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超時空天使とテンプレを知らない勇者の物語  作者: 上城ダンケ
転生勇者ケイと賞金稼ぎのムーディ
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第13話 妹

 村長の家は広場のすぐ近くにあった。


「ただいま。お客さんを連れて来たぞ。クムカと旅のお方たちだ。こちらがケイとムーディ。賞金稼ぎだそうだ。このお嬢ちゃんはミリィ。ケイの妹だそうだ」

「あらあらクムカ。ジエンドを倒したんだって? すごいじゃないの」


 人の良さそうな初老の婦人が目を細めてクムカに話しかける。村長の妻メアリだ。


「はっはっは。ダイヤモンドクラス勇者の俺にとってはなんてことないのだ!」

「頼もしいねえ」

「はっはっは。それほどでもないぞ、メアリおばさん!」


 クムカが珍しく恥ずかしそうに笑った。


「そうそう、これが頼まれていた薬草だ」


 クムカが薬草の入った包みをメアリに渡す。


「いつもすまないねえ。この歳になるとさすがに隣村にいくのはしんどくてねえ。助かってるよ」

「はっはっは。お安い御用だ! ところで、リンカはいるかな?」

「ええ、いるわよ。奥でアップルケーキ作りを手伝ってくれているの。リンカちゃん、お兄さん帰ってきたわよ」


 メアリが奥の厨房に向かって呼びかけた。


「おーい、リンカ、兄ちゃんだぞ。今帰ったぞ」

「お帰りなさい、お兄様!」


 エプロン姿の少女が厨房からひょこと顔を出す。クムカと同じく漆黒の髪の毛。瞳も黒い。痩せているというよりはやつれているのだが、目鼻が整っており綺麗な顔つきだ。ケイと目が合った。思わずケイは目をそらす。


「あら? こちらの人たちは?」

「おう、そうだ。紹介しよう。彼女はミリィ。十四歳だ」

「ども、ミリィです」


 ミリィがぺこりと頭を下げる。リンカも厨房から出てきて礼を返す。


「リンカです。ミリィちゃん十四歳なの? 見た目よりお姉さんなんだね。私は十六歳よ。仲良くしてね」

「ありがとです」ミリィが答える。

「ミリィがジエンドに襲われそうになっていたので、ダイヤモンドクラス勇者である俺が助けたのさ!」

「まあ、ジエンド! 恐ろしい! ミリィちゃん、変なことされなかった? 大丈夫? ジエンドって、女の子にひどいことするんだよ! ……変なこと、されなかった?」

「えーと、クムカさんが助けてくれたから、なにもされなかったよ」


 むしろクムカからセクハラを受けたといえよう。


「よかった! ……ぐふ、ぐふ」


 リンカが咳き込んだ。


「大丈夫か? 薬はまだあったはずだが……効きがだんだん悪くなっているな……」

「だ、大丈夫だよ、お兄様。……えっと、そちらのお二人は?」

「うむ。この二人のうち、男の方はケイ。ミリィの兄上だ。年は……何歳だ?」

「俺? ああ……十七歳だ。もうすぐ十八歳になる」


 ケイが答える。ケイはどことなく上の空だ。じっとリンカを見つめている。いきなり見つめられるのでリンカは不思議そうにしている。


「だそうだ。ケイとミリィは外国の人なんだぞ」

「へー! 外国! 私、身体が弱いから外国なんて夢のまた夢なの! 一杯お話聞きたいなあ!」


 満面の笑みでリンカが言った。「身体が弱い」という部分にケイの体が反応した。


「最後は俺がジエンドを倒したことに激しく嫉妬する血気盛んなお嬢さんの……。えーと……。すまん、お前の名前聞いてないぞ。名を何という?」

「ムーディ。賞金稼ぎのムーディよ。年は十八歳。もうすぐ十九歳だけどね」


 なぜ村長の家にリンカはいるのだろう、とミリィは思った。

 クムカの家族はどこにいるのだろうか。ミリィは聞くことにした。


「ねえ、クムカさん、ご両親はどこ?」

「両親? いないぞ」

「お出かけ中なの?」

「いや、両親は死んだんだ」

「え……」

「お袋は……リンカの出産で命を落としてしまってな。親父が男手一つで育てていたのだが……。親父も俺が十才、リンカが六才の時、流行病にかかって死んでしまった」


 クムカが真顔で言った。


「親父が死んでからは、村長さんのところに世話になっているんだ」

「そうだったんだ……ごめん、変なこと聞いて」

「はっはっは、気にするなミリィ」


 陽気に笑うクムカ。


「ミリちゃん、本当に気にしないでね。さ、みんなでアップルケーキを食べましょ。メアリおばさん、皆さんにケーキを……ぐふ、ぐふ」


 リンカが咳き込む。


「大丈夫かリンカ。無理するな。横になるか?」


 心配そうにクムカがリンカの背中をさすった。


「ごめんね……心配ばかりかけて」

「俺はお兄ちゃんなんだ。お兄ちゃんは妹の面倒を見るのが当たりまえさ!」


 クムカが例の親指立てキュピーンポーズを決める。


「はは、もう、お兄様ったら、また勇者リッチーの真似してる」

「ふははは、だって兄ちゃんは伝説の勇者リッチーの再来だからな! 大丈夫だ。俺が魔王を倒す。そうすれば瘴気はこの世界から消える。そしたら、リンカだって元気になるさ!」

