なまり
地方出身の彼
東京出身の私
いつも彼の方言をイジる
まだ聞いたこともないのに
彼の産まれた 彼の育った 土地のことを想う
訊けば自然の豊かな場所だという
訊けばひとのすくない町だという
訊けばごはんの旨い土地だという
訊けば何もない寂れた所だという
私は想う まだ 想うことしかできないから
素敵な場所なのだろう きっと 彼の故郷なのだから
なまってしゃべってみてよ
いつも通りに嫌がる彼
恥ずかしがることないじゃん
一回でいいからさ、お願い
何度目だろう このやりとり
たとえ100回、1000回繰り返したって
私は笑ってるんだろう 楽しいねって
あ
いまなまったでしょ?
不意にでた彼の方言
何気なくしゃべってただけなのに
もう一回、なまってしゃべってみてよ
嫌だよ、と彼はいう 恥ずかしそうにほほを染めて
また私は方言をイジる
彼は知らない 私がこんなにも嬉しいことを
彼のとおく離れた故郷まで 入ることを許されたことが