突然のKISS
本作は、アンリさま主催「キスで結ぶ冬の恋」企画(2018年)及び銘尾友朗さま主催「冬のドラマティック」企画(2020年)参加作品です。
「あー、もう! さっぱりわっかんない!」
睦月の厳冬のある放課後。
やけに底冷えする教室で一人、私はぼやいている。
今日、物理の時間、問題に答えられなかった私は、今日中にそれを解いて職員室へ持って来るように言われ、それで居残っている。
しかし、元々、理数系が苦手な私には、しょせん解けない問題なのだ。
「何、やってんの?」
その時。
背後から声がした。
びっくりして振り返ると、
「城田君……」
そこには、クラスメートの城田君が立っていた。
「ああ、今日の物理の問題か。まだ解けないの?」
「うん……」
「それ、ドップラー効果だろ。それはさ……」
そう言うと、城田君は私の右隣の自分の席に座って、問題を解説し始めた。
「……というわけで、答はこうなるわけ」
「すごい! 城田君!」
私は、羨望のまなざしで彼を見つめた。
彼は、クラスではあまり目立たないタイプで、いつも大人しく、ひっそりとしている。
しかし、そう言えば、英語や古典などの授業でも、当たって立ち往生をするところを見たことがないということに、その時初めて気がついた。
「そんな風に見るなよ」
クッと、彼が笑った。
「え、え……私……」
不躾な自分のまなざしを恥じ、私は赤くなった。
その時だったのだ。
彼の瞳がまっすぐに私を捉えた。
私はその切れ長の茶色の瞳に吸い込まれていった。
城田君……
彼の手が私の肩にまわり、そして……。
彼の口唇が私の口唇に重なった。
それは、わずか三秒ほどの時間だった。
しかし、私には永遠に思える時だった。
口唇が離れる。
見つめ合うことなく、
「じゃあな」
彼は、何事もなかったかのようにそう言うと、鞄を持って、教室を出て行った。
後には、ただ呆然とする私だけが取り残された。