El encuentro que se destina−運命の出逢い−(II)
今回、スペイン語の部分が少し出てきますが、カタカナの部分はカタコト、普通に書いてある部分は流暢な言葉と解釈していただければと思います。
英語部分も同様です。
尚、「」の会話が英語、『』の会話はスペイン語になっていますので、それを踏まえて読んでいただければと思います。
では、楽しんで行っていただければ、嬉しいです。
「早く、早く!泳ごうよ〜千早!!」
速攻で水着に着替えた(洋服の下に既に着ていたので、実際は服を脱いだだけだったっけれど)かと思うと、脱ぎ散らかした洋服など荷物の片付けもそこそこに、ジュリアは海へ駆け出して行った。ポールも慌てて海パン姿になって彼女の後を追いかける。
「ココ片してから行くから、先に行ってていいわよ。」
ポールが追いかけて行くのを見届けながら声高に言うと、
「オヒメサマの面倒も大変だな。」
ジュリアの脱ぎ散らかした服を集めて、自分とポールの荷物と纏めて居ると、フレドリックが低く呟いた。
「今さらでしょ。」
明るく笑いながら、波打ち際で波とじゃれているジュリアとポールを、眩しそうに見つめる。仲の良い2人を見ていると自然と笑顔になる。千早は、彼女たち2人を見ているのが好きだった。
「千早、これ敷くの手伝えよ。」
「ビニールシートなんて持って来てたの?」
「いや、そこの売店で借りて来た。ないとアイツぜってーごねるだろ?」
言って、顎で軽く海の方を指す。「アイツ」が誰かは明白。
「何だかんだ言いながらも、優しいわよね。フレッドも。」
「ばっ、ちっげーよ!後でギャーギャー文句言われんのが嫌なんだ!!」
耳の辺りを赤く染め名ながら喚くフレドリックに、込み上げてくる笑いを下を向くことで隠しながらシート敷きを手伝う千早だった。
フレドリックとポールは海から上がると、全身から海水を滴らせながら休憩をしているジュリアと千早の所まで近寄って来た。
千早たちのビニールシートの真横で、フレドリックが泳いだ直後の犬のように頭を左右に振ると、周りに水滴が勢いよく飛び散る。
「冷たっ!ちょっと、フレッド!水が散って来るんだけど!!」
ビニールシートの上で横になって寛いでいたジュリアが叫んだ。
「あ、わ〜りぃ。」
「もうっ。もっと離れたトコでしなさいよ!」
悪びれる様子のないフレドリックに、ジュリアはまだプリプリと怒っている。
が、フレドリックは彼女の怒りなど全く意に介していない風で、飄々と口を開く。
「なぁ、何か喉渇かねぇか?」
「……そう言えば、そうね。」
言われてみて、千早は何となく喉の渇きを覚えた。
「じゃあ、飲み物でも頼むかい?」
フレドリックと同じく、全身ずぶぬれのポールは海パンの裾を絞りながら提案する。
「うん!私も何か飲みたい!」
さっきまでの怒りはドコヘ行ったのやら、一変してご機嫌モードへ変換したジュリア。いつもながら、感心するほど見事な気まぐれ振りだ。
「じゃあ、何か頼もう。」
言うと、ポールはさり気なくスッと右手を上げて売店の方を見遣る。すると、店員らしき少年が足早に近付いて来た。
「ジュリアと千早は何が好い?」
「私、オレンジジュース!」
「私は……そうね、グレープフルーツジュースかしら。」
『ウノ フゴ デ ナランハ イ ウノ フゴ デ ラ トロンハ。(オレンジジュース1つとグレープフルーツジュース1つ。)』
やって来た少年に向かって、ポールがカタコトのスペイン語で注文する。それからフレドリックの方に向き直った。
「フレッドは?」
「俺、コーラ。」
『イ ドス コカコーラ、ポル ファボール。(それと、コーラ二つお願いします。)』
ポールがお得意の笑顔でそう告げると、少年は無言で頷いて露店の方へ駆け戻って行った。
「僕のスペイン語、ちゃんと通じたかな?」
メニューなどないので、殆どうろ覚えの単語を並べただけだったのだ。彼の心配も解らなくはない……が、他の3人は彼以上にスペイン語が苦手なのだから、ただただ通じていたことを願うのみだ。
暫くして、先ほどの少年が飲み物を運んで来た。彼が持つプレートの上に乗っていた物は、オレンジジュースにグレープフルーツジュース、それからコーラ2つ――らしき色の飲み物。各々自分の頼んだジュースに一口付けてみて、ホッと胸を撫で下ろした一同。
どうやら、ポールのスペイン語は一応通じていたらしい。
4人は少年にジュース代とチップを手渡してお礼を言った。それを受け取った後も、少年はソワソワとこちらの様子を窺っている。何だろうかと思っていると、少年は意を決したように口を開いた。
「お兄さんタチ、アメリカからキタの?みんな、スッゴクキレイでカッコイイね!!」
彼の口から出た言葉は、メキシコ訛りだしカタコトだが、れっきとした英語だった。何故か興奮したような様子の彼は、早口で一気に言う。
いきなり聞き慣れない発音の英語で話しかけられて少なからずビックリした4人だったが、彼らを褒めてくれているらしい少年の言葉に、悪い気はしなかった。
「お前、英語喋れんのか?なんだよ、なら先に言えよな〜。」
先ほどのスペイン語でのやり取りに緊張していたらしいフレドリックが(実際には彼は一言も喋って居なかったのだが)、照れ隠しの様にボヤいた。
「ちょっとダケ。お客サンに習った。」
「へ〜。その割に上手ね〜。」
「そうね。」
ジュリアと千早が感心したように少年へと微笑みかける。と、彼の顔がみるみるうちに真赤になって俯いてしまった。
千早たちの頭の中にハテナマークが浮かぶ。何か変な事言ったかしら……?