「うん!」


 リンカが笑った。なぜかムーディもにやける。


「あの、妹さん、具合悪いのか? 治らないのか?」


 思いつめた顔でケイが聞く。


「病気ってどーゆーこと? 魔王の瘴気って、何?」


 続いてミリィもクムカに聞いた。

 ミリィは思った。魔王の瘴気? そんな話は聞いたことがない。魔王にそのような属性はないはずだ。


「おや、ミリィもケイも知らないのか? そうか、まだ君らの国までは魔王の瘴気は届いていないのだな。だが、時間の問題だ」


 おもむろにクムカが語り出した。


「数ヶ月前、魔王が復活した。その直後からトゥルーランド王国に瘴気が立ち込めるようになったのだ。リンカは生まれつき体が弱くてな。瘴気の影響を受け、病に倒れてしまったのだ。薬を飲んではいるが……あまり良くならない」


 ミリィは思った。

 おかしい。そのような話は聞いたことがない。転生魔王が瘴気を出すなど、今までなかったことだ。

 異変が起こっているようだ。


 ミリィはリンカのスタータスを見ることにした。何かわかるかも知れない。リンカの周囲にステータス画面が立ち上がる。もちろん、ミリィにしか見えない。


(え……なにこれ)


 ミリィは衝撃を受けた。生命力が落ちている。もう長くは持たない。

 一ヶ月持てば良い。それまでに瘴気を絶たねばリンカは死ぬ。


「そうだ、リンカ。今度の薬は凄いぞ。東洋の薬だ。瘴気病みに大変良いそうだ。お湯に溶かして飲むそうだ」


 クムカが薬の包みをリンカに渡した。


「ありがとう、お兄様」


 リンカが笑う。


 ミリィは薬に対し【調べる】を行使した。


(だめじゃん……)


 確かに良い薬だった。血行を良くし身体の免疫力を強化する効能がある。身体のアレルギー反応を抑える効果もある。細菌はおろかウィルスからがん細胞に至るまで、攻撃能力がある。夢の万能薬だ。

 だが、リンカの病気には役に立たない。多少症状が改善するくらいだ。


「東洋の薬か。瘴気病みにいいって評判よね」


 ムーディが言った。


「その通り」クムカが答える。


「その東洋の薬、高いでしょ?」

「まあな。だが、ハアトの懸賞金で金の心配はなくなった。いくらでも東洋の薬を買えるだろう」

「でも、それで完治した人って聞かないんだよね……」

「……薬屋もそんなことを言ってたかもしれん」

「かといって、他にいい薬ないのよね」

「……」


 クムカは黙り込む。


(私には関係ないよね……)


 ミリィは自分を納得させようとした。自分は千年以上も生きている。天界からいろんな人生を見てきた。


 王侯貴族から民衆に至るまで、様々な不幸を見てきた。だから、こんなこと、なんでもないはずだ。


 なのに、なぜ、こんなに辛いのだろう。


 天界から見るのと、下界でその場に立ち会うのとでは、こんなにまで違うのか。


「あれ? ミリィちゃん、どうしたの?」


 ミリィが暗い顔をしていたので心配したリンカが声をかけた。


「え? ああ、えーと、なんでもないよ……」

「そう? 元気ないよ? そだ! アップルケーキ食べよ! 元気がないときは甘いものがいちばん! メアリおばさん、ケーキを取り分けてくださいな。私、紅茶を淹れるね」


 リンカが厨房に戻り紅茶の用意を始めた。

 メアリが奥のキッチンからタンバリンほどの大きさのホールサイズアップルケーキを持って来た。思わずミリィの目が大きくなる。


「では皆さん、どうぞ席についてくださいな。私とリンカが心を込めて焼いたアップルケーキよ。さ、適当に座ってくださいな」


 メアリはケーキを丁寧に切り分けテーブルに並べた。リンゴの香りがテーブルいっぱいに広がる。ケイ、ミリィ、ムーディ、クムカそして村長が食卓に座った。


「さ、召し上がれ」。


 一同一斉に「いただきます」と唱和。手づかみでケーキを食べる。


「ひゃう! お、美味しい!」


 感激のあまりミリィが素っ頓狂な声を出す。一同が笑う。


「ご、ごめんなさい……」

「いいんですよ、お嬢ちゃん。そんなに喜んでくれて、作った甲斐があるってものよ」

「うむ、いつ食べてもメアリおばさんが作るアップルケーキは至高にして究極!」

「あら、お兄様。私も手伝ったのよ?」


 紅茶を振る舞いながらおどけた調子でリンカが言う。


「そうだ、リンカ! まさにリンカこそ究極のパティシエ!」

「もう、お兄様ったら!」


 狭い小屋の中に笑い声が響いた。

 ミリィも笑った。そして思った。


 だめだ。この人たちを無視することはできない。

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