾はまるでフォースフィールドなどないかのように、空の彼方へ飛んで行ってしまった。


「ど、どーゆーこと!?」

『すみません、わかりません』

「あなたに聞いてないのよっ! バカクリスタルっ!」


 ミリィは他の魔法攻撃もやってみた。だが、すべて結果は同じだった。


 これは転生魔王にできるようなことではない。何かが起こっている。おそらく、悪魔と神、その両方が知らないところで何か恐ろしいことが下界で起こりつつあるのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