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冷たくしないで

 その日曜日。

 港本町の東側交差点には、六時四十分には着いていた。

 アーケードの下とは言え、寒風に晒されながら彼を待つ。


 手には、一粒一粒、銀色の包みでラッピングされたチョコレートの瓶詰めが入っている、紅い紙バッグを手にしている。

 それは、アーモンドを飴で絡め、柔らかく溶かしたチョコで丸めて楕円形に形作り、仕上げにココアパウダーをまぶした、私の手作りのチョコレート。


 そう。今日は、『聖ヴァレンタインデー』。


 今日、逢うことの意味を、彼は充分過ぎるほど知っているはず。


 でも。


 彼は、彼女とデートしている。

 それは、疑いようもないこと。

 彼女とのデートの後に、ついでに私にも逢ってやろうというつもりに違いない。


 それは、よくわかっている。

 わかっていたけれど……。

 それでも、私は彼に逢いたかった。


 逢いたい。

 逢いたい。

 逢いたい。


 ただ、愛しさだけが募る。

 あの日のキスは、彼にとって、気紛れ以外の何ものでもないこともよくわかっている。

 けれど、私には、絵莉という女の子が羨ましくて仕方がない。

 それほどまでに、私は、彼に惹かれてしまった。


 けれど。

 七時が過ぎても、八時が近くなろうとしているのに、彼は現れない。


 それでも、私は彼を待っていた。

 ただ、ひたすらに、待ち続けた。

 彼が現れてくれるその瞬間まで。


 冷たくしないで。

 冷たくしないで。


 私の心が叫び続ける。


 私は、あなたのことが好き。

 どんなに待たされても、手先も脚の爪先までかじかんでも、私はあなたを待っているから。


 どうか、私に冷たくしないで。


 私はあなただけを待っているから……。

 あなただけを想うから……。



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YouTube『冷たくしないで』プロモーションビデオ 本作「冷たくしないで」のプロモーションビデオをYouTubeで視聴できます。 是非、ご覧下さい。 尚、このPVは、ちはやれいめい様に作成して頂きました。 ちはやれいめい様、本当にどうもありがとうございました!
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