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真面目に救世の旅を続けていた筈なのに何故かハーレムパーティが出来上がっていたので全員追放する

作者: 竹蔵判利

「今日は僕からみんなに大事な話がある」

 旅の途中で寄った村の宿屋で一晩を明かした翌朝のことだ。


 僕の目の前に並んでいるのは、半年前から続けている救世の旅の同行者達。

 この国の王に任命されて、勇者として王都を出発した時、僕は一人だった。

 それが旅を続ける間に一人、また一人と同行者が増えていったのである。


 教会の総本山がある聖都へ寄った際に押し付けられた聖女が一人。

 魔物に襲われた村を助けた時から恩返しと称して付いてくる女狩人が一人。

 力試しに、と参加した剣術大会で打ち負かした女騎士が一人。

 そして、旅を始める時に別れた筈の幼馴染が一人。

――気づけば女性ばかり四人が加わって今では立派なハーレムパーティである。


 幼馴染も含めて、戦闘面では申し分のない実力を持つメンバーだが、女性四人に対して男が僕一人、という現状が災いしてか、彼女達からはどうにも魔王打倒の意思が感じられない。


 余裕を持って倒せる筈の魔物との戦闘で、苦戦しているフリをして助けを求めてきたり、旅を続ける為の装備の補充だと言っているのに、身を飾る為の装飾品や化粧品ばかり買ってきたり、そんな救世の旅には相応しくない行動の数々がここ一ヶ月、幼馴染が合流してきたあたりから激化している。

 そして今日、業を煮やした僕は彼女達を追放することにしたのだ――。


「……ここまでみんなと旅をしてきて、一つ分かったことがあるんだ。僕には、一人旅が性に合っているんだと思う……。今までありがとう、ここでみんなとはお別れだ」

 彼女達の顔を見るのが怖くて、下を向いたまま一息で話し切ってしまった。

 少し、早口だっただろうか……。

 意を決して顔を上げ、彼女たちの様子を伺ってみる。反応は様々だった。


 呆けた顔をして固まっている。

 手を強く握りしめ、俯いている。

 一人は膝をついて、泣き出してしまった。

 そして最後の一人は、今にも僕に何か言葉を投げかけようとしている――。


――気づけば僕は走り出していた。


 彼女たちの声に耳を傾けるのが怖かった。

 あのまま五人で旅を続ける姿が目に浮かぶようだった。

 僕はあまり口が上手くない。簡単に言い包められてしまっていたに違いないのだ……。

 そのまま振り返ることなく村から飛び出して、どれくらい走り続けただろうか。

 ようやく後ろを確認し、……誰もいないことに安堵してその場に座り込んだ。



「情けないなあ」

 念願の一人旅はしかし、旅を始めた当初のような気楽なものにはならなかった。

 目的地がバレているからだろう、どの村に寄っても同行者達の影がある。先回りされているようだった。

 救世の旅の筈なのに、これではまるで逃避行じゃないか……。

 夜中にこっそりと村を抜け出す僕は、そんなことを考えていた。



 王都に魔王討伐の知らせが届いたのはそれから一年後のことだった。

 しかし、どれだけ待っても勇者が王都に戻ることはない。まだ旅を続けているようだ。

 同様に、旅の途中で加わったという同行者達についても戻ってきた、という情報は入ってきていなかった。

 当然、民の間では様々な噂、憶測が飛び交ったが、その中に正解と呼べるものは一つもなかった。

 まさか勇者が当初の崇高な目的とは程遠い、なんとも悲しい理由で旅を続けているとは誰一人考えもしなかったのだ。



 時代は変わり、魔王と勇者の話がかつての憧憬とともに語られるようになった頃。

 遂に戻ることのなかった勇者と、その同行者達の最後の旅路を、多くの謎を含んだまま吟遊詩人が今日も歌う。

……勇者が魔王討伐後も一人続けた旅。

 誰も知らない筈のその結末は、――同行者達の子供、そこに色濃く受け継がれた勇者の面影を見れば明らかなことであった。


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