少年はまだ少し頬の辺りが赤い顔を勢いよく上げて、再び口を開く。少年の眼が、憧れの様な色でキラキラと輝きながら、4人を見詰めている。
「お兄さんタチ、みんなスゴク、キレイでカッコイイ……ケド。」
一旦言葉を切って、今度は耳の辺りを少し赤くして、続けた。
「特に――……セニョリータ、アナタ、スゴク、キレイ……。」
彼の視線は、チラチラと千早を捕えているようだった。それを見たジュリアは、私の事はムシですか……と心の中ですかさず突っ込みを入れる。
え〜っと、これは口説かれているのかしら……?千早は戸惑いながらも、どうしたら好いものだろうかとジュリアの方へ視線を向ける。が、彼女はムシされたお返しとばかりに(?)楽しそうにニヤニヤ笑いながらこちらを見返してきた。
完全に面白がってるな……そう感じた千早は、いつもの作り笑いでやり過ごすことに決めた。
褒められて決して嬉しくない訳ではなかったが、相手は少年。変に好意や期待を持たれるのは困るし、不用意な事を言って傷つけるのは躊躇われたからだ。
『グラシアス、アミーゴ。(ありがとう。)』
千早はスペイン語で返すと、彼に綺麗な作り笑いを贈った。
すると、一瞬で満面の笑みになった少年は、まだ少し赤い顔のままくるりと踵を返して売店の方へ駆け戻って行った。
「相変わらずラテン系にモテルなぁ、千早。」
「だね〜。あんな少年まで千早のラテン系虜フェロモンに酔ちゃったか〜。」
フレドリックとジュリアは、適当な事を言って千早をからかう。2人とも、目が笑っている。面白がっているのがマルワカリだ。
千早が何故かラテン系の人たちに異様にモテルのはアメリカででも同じ事実なので、否定はしないけれど……。千早としては、彼らに限らず自分の好みのタイプでない人たちにモテても、全く嬉しくない。それどころか大迷惑だと思う。
まあ、モテルことに関して言えば、今ココに居る4人とも他人事ではない。
とび抜けた身長と元超有名バスケ選手であるワイルドな男前、フレドリック。そのフレドリックには負けるが、スラリとした長身で優秀な頭脳と物腰穏やかなハンサムのポール。我儘と気まぐれさが玉に瑕だが、小柄でパワフルな上にそこら辺のアイドルよりも可愛らしいジュリア。
そして、黒髪に青い目と云う東洋と西洋をミックスしたような不思議な魅力を持つ才媛、千早。
学内外での、そんな4人へのデートの誘い・ナンパの数は……推して知るべし、だ。
そんな彼らの中で、今回は偶々《たまたま》千早がターゲットになり易い場所に来ている、と云うだけのことなのだった。
午後3時半。いい加減ビーチで遊び疲れた4人は、早々に海から引き揚げて、来た時に通った露店街をひやかすことにした。
迷子になるといけないので、一応集合場所を来た時にタクシーを降りた場所に決め、各自好きな店を見てまわることになった。
早速、ジュリアが率先して目を付けていた布やワンピースドレスのお店へと消えたかと思うと、ポールがが慌てて彼女の後を追って行った。フレドリックはあまり露店には興味なさ気だったが、何だかんだで色々な土産物屋を覗いてはウロウロしているようだった。
ホントに協調性の欠片もない奴らだな、と千早の口から苦笑が漏れる。
とは言え、千早も特に目的があった訳ではないので、適当に何軒かを梯子しつつウィンドウショッピングを楽しむことにした。
5〜6件ほど見てまわったので、そろそろ集合場所へ戻ろうかと思っていた時、背後からいきなり肩を掴まれた。
『オネエチャン美人だねぇ。どこから来たの?観光?』
振り返ると、男が早口のスペイン語で話しかけて来た。スペイン語は一般的な単語程度しか解らない千早には、チンプンカンプンだった。
