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El encuentro que se destina−運命の出逢い−(I)

今回、少しコメディー色強目な感じです。

シリアスなお話の筈なのですが……(汗)

楽しんでいただければ嬉しいです。

「運命」って言葉の意味を、初めて識った気がした。

そんなモノ、自分の力で幾らでも変えられる――そう、思っていた。

あの日、「運命」に出逢うまでは。




◆◇◆◇◆




翌日も、初春のオアハカは前日と同じくらい――それ以上に天気に恵まれた。気温が高く雲ひとつない快晴で、絶好の海水浴日和になった。

宿泊しているホテルにほど近いこじんまりとしたカフェで、千早・ジュリア・ポール・フレドリックの4人は少し遅い朝食をっている。

昼食はこの後出掛けて行く予定のビーチで食べるつもりなので、軽く済ませてからビーチへ行く準備をしようと云う事になったのだ。

にも拘らず、シリアルやフルーツサラダ程度に抑えている千早やポールをよそに、ジュリアとフレドリックは、山盛りのパンケーキにメープルシロップをこれでもかと云うほど掛ける――と云うか注いで、口いっぱいに頬張っている。直径6〜7cmほどの小さいものだが、一目で10枚はあるだろうと推察出来る位には大量のパンケーキを、だ。因みに、千早たちがの居るカフェは、バイキング形式ではない。


「……あの、ねぇ。」

あまりの光景に、一瞬固まってしまっていた千早は、恐る恐る口を開く。

「フレッドは兎も角……。ジュリア、あなたそれ全部食べられるの?……と言うより、2人とも甘くないの?」

言いながら千早は、パンケーキが味噌汁の具の様な状態になっている皿を指さした。

問われたジュリアは、小さく首を傾げて「なんで?」と言いたげな顔をしながらも、メープルシロップの海を泳ぐパンケーキを、フォークで口に運び続けている。

流石に、ジュリアの甘党ぶりを見知って居ても、衝撃は大きい。見ているだけで胸やけがしそうだ。

フレドリックに至っては、目の前の朝食を胃に収めることに集中しているらしく、千早の声など聞こえていないかのように、ひたすら口を動かしていた。まるで欠食児童のような食べっぷりに、ポールへ助けを求めて視線をやると、フルーツサラダをナイフとフォークを優雅に操って食している。

しかも、既にある程度の大きさに切り分けられている物を、さらに小さくしてからゆっくりと口元へと遣っているのだ。その仕草は、まるで高級レストランでアパタイザーを食べて居るかのような錯覚に囚われてしまいそうな程、上品だった。

千早の思考が、再度一瞬停止する。彼女の脳ミソが現状を解析するのを拒否しているようだ。


最早どこから突っ込めばイイのか判らなくなって、肩を揺らして大きなため息を吐いてから、無言でズプーンを手に取った。やっぱり自分の様な凡人には、彼らの様な上流階級や天才肌の人間は理解し切れないものだな、と思いながら……。


しかし、残念な事に、彼らと同じテーブルに着いている千早もまた、朝食を楽しむ客達の注目を浴びて居たのだ。能天気なジュリアと目の前の事に集中しているフレドリックはさて置き、そんな事実に気付かない千早こそが、ある意味一番の大物なのでは――と、実は自分達がカフェ内で浮いていた事に当然の如く気付いていたポールは、改めて思っていた。尖った尻尾を愉快そうに揺らしながら……。






「グラシアス、セニョール。(ありがとう、ミスター)」


運転手にタクシー代を支払うと、ポールが紳士的な態度で言ってから車を降りた。

ポールのこう云うところは尊敬に値する一面だと、千早は感じている。自分も見習わなければならないなと改めて思い、同じ様にドライバーに一言掛けてから、後部座席を後にした。


残りの2人――ジュリアとフレドリックは、とっくにタクシーから降りていたようで、通りに面して軒を連ねている露天を興味深気に眺めていた。

珍し物好きなジュリアはいつもの事として、昨夜は露天街には露ほどの興味も示していなかったフレドリックまでもが店先を覗いている。

どうやら、店主らしき中年男性の呼び込みに捕まってしまったようだ。少し困ったような表情で、こちらへチラチラと視線を寄越している。

いつも強気のくせに妙に気の好いところのある彼は、スペイン語が苦手なのも手伝って、店主のセールストークを上手くかわす事が出来ないでいるらしい。

かつての剛腕バスケプレイヤーも、カタナシと云ったところだ。


「ジュリア、フレッド、寄り道してないで行くわよ!」

見兼ねた千早が2人を呼び戻す。

フレドリックは、ややホッとした表情で店主に向かって千早たちの方を指さして、小走りで駆け寄って来る。ジュリアは店頭に並んだ色とりどりのエスニック風の布を名残惜しそうに一瞥して、しぶしぶと云った足取りで近づいて来ながら、一言。

「すっごくカワイイのがあったんだけど、買い物してってもいい?」

上目づかいで、おねだりモード。この笑顔、普通の男ならイチコロかもしれない……が、残念ながら千早は男性ではないし、こんな事で自分のペースを乱されていたらジュリアの友人は務まらない。

「超エスニックなの。シャナもオソロで買おうよ〜。」

「……今日の第一目的、何だったか覚えてる?」

「海!で、泳ぐ!!」

力いっぱい挙手して、ジュリア。

「先に買い物しちゃったら、目的果たす前に体力消耗しちゃうでしょ。」

「それもそっか〜。流石、シャナ〜。」

無計画なジュリアに呆れつつも、暴走する彼女を上手く諭して本日の目的の遂行を促すことは忘れない。それこそが、千早がフレドリックやポールに重宝されている理由なのだった。2人とも、決して千早本人に言う気はないけれど。





4人がやって来たビーチは、ホテルからタクシーで10分足らずしか移動していないと云うのに、まるでプライベートビーチの様な隠れ家的で観光客の少ない穴場だった。

唯一つ難点を挙げるとすれば、露店街の裏手から断崖絶壁沿いに延々続くのかと思われるほどに長い階段を、ひたすらビーチへ向けて降りて行かなければならないと云う点だ。

何段あるのか数えた訳ではないから正確には判らないが、千早など思わず香川県琴平市の金毘羅さんを連想してしまった……と云えば少しは分って貰えるだろうか。実際はそこまで長い階段ではないのだが、千早にはそう感じられた程……と云うことだ。

だからなのか(十中八九そうだと思うけど)、湘南や江ノ島のように芋を洗うが如くの海水浴客は皆無に等しく、ゆっくりと寛ぎながら泳ぐのには最適の場所だった。


「すっご〜い!超イイ眺めだね〜、ポール。」

「確かに。この眺めだけでも、来た甲斐があったかもね……。」

普段あまり運動をしないポールは、既に息があがっている。

「何言ってるのよ、ポール。目的はこの下の終着点。ビーチよ……。」

そう言った千早も、少し辛そうだ。

「そーだぜ。まだ半分も降りてないじゃないか……へばるには早いぜ。」

普段から鍛えているフレドリックは余裕綽々《よゆうしゃくしゃく》と云った風で、息切れしているポールと千早をからかう。

元気なのは太陽電池疑惑のジュリアと、まだまだ人をからかう余裕すら残っているフレドリックだけだ。


「……ちょっと休憩してもいいかい?」

半分ほど階段を下りた所で、先ずポールが降参した。勿論、千早は大賛成でうなずく。最早、体力の限界が見えて来ている2人以外に、否定権はない。

東屋あずまやと呼ぶには少々無理があるような、小さな腰掛け岩が数個並んだ階段脇。そこに座って、4人は持って来たペットボトルのミネラルウォーターをで喉を潤しながら、眼下に広がる海を眺めることにした。


「は〜、生き返ったよ。」

「だねぇ。私も……」

体力ない組は、休憩を謳歌しているようだ。

ふと、背後から「ジー、パシャ。ジー、パシャ。」と云う不思議な音が聞こえてくる。

振り返ると、ジュリアとフレドリックが動き回って海やら海岸やら降りてきた階段やらをデジカメで撮影していた。


この2人は「疲れる」と云う言葉を知らないんじゃないだろうか……と感じて、小さくため息を吐いて正面を向き直る時、ポールと目が合った。顔を見合わせた2人は、思わず噴き出す。正に以心伝心――と云った2人だった。


この章の次話で、やっとメインの二人が出逢います。

ですので、暫くは少し早いペースでUPして行きたいと思います。

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