冷たくしないで
その日曜日。
港本町の東側交差点には、六時四十分には着いていた。
アーケードの下とは言え、寒風に晒されながら彼を待つ。
手には、一粒一粒、銀色の包みでラッピングされたチョコレートの瓶詰めが入っている、紅い紙バッグを手にしている。
それは、アーモンドを飴で絡め、柔らかく溶かしたチョコで丸めて楕円形に形作り、仕上げにココアパウダーをまぶした、私の手作りのチョコレート。
そう。今日は、『聖ヴァレンタインデー』。
今日、逢うことの意味を、彼は充分過ぎるほど知っているはず。
でも。
彼は、彼女とデートしている。
それは、疑いようもないこと。
彼女とのデートの後に、ついでに私にも逢ってやろうというつもりに違いない。
それは、よくわかっている。
わかっていたけれど……。
それでも、私は彼に逢いたかった。
逢いたい。
逢いたい。
逢いたい。
ただ、愛しさだけが募る。
あの日のキスは、彼にとって、気紛れ以外の何ものでもないこともよくわかっている。
けれど、私には、絵莉という女の子が羨ましくて仕方がない。
それほどまでに、私は、彼に惹かれてしまった。
けれど。
七時が過ぎても、八時が近くなろうとしているのに、彼は現れない。
それでも、私は彼を待っていた。
ただ、ひたすらに、待ち続けた。
彼が現れてくれるその瞬間まで。
冷たくしないで。
冷たくしないで。
私の心が叫び続ける。
私は、あなたのことが好き。
どんなに待たされても、手先も脚の爪先までかじかんでも、私はあなたを待っているから。
どうか、私に冷たくしないで。
私はあなただけを待っているから……。
あなただけを想うから……。