千早が黙っていると、男は更に続けた。
『なぁなぁ、オレとどっか行かないか?美味いレストランしってるんだぜ。』
突然の事で固まっていた千早の思考が戻ってくる。と、同時に肩に男のなれなれしい態度に、千早の脳がナンパだと判断する。置かれたままの男の手にむっとして、低く口にした。
『マノ。(手)』
男は『え?なに?』と不思議そうな顔で千早を覗き込む。
『ス マノ。(あんたの、手)』
『オレの手が、何だって?』
一向に手をどけようとしない男に千早の苛立ちは募る。
「……肩の手、どけて。」
『何言ってるわっかんねーよ。そんなことよりサ。あんた、ホントに美人だよなー。なぁ、マジどっか行こうぜー。』
「……その汚い手をどけろって言ってんのよ、それに、答えは何にしたってノーよ。このナンパヤロー!」
ついに苛立ちが臨界点に達した千早は、男の手を払いのけて低く吐き捨てた。
『何すんだよ!』
「五月蠅い。さっきからペチャクチャペチャクチャと……こっちがスペイン語解らないの判っててわざとらしい……あんた、ウザいのよ!!」
お互いに言葉は通じていなくても、言っている内容は何となく伝わっているらしい。スペイン語と英語でもきちんと言い合いになっている。
『何だと、このアマ!』
男が千早の腕を取って無理やり引っ張ろうとしたその時――。
千早と男の間に一人の青年が立ちはだかって、男に向かってスペイン語で何か言った。
『俺の女に何か用かよ?』
彼が何を言っているのか解らないが、どうやら助けてくれているらしい様子に反射的に彼の後ろへ身を隠す。男と青年は二言三言話すと、男は何故か悔しそうな顔をしながらも黙って立ち去って行った。
青年は男がかなり遠くまで行ってしまうのを見届けてから、千早の方を振り返って言った。
野性の黒ヒョウみたいなしなやかさを持つ、綺麗な青年だった。彼の放つ空気に圧倒されて、一瞬眩暈のような感覚に陥る。
「あの……、ダイジョウブ?」
彼の英語にホッとして、千早の膝から力が抜けてしゃがみ込みそうになる。と、彼がバランスを崩して『うわっ』と口走った。どうしたのかと彼を見上げると、千早が彼の洋服をしゃがみこむ時に引っ張ってしまったのだった。さっき彼の背後に隠れていた時に、無意識のうちに彼の洋服を握り込んでしまっていたらしい。
「……ごめんなさい。」
慌てて手を離すと、小さく呟いた。自分の顔が赤くなって行くのが判る。
「いや……ノープロブレモ。」
あれ?英語はこれで良いんだっけ?などとブツブツ言いながら、青年は顎を摩っている。彼の様子に千早は思わず噴き出した。
「あはは!それじゃあ、スペイン語のままよ。英語はノープロムレムよ!」
やっと笑顔になった千早に、青年もホッとしたらしく同じく笑顔で返す。
「オレ、英語苦手で……。でも、この辺暗くなる、チアン良くナイ。早く帰った方がイイ。」
「そうみたいね。そうするわ。そろそろ待ち合わせ場所へ行かないとだし。」
「トモダチと一緒?」
「ええ。」
「そう。ならダイジョブ。」
「そうね。じゃあ、そろそろ行くわ。」
「デモ、キをつけて。」
「ありがとう。……あら、まだ助けてもらったお礼も言っていなかったわね。ごめんなさい。」
言うと、千早は彼の頬に軽くキスをしてフワリと微笑んだ。
「さっきは、ありがとう。本当に助かったわ。じゃ、また会えると好いわね。」
千早は小さく手を振ると踵を返して、小走りに他の3人との待ち合わせ場所へ急いだ。
残された青年の顔が真っ赤に染まっていたのには気づかないまま――。
いかがでしたでしょうか。
やっとメインキャラ二人が出会う所まで来ました。
これからも頑張って書きますので、楽しんでいただければ嬉しいです。