El encuentro que se destina−運命の出逢い−(III)
千早が集合場所へ辿り着くと、そこにはフレドリックが海の方を眺めながら立っていた。
手荷物は海水浴用に持って来たビーチバッグのみ。結局、彼も千早と同じく何も買わなかったようだ。
「ジュリアとポールは?……まだみたいね。」
「ああ。どうせあいつらの事だ、時間ギリギリまでジュリアが我儘言ってるんだぜ。」
2人の様子を想像したのか、フレドリックが鼻で笑う。
「……ふふっ。そうね。プリンセスの我儘は健在ってトコロかしらね。」
千早も、いつもの2人を思い出して微笑む。
とは言え、千早はそろそろお腹が減って来ていた。早く夜ご飯にあり付きたい、と云うのがのが本音だった。
「……腹減ったな。」
フレドリックも同じ様に思っていたらしく、ぼやくように呟く。
「そうね。昼間に泳いだし、そろそろお腹が減って来たわね……。」
「シャナ〜、フレッド〜!!」
突然、ジュリアの大きな声がして、2人の会話を中断させる。
声の下方向を見遣ると、ジュリアが10メートル程離れた場所から思いっきり手を振りながら近付いて来るのが見えた。隣には大きな包みを幾つも手に持ったポールが、少しよたつきながら歩いている。
全部ジュリアの買い物だな、と瞬時に悟った千早とフレドリックは互いに目配せをすると、想像通りだと小さく笑い合った。
「お待たせ〜!」
荷物を全て持たせたポールを置き去りにしたまま、小走りに駆けて来たジュリアは悪びれる様子もなく言った。こんな風に自分勝手な態度を取っても、何となく憎めないのが彼女の不思議な魅力に繋がっているのだろうか、と千早は思う。
「……あれ?シャナ、ちょっと顔赤いよ?どうかしたの?」
千早の顔を見上げて、ジュリアが小首を傾げる。その仕草は、小動物のように愛らしい。
「え?……そ、そう?さっきちょっと走ったからかな……。」
熱いしね……などと言って、軽く手で顔を扇ぐ仕草をしたりして適当にごまかしながらも、千早の心の中には先程の青年の顔が浮かんでいた。
別にさっきの出来事を説明したくない訳ではなかったのだけれど、何となく口を噤んだのだ。顔が赤い理由を上手く説明できそうにない気がしたのも、原因の一つではあったのかもしれないけれど……。
この時の千早は、まだ自分自身でも本当の理由に気が付いていなかったのだ――。
「ふ〜ん……?」
いつもは激ニブのジュリアだが、こう云った事には何故か妙に鼻が利く。千早の態度に納得し切れていないようではあったけれど、取り敢えず、それ以上は何も突っ込んでこなかったので、少しホッとする。
「そ、そんな事より……。お腹すいたわよね?さっきもフレッドと話してたんだけど、夕食どうする?」
ジュリアの荷物を抱えてやっと皆と合流したポールへと視線を飛ばすと、千早は話しを振った。
ポールはゆっくりと荷物を降ろしながら、答える。
「そうだね……。この辺りにも美味しそうなレストランがあるとは思うけど……。」
「ポール、お前、その荷物抱えてレストランに入るつもりか!?」
4人の足元に置かれている荷物は、高さ約1メートル程の小さな山みたいになっていた。尋常ではない量だ。ジュリアは一体何を買ったんだ……。千早とフレドリックは再び顔を見合わせる。
「あはは。やっぱり無理かな。」
お坊ちゃん育ちは、どこまでも呑気だ。ある意味、大物だと思うけれど。
「ったりめーだろ!?入店拒否られても文句は言えね〜ぞ、その量は。」
「確かに、そうねぇ……。」
「そうかなぁ〜?」
「「「……当たり前、だろ(う)/でしょ!?」」」
ひとり、イマイチ状況を理解していない能天気なジュリアが不思議そうに呟いたのに、全員があきれ顔で突っ込んだ。
結局、荷物を抱えてのディナーは諦めて、4人はホテルへと一旦戻る事にした。
ホテルへ向かう帰りのタクシーの中で、ジュリアが嬉しそうに話しだした。
「そうそう!シャナに似合いそうな可愛いリゾートワンピがあったから、オソロで買っちゃったの。」
「そ、そう。……ありがとう。」
「後でディナーの時に一緒に着ようね〜。」
「え?今日?」
「うん!ね!?」
期待の込もった満面の笑みで見つめられると、最早“NO”とは言えない千早だった。
ホテルの部屋に荷物を置いてから、近くのオープンカフェ風のレストランへ向かった。
勿論、千早とジュリアは色違いのワンピースドレスを身に付けている。円形の模様がグラデーションになったアジアンちっくな染物風のシンプルなデザイン。ジュリアは濃いオレンジと黄色、千早には濃紺と薄い黄色のグラデーションがお腹の辺りから足首の所まで綺麗なドレープを描いている、ロングドレス。2人とも、髪と眼の色にドレスの色が映えて、とても似合っていた。
ジュリアが真昼の太陽ならば、千早は夜の月――と云う具合に、2人のイメージの違いが、お互いを更に引き立てて居る。
「ピュ〜。」
フレドリックなど、2人が着替えて来た時に思わず口笛を吹いてしまった程だ。
ポールはいつも通りの紳士的な態度で、
「2人とも、とても素敵だね。」
とクサイ台詞を平気で口にして居たけれど。
「イイでしょ、これ?」
クルリと一回転して見せて、ジュリアが自慢げに言う。千早はただ苦笑してその様子を見ていた。
その後、オープンカフェで食事をして居た4人が、カフェの客を始め通りすがりの人たちからの視線をも浴びる程に目立っていたのは、言うまでもない。
その中のひとつに、千早に覚えのあるものも混じっていたのだけれど……。
この時の彼女には、まだ気付く術がなかったのだった。
楽しんでいただけましたでしょうか?
メキシコ編、まだまだ続きます。
頑張って書きますので、最後までお付き合いいただけると嬉しいです